全賭けオールイン! 私を飼ってください
私はご飯を堪能し、ホッと一息ついたころで、目の前の男から、
「おまえ、これからどうするんだ?」
「?」
「いや、仕事だよ。仕事。働かないと食べていけないだろ」
仕事
(そうなんだよなぁ、この身体になる前は、
従魔ギルドやら流れの野良犬で生活が成り立っていたが、
今の自分に何ができる?現在、魔力残量はゼロに近い。
二本足だから走るのも遅い。
狩りはできるのか?牙がないから噛みつけないよね?
嗅覚も落ちてる感じがする……
危険を察知するのは問題ないけど、んーなんか全部難しい感じかな?
この身体って)
「役に立たない」
「……」
しかし、このつぶやきが男にとって気にすることだとは思ってなく
私は気にせず考え続けていた。
だが、問題はそこじゃないんだよ。
ミルクは必ず欲しい。
サリーはちらりと男を見ると、なぜか固まってる男がこちらを見ていた。
目の前には、先ほど発生したご飯イベントの男。
顔面偏差値……B
これは、主人公ではない。
当然、世界の命運を握っている感じもしない。
体格も良し。主人公のアイツらは基本ヒョロってるしな。
総合結果危険度: 低
選別完了
よし、ロックオン!
「ねぇ?私のこと飼う?」コテンと首を倒した。
「…………え?おまえ……今、何て言った?」
(これも難しくなってるのか!?
犬の時はクゥーンで見上げてからの首コテンで基本いけたのに?
なんだ、人間ってハードル高いなッ!)
「だから、私を飼う?」
「……」
(俺の聞き間違いではない。
この少女は、知らない男に自分を"買え”と言ってきた。
年頃の子が、そんな言葉を自然に口にする。
それが、どんな環境で生きてきたら出てくるのか。
食べるために、生きるために)
俺は小さく息を吐き、
「そうか……大変だったんだな」
(ん?まぁ確かに大変……か?!
服を着てもご飯は出ないし、寝たら水をかけられた。
管理者は、『人間の機微を学んできなさい』
ってか、そもそも、犬の私に機微って必要か?
特典が、文字の読み書きなのもズレてる。
最近の異世界転生では、デフォ仕様じゃん。
特典でも何でもない。
必要なのは、ミルク飲み放題。
三食ミルク付き、昼寝し放題。
そっちだろ!!!
管理者は、犬を飼ったことがない。
改めて言おう、管理者センスない問題。
目の前の男は私を困った顔で見ている。
知ってる。飼うのって葛藤するよね?!
うんうん。多くのご主人はそうだよ。
う~ん、アピールポイントは何だ?
とりあえず、押してみるか!)
「……」
「で、飼ってくれるの?」
「おまえな……知らない男に、そんなことを何度も簡単に言うな」
「なんで?」
「自分をもっと大事にしろ」
(大事にしてるよってか当たり前、自分を大事にしないでどうする!!
ご飯をくれるのは、基本悪い人間じゃない。
顔面偏差値Bは絶対主人公ではない。
世界の命運も握っていないは危険度低め)
「ちゃんと選んだよ?」
「……はっ??お、おまえ、俺には幼女趣味などない!!
俺を変態だと思っていたのか!?」
(私は目の前の男が何を言ってるのかわからない、変態とは?
ご飯くれる、寝る場所くれる、それだけしか望んでないぞ?)
