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屋根があるって幸せ~

男は家の玄関を開け、ぶっきらぼうに

「……入れ」

「おぉ!!」


男は、頬をかきながら、

「悪いな、男の一人暮らしだから、

掃除も適当だし、散らかってる。

期待するような家じゃねぇよ」


言い訳のように呟くが、


「やったぁぁぁぁ!!

屋根だぁぁぁ!!今日は道路じゃない!

森でもない!しかも追い出されない!

あったかぁぁい!床、乾いてる!」


「最高ぉぉぉ~~!」


玄関で両手を上げ、大喜びのサリーを見て

男は固まった。


「……玄関だぞ?そこまで嬉しいのか?」


「うん!」


サリーは満面の笑みで頷く。


「寝る場所って大事!安全って最高!

今日はゆっくり寝れそう!」


その笑顔を見た瞬間。

男の胸が締め付けられた。


(……俺)


視線が自然とサリーへ向く。

裸足。

そういえば、最初から靴を履いておらず、

服も濡れていたのは雨とかの問題じゃなく、

店先で眠っていたら水をかけられたからだと聞いていた。


(俺は、この子が水に濡れてて腹をすかしてることばかり気にして、

靴に気を回すことが出来ていなかった。

こんな小さい子が、裸足で街を歩いてたのに)


一人、勝手に落ち込む男と、

そんなことなど知らないサリーは、


「うへへー、いい環境~」


尻尾があれば、当然、今頃ぶんぶん振っていただろう。

男は苦笑し、小さく息を吐く。


(……ギルドへ行った帰りだな、靴を買おう

服はもう少し必要だな、歯ブラシも必要か。

タオルや毛布も新品の方がいい)


(あとは、何が必要なんだ?

女の子は、トリートメント?リンス?

必須だとギルドの受付嬢が言っていたような?)


考えれば考えるほど増えていく。


「俺、少しギルドへ行ってくる。依頼の納品がある。

すぐ戻るから、それまで家にいてくれ」


「うん!」


「ミルクは冷蔵庫に入れておけよ」


男はそう言い、静かに扉を閉めた。


「ん?冷蔵庫は開けると怒られたぞ?

まっ、勝手じゃなきゃいいのか」


サリーの言葉は誰も居ない部屋に溶けた。



☆☆☆☆☆☆


ギルドの扉が開く。


中へ入ってきた大柄な男を見て、

受付嬢はすぐに気づいた。


「グレンさん」


ソロのAランカー


数多くの魔獣討伐とダンジョン踏破経験者。

ギルドでも知らない者はいないAランカー冒険者。

鋭い眼光、厳つい顔立ち、そして巨体。

無表情で佇むその姿は、

初対面の者なら声をかけることをためらう威圧感を放っていた。

しかし――

受付嬢にとっては、少し心配になる冒険者である。


「依頼の納品ですか?」


「ああ」


グレンはギルドタグと依頼品を差し出す。


「査定を頼む。依頼料と買取はいつも通り、

いや…すまんが今回は金貨でそのままくれ」


「口座ではなく、直接ですか?」


「あぁ、ちょっと必要になってな。

それと……少し聞きたい事があるんだ」


グレンが珍しく言葉を濁した。

受付嬢は、警戒レベルを上げ、


「グレンさんが、私に聞きたいことですか?」


(怪しいです。

グレンさんが急にしゃべりました!

金貨で持ち帰りです!

副ギルド長を召喚します)


受付嬢は、カウンター下にある緊急ボタンを押しながら、

相手を安心させる微笑みで


「私で、お手伝い出来る相談なら喜んで」


グレンはホッとし、その緩みでつい


「女の子を拾ったんだが、必要な物がわからない」


受付嬢の手が止まる。


「……グレンさん」


「なんだ?」


「確認です。その女の子は、正規店での購入ですか?」


「はっ?」


「正規店以外ですとAランカーでも最悪はランク剥奪まで……」


「まて!購入では無い!!」


「では、拾ったというのはどういう事ですか?

人を拾う?あまり使われない単語です」


「……あっ、いや、まて、本人が買って欲しいと」


「グレンさん、不潔です」


「誤解なんだ!買ってない!寝床を貸しただけなんだ!!」


「寝床、ですか」


「ああ」


「本人の許可は当然ありますよね?」


「向こうから言ってきたんだ!」


「相手に責任を押し付けるタイプですか?」


「違う!!」


「おいおい、どうしたんだ?受付の前で大きな声出して」


受付の後ろから出て来たのは、


「副ギルド長」


「なんだ?」


「グレンさんが……」


 受付嬢がちらりとグレンを見る。


「女の子を拾ったそうです」


 副ギルド長はグレンを見る。


「へぇ」


「違う」


「まだ何も言ってないが」


「顔に出ている」


副ギルド長は楽しそうに笑った。


「まぁーわかった。とりあえずお前さん、査定中なんだろ?

向こうでお茶でも飲みながら話を聞くよ」


副ギルド長とグレンが立ち去ろうとした時、

受付嬢は

「グレンさん、必要な日用品リストは、精算時にお渡ししますね」


「あぁ、助かる。よろしく頼む」


軽く手を上げたグレンは、副ギルド長と席に座った。


「それで?グレン、お前さん何処で拾ったんだ?」


「店の前だ」


「店の前ね……」


「腹を空かせていた」


「うんうん」


「店主に水をかけられていた」


「水かー」


 副ギルド長は黙った。


「……」


「……」


「グレン」


「なんだ?」


 副ギルド長は首を振る。


「今の話だけ聞くと、お前はやっぱりソロ向きだよ」


「何故だ?!」


「いや、お前それ、まず、女の子拾ったからの始まりで、

『店の前』って聞いたら普通は花街か奴隷商だぞ?

その次にお腹空かせてたなら奴隷商寄りに傾くが、

水かけられてたら、躾中かなとなる。

そうなると、花街か……

しかし、寝床を貸して、家にいるならどっちでもないなと、

俺だからわかってやれる」


「!?!」


「だから、お前はソロ向きなんだよ。

お前はもう少し、人の機微を知った方がいい」


何も言えず黙るしかないAランカー。


「あと、お前さん、基本、人と馴れ合わないだろ?

それも拍車かけてるんだよ」


「仕方ないだろ!相手が逃げるんだから」


「まぁー不憫だよな……クック」


「もぅいい、とにかく問題はないな?」


「うーん」


「なんだ?何がある?」


「うーん、実はな、報告で昨日牢屋に変な女の子が1泊してるんだ」


「ん?変な女の子が1泊?」


「そう、しかも門番が止めた理由が、全裸」


「はぁぁぁぁ???」


「本人は無自覚。看守の報告だと、服よりご飯だと」


「……」


「グレン……目が泳いでるぞ」


「いや、まさか?えっ?裸って……

どういう事だ?だから裸足だったのか?」


「釈放理由は、その子に犯罪歴なし、

奴隷登録もなし、言葉には訛りなし。

暴力跡も鞭痕もなく、綺麗な身体。暴れてもいない」


「…………まさか?」


「多分な。そこでだ、お前さん明日、その子連れてきてくれないか?

一応こっちでも犯罪歴等の確認をしたいのと、

身分証すらないなら必要だろ?」


「あっ、あーそうだな。だが、あいつそんな素振り全く

……いや、俺は何を見てたんだ」


「あーあとお前、その子の名前は?」


「………………」


「機微以前に、そこからなのかよ……」


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