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俺が悪いのか?

ぐぅぅきゅるるる、サリーのお腹の音を聞き、


「朝ご飯食う前に、顔洗って歯磨いてこい」

「うん」

(ご飯の前に、あの無駄な事をするのか……仕方ない。ご飯のためだっ!)


サリーはベッドから降りると、てくてくと洗面所へ歩き始めた。

グレンは、その素直な行動を見て固まった。


(なぜだっ?!?昨日の夜は、

『いらない』

『なんで?』

『やって』と言い、

挙げ句の果てには服まで脱いだ。

あれだけ大騒ぎしたやつが、一晩寝ただけで?)


(いやいやいやいや、ここまで変わるか?)


「おい」

「?」

「なんで行くんだ?」

「顔洗って歯磨きするからだよ」

「だから、なんで今日は素直なんだ?」


サリーはきょとんと首を傾げながら、


「グレンがして欲しいことなんでしょ?」

「まぁ……そうだけど」

「昨日、何回も言ってたよ」

「あぁ、言った」

「困る顔もたくさんした」


グレンの頭の中で、その言葉が繰り返された。

『困る顔もたくさんした』

(いや、確かにしていたが……)


「嫌じゃないのか?」

「嫌だよ?」

「嫌なんかい!」

「でも、グレンが困った顔で何回も言うし、やるよ?」


(待て待て待て、理由は、俺が困った顔で何回も言ったから?

それって……俺が嫌がることを、無理やりやらせてるだけってことか?

……あれ、そうなのか?いや、サリーの為だよな??)


「ねぇー、グレン、これーどうやるの?」


歯ブラシとタオルをブンブン回しながら聞いてくる。やる気はあるのか……?



(くっそめんどい事は、さっさと終わらせるに限る。出来る犬は違うのだよ!)

「ねぇー早くーグレンー」


意味もやり方も知らない。

嫌だけどやろうとしている。

……これって

「俺が悪いのか?」

「グレーン!!!」

「あーーーっ! もう!」


頭をぐしゃぐしゃ掻きながら、グレンは洗面所へ向かった。


朝日が街を照らす。


「お腹すいたー」

「俺は胃が痛い……」


元気いっぱいに歩くサリーの隣を、

グレンは重い足取りで歩いていた。


肩は落ち。

背中には、見えない何かを背負っている。

まるで魔王軍との最終決戦に敗れ、

生き残った勇者のようだった。


「ねぇねぇ、朝ご飯まだ?」

(朝の散歩の後かな?

全く人間って好きだよねー散歩)


「もう少しだ……」

「ミルクある?」

「ある……」

「やったぁ!」


サリーは嬉しそうに両手を上げる。


(下着……歯磨き……風呂……どうやったら、

必要だと言えばわかるんだ?

むしろ、反対に何故わからないのだ?

しかもめちゃくちゃぎこちなかった。

なんだあの犬が水を触った感じのチョンチョン的なヤツは!)


「はぁぁぁぁ……」


自然と魂まで吐き出すようなため息が漏れる。

そんな二人が足を止めたのは、

マルタばぁさんの店の近くにある屋台だった。


「おっちゃん、おはよう」

「おっ、グレンおはよう。今日は……」


と、言いながら視線がサリーへ向いた。

元気ハツラツの少女と、目の下に濃いクマの男。

おじさんの顔は、何かを言いたげだが、

グレンは小さく頷きながら、


「……聞かないでくれ。俺は今説明する体力は無い」


それだけで全てを察したおじさんは、そっと目を逸らした。


「ご飯ーの匂いだー」

(うんうん。ここでご飯か!いいねー散歩大好き)


「おっちゃん、いつものヤツを2つで、ブラックと」

「ミルク!」

(人間になって便利なことは、ミルクの催促が簡単って事だぁ。便利〜)


「分かった分かった。ミルクは大でくれ」


数分後、焼きたてのパンに熱々のチーズとハム。

野菜たっぷりのスープ。

そして、大きなコップにミルク。


「いただきまーす!」


サリーは真っ先にミルクへ飛びついた。


ごくっ。


ごくごくごくごくっ。


「ぷはぁぁぁぁぁ!おいしいぃぃ!」


満面の笑みで美味しいを連発。

グレンはブラックコーヒーを遠い目で啜る。

「どうした? グレン、思い詰めて」

「おっちゃん……人生って、こんなに大変だったか?」

「朝から重ぇな!」


☆ ☆ ☆


カランコロン――。


心地よいドアベルが鳴り、マルタばぁさんは顔を上げた。


「いらっしゃ……おや、グレンじゃないか」


その少し後ろでは、可愛らしい少女が店内を物珍しそうに見回している。


(はぁん、あれが昨日、女の子の必需品を色々買っていった相手かい……)