「飼うだけなのに?人間って、本当にめんどくさい」
小さく呟きながらも、男を見ると固まっていた。
(なるほど、これは無理なタイプか。
与えてはくれる。でも飼うことはできない。
そういう人間も多い。
優しいけど、飼えない人間はいる。
理由も様々だ。家の問題、生活の問題あとアレルギーとか)
「まぁ、仕方ないか、ご飯、ありがとう」
「え?」
「じゃあ、次探す」
「待て」
立ち上がった私に、男が慌てて手を伸ばし、私を座らせた。
「いや、違う!」
「何が?」
「その……」
(確かに俺には幼女趣味などない、変態だと思っているのかと、少女に大声でいう事ではない。
いや、否定するにしても普通に言えばいいだけなのに)
「違うんだ、俺は……」
いかつい顔に大きな体。低い声、鋭い目つき。
いつも子供が泣いて逃げる。小さい動物ほど警戒し、近づけば威嚇される。
悲しい、本当はただ……)
「撫でたいんだ」
「ごめん、毛が無くて」
「……えっ?」
その瞬間、周囲の視線が集まったのを感じた。
「……」
「……」
完全に犯罪者を見る目の食堂の人々と止まる時間。
「ちょっと通報した方がいいかしら……」
「ちょっ!ちがう!!俺はAランカーだ!!犯罪者じゃない!!」
とっさに両手を上げ、さらにはギルドタグをだすが、
「じゃあね」と、サリーが歩き出す。
「待て!!お前はいくなってか、どこに行くんだ!
いや……その……もう大丈夫だろ?」
「何が?」
「いや、俺が犯罪者じゃないって分かっただろ?」
(この目の前にいる女の子は、水をかけられ、腹を空かせて、
それでも平気な顔をしていた……放っておけない。
だが、「買う」その言葉だけは、どうしても俺には無理だ!
女の子を買うなんて。
いや、もう十分幼女趣味だと誤解されている気がする。
だが、何もしなくても買うなって言ったらダメだ!
周囲の視線は完全に犯罪者を見る目だった。
違うんだ、俺はただ、この子を助けたいだけだ。
でも、どう言えばいい。
「家に来い」は違う、やばい匂いがする!
「面倒を見る」でも1歩間違えたらアウトだ!
悩みに悩んだ末に、
男は、精一杯無骨な言葉を選んだ。)
「……寝床ならある」
「え?」
男の心臓が跳ねる。
しまった、やっぱり伝わらなかったか。
「いや、その……雨風をしのげる場所はある。食事も出す」
「じゃあ、最初から言えばいいのに」
「え?」
「なんだよぉぉぉ」
サリーは頬を膨らませながら、
(飼えないっていうから、無理な人かと思ったら、飼えるんじゃんかよ!)
「なんだよ、この無駄な時間!」
「女の子が無駄とか言うな!!」
「じゃあ行こう!」
「え、あっ、おい!」
ふふん、とりあえず玄関に足を入れたら寝床確定~
男が慌てて後を追ってきた。
(あっ、ミルクは大事だから確認しないと)
「ねぇ、ミルクはある?」
「……ミルク?」
今日一日の記憶が脳裏を駆け巡る。
『俺には幼女趣味などない!』
『撫でたいんだ』
食堂中から向けられた、犯罪者を見るような視線。
(胃が痛い……いや、かなり痛い……)
男は慎重に、慎重すぎるほど慎重に口を開いた。
「……牛だな?」
「?」
「牛のミルク、だな?」
「違うよ」
(違う?違うって何が違う!?)
「羊だよ」
「……へ?」
「今日飲んだの、多分あれ羊!めちゃ美味しかったぁああ」
「そうか……頼むから、今後は最後まで言ってくれ」
「?」
疲れきった男は、今日だけで寿命が三年は縮んだ気がした。
これなら魔王討伐の方がどれだけ簡単なことか
もう家に帰りたかった。
ギルドへの納品なんて、明日でいい。
だが、『こんな期待してます!』
そんなキラキラした瞳を向けられてしまえば、
「……ミルク買いにいこうか」
☆☆☆
「うわあああ!何ここ?なんでこんなにミルクだらけ!」
(ミルクの楽園、楽園はここにあったのか!)
「好きなの買いなさい」
「えっ!? 本当に!?」
「あぁ」
(このご主人、当たりだ!好きなの選んでいいなんて、なかなかいない!)
嬉しさのあまり、ペロッと、癖で男の頬を舐めた。
ガチン。
バタン。
店内に倒れた音が響く。
「旦那!!おい、誰か救護ギルドに連絡しろ!
店中で死なれちゃー縁起わりー旦那!死なないでください!」
(えっ?なんで?え?寿命なかった系?
えーーまた、ご主人探しーー?)
「だ、大丈夫……だ」
(あっ、生きてた。良かった)




