布スライム
グレンは首を傾げながらも、ふと視線を足元へ落とした。
「ん?」
赤い?点々と赤い?
「……サリー、ちょっと」
「んぅ?」
呼ばれたサリーは、もぞもぞとしながらグレンの前へ歩いてくる。
「ちょっと触るぞ」
そう一言だけ告げると、
グレンは今朝履かせたばかりの、麻のサンダルをそっと脱がせた。
グレンの眉がぴくりと動く。
「……すまん」
「?」
「俺が悪かった」
「??」
サリーはきょとんと首を傾げる。
「お前……痛くなかったのか?」
何を言われているのか、さっぱり分からないサリーだが、
足のかかとは真っ赤になり、水ぶくれが潰れていた。
見事な靴擦れだった。
「ありゃあ、それは酷い靴擦れだねぇ」
「ばぁさん。軟膏と布でできた靴と靴下を頼む」
「それなら、これかねぇ」と、
柔らかな布で作られた室内履きのような靴に薄手の靴下だった。
グレンは受け取ると、そのままサリーの足に軟膏を塗り
「サリーこれを履いて」といった瞬間
「えぇぇぇぇっ!?」
店中に響く声だった。
「なに!?また履くの?え、今度はなに!?」
「サリー?」
「いらない!!本当に意味わからない!!」
ぶんぶんと首を振る。
「なんで布がどんどん増えるの?
スライムなの!?分裂してるの!?」
「分裂?」
「服の下に布!」
「下着な」
「靴の中に布!」
「靴下だ」
「その布の上にまた布!」
「靴だな」
(わからなぁぁいい!!何が違う?!何が違うのぉぉぉ
管理者、これをわからないと終わらないの?機微ってムズい!!)
「布が増えるシステムとかいらないから!」
グレンが何度目かのフリーズをしていると
ばぁさんは肩を震わせ、とうとう吹き出した。
「ぶっ……あっはっはっはっ!」
ばぁさんは涙を浮かべながら笑い続け、
グレンは深いため息をついた。
(……ギルドへ急ごう。)
本気でそう思った。
☆ ☆ ☆
「サリー、足痛くないか?」
「痛くないよぉ。薬ありがとうーー」
「おう」
「もう少しでギルドだ。そういえば、お前ギルドは知っているのか?」
「知ってるよ~。ギルドに行けば仕事はある。仕事するとミルク飲める。褒められもする」
「……ギルドの認識はまともなんだな」
「グレン」
「なんだ?」
「私はまともだよ」
グレンは黙ってサリーを見た。
サリーも黙ってグレンを見返す。
決して、分かり合うことはない2人だった。
「まぁ、いい。ギルド行くぞ」
諦めたのはグレンだった。
ギルドへと向かう道中、グレンは、サリー専用のお出かけ用カバンを見た。
買ったばかりの下着数枚と靴下を詰めて持たせた。
お前のカバンだよって言えば、「いいの?」と何故かカバンはすんなり受け入れた!
何故だ!!
だが、下着と靴下はめちゃくちゃ嫌がった。
『1枚あればいい』って……無理だろよ……
歩きながら、サリーがそのカバンを開けたり閉めたりしているのが目に入る。何度もフタを開けては、中の様子をじっと覗き込んでいる。
(やはりなんだかんだ言っても女の子か、気になるんだろうな。もう少し大人になったら、可愛いのを自分で買ってくれ)
「サリーどうした?気になるのか?」
「分裂を見張る」
「……えっ?なに?またなんか変な言葉が聞こえたけど?」
「ヤバいよね!私には必要ないから増やしたくないの」
グレンは顔に手をやり、「もぅ、俺……むり」と心で泣いた。
「グレン?」
深呼吸を1度し、グレンは
「いいかサリー、布は分裂しない」
「知ってるけど!バグってるかもでしょ!」
「あーうん。サリーさん、とりあえずギルド行こうか。バグってなんだよ……誰か助けて……」