グレンは足早にカウンターへやって来た。


「ばぁさん、頼みがあってきた」

「どうしたんだい? 昨日の商品はお気に召さなかったかい?」

「いや……めすとかめさないの問題じゃなくて、もっと重大な事なんだ」


「……重大なこととは?」

「し……」

「し?」

「……し、下着を履いてなかったんだ」

「え? あの嬢ちゃん、下着履いていないのかい?そりゃまぁ、また重大だね」

「頼む!俺はもうわからないんだ」

「あははは! そりゃあ、あんたに女の子の下着を選べってのは、あはは!」


バンバンとグレンの腕を叩きながら、


「いいよ。私に任せな」

「助かる。本当にありがとう」

「さて、あんたにサイズなんて聞いてもわから……」

グレンは両手を小さく上げ、顔を横にブンブンふった。

「あーわかってるわかってる。

さて、自分で選ばせた方がいいね。

お嬢ちゃん、こっちおいで」


サリーはその場を動かず、

店内を物珍しそうに眺めていた。

(なんか色々あるけどここはなんだろ? 

鉄の臭いも、変な薬草の臭いもしない店。

基本いつも外だったからな。覚えるならこれからでもいっか)


「お嬢ちゃん、こっちおいで」


呼ばれたサリーは、グレンの方へ向かった。


「お嬢ちゃん、名前は?」

「サリー」

「サリーちゃんか、好きな色とかあるかい?

まぁーそこまでウチも種類は豊富ではないけどこっちへおいで」と、

カウンターから出てきて、下着が置いてある一角へ向かう。

サリーはグレンを見ると、頷いて同意している。

(あの人についてイケと……了解。出来る犬はごねない。簡単簡単)


「サイズはこの辺でいいかね?」

「なにそれ?」

「ん?下着だよ?サリーちゃんが着る」

「えっ?それ着るの?」

「そうだよ」

「いらないよ。私これ着てるから」と、

自分の服を軽くつまんで見せると、


「いやいや、その下に着るんだよ」


グレンは思った、やっぱり俺は、間違えてない!!

絶対にサリーが変なんだ!

あぁぁぁぁ、良かったーーと心の中で嬉し泣きしている一方で、


「いらない。なんでそんな小さい布着るの?」

「必要だからだよ、あんた今まで下着を

履いたことないなんて言わないよね?」


サリーは思いっきり眉間にシワをよせ


「ないよ!この服だってご飯出るからって着たのに!

だからその小さいのはいらない」

「はぁ??…………グレン!この子はなんなんだい?」

「ばぁさん!頑張ってくれ!」


(まただ、またグレンは困った顔してる。

もう!犬の時も今も主人の困った顔は嫌いなのに

……それにしても……なんだこの小さい布は?

防御力とかあるの?硬そうに見えないけど……)


サリーは触ってみる。


(やわ!なんでだよぉぉ

こんなに柔らかくて、小さかったら防御力ゼロ)


「ねぇーこの小さい布が何の役に立つの?」

「衛生面だ!!」グレンが叫ぶ


眉間にシワを寄せるサリーだが、


「ねぇーグレンはこれ履いて欲しいの?」


コクコクコクコクと縦に全力で首をふるグレン。


「わかったよ……なんだよぉこれ……」

サリーはそのまま下着を履いた。


「ちょっと!なにしてるんだい!!

ここで履く……こりゃまた凄い子だね。

しかも靴脱がないで……」


サリーが不思議そうに、もぞもぞと体を動かしている間、

ばぁさんはグレンの元へ移動し、小声で尋ねた。


「グレンこの子本当になんなんだい?」

「これからギルドで見て貰う」


「今のを見ただろ?早くした方がいい。

記憶喪失なのかい?」


「多分……違うとは思うが、わからない。

その線でも調べて貰う」


「あーそうしな。素性がわからなすぎるし、

多分この子どっかのお嬢様かもしれないよ」


「そうなのか?」

「ここで何十年商売してると思ってるだい。

まず、手を見てごらん、爪は綺麗に整えられて、

手も真っ白。シミどころか傷ひとつない。次に無臭だ」


グレンは言われてみて、気付いた。


(そうだ……サリーは臭わない。

あれだけ何も知らないのに、汚れていない?!)


「だが…靴を履いたまま下着を履くって??」


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