ただ飯は最高ですが、呪いの呪文
髪から水をぽたぽた垂らしながら、歩く。
ギルドまでの道はなんとなくわかるが、なんだか気が重い。
「はぁ…、人間ってめんどい」
「おい」
とぼとぼ
「おーーい、そこの水浸し」
とぼとぼ
「おい!!」
「ん?」
肩をぽんっとつかまれ、ゆっくり振り返った。
そこには身長の高い男が立っていた。
腰には剣を下げ、使い込まれた革の防具を身につけている。
ひと目で冒険者だと分かる風貌だ。
「お前、なんでそんなに濡れてる?」
「水かけられた」
男は少しため息をつくと、腰の袋からタオルを取り出した。
「ほら、使え」
「いいよ、歩いてたら乾くし」
「風邪ひくぞ」
「へーき」
「へーきじゃない」
そう言うと、男は頭にタオルをかぶせた。
「わっ」
ごしごし、ごしごし
「ちょっ、へーきなんだって」
「黙ってろ」
(乱暴だけど、どこか手つきは優しい、あっ!撫でられてる感じだ。
悪くないなでも。でもこの布って、色々なご主人が毎晩自分を濡らして拭いて、
また次の日も濡らして、『お風呂は最高』と言ってたやつだよな。
お嬢様のところでも毎晩洗われてたけど、本当意味わからん)
男はタオルを離し、満足そうに頷いた。
「よし、これで少しはマシだ。」
(そして、今は寝ていたら水ぶっかけられて、違う人間が拭いてる)
「人間ってやっぱり変」
「そうか?」
「うん。濡らす人と、拭く人が別なんだもん」
「ははっ!確かに、それはそうだ」
男は笑いながら、最後の水気を拭き取る。
ぐぅぅぅぅ……
サリーのお腹が鳴った。
「お前、腹減ってるのか?」
これは!私の長年の経験が告げている。
濡れていた。腹が鳴った。
そして、人間がタオルを出した。
(この流れは――きたかも!ここで「飯でも食うか?」が来る!
間違いない、優しい人間がご飯くれるイベ!)
「俺も今から飯だ。一緒に食べるか?」
(来たぁぁぁ!!やっぱり!!この展開!)
「食べる!!」
「くくっ、お前返事が早いな」
(あれ?でも私、今人型だよね?)
「あれ?私、働いてないよ?」
(そうだよ~さっき先払い分は食べた……それで、働くためにギルド行こうと)
「看守さんが言ってたんだよ。働いて食べろって。
だから、私ギルド行こうと思って」
(服無いだけで、1晩ご飯無し。先払いは済んでる。働いていないから、ダメなやつだよね?)
「だから、ご飯食べられない」
(あーー犬の時は、鉄板イベントだったのにぃぃ!とりあえず、ギルドに行こう)
「……いや、それは……お前……わかった。
今は、そんな心配しなくてもいい。今回は、俺のおごりだ」
「おごり?」
「そうだ」
(さっきは食べるなって言われた。
今は食べろって言われた。人間って更新が早い。
たった数歩、歩いただけで人間のルールは変わる?)
「そうか!これが人間の機微ってやつか!!機微ゲッチュウ!案外早く終わったな~」
空を見上げて私は報告したのに、
「お前何言ってんだ?」
「あれ?」
「とりあえず、行くぞ」
あれ?機微は?犬に戻れるのでは??違うの??
サリーは首をかしげたまま、とりあえず男の後を追った。
着いた食堂は、賑やかだった。
「ほわ~お!すっごくいい匂いする!」
キョロキョロ、スンスン。
鼻が勝手に動く。
犬だった頃は、いつも店の外だった。
中から漂う匂いだけを嗅いでいた。
「ここは、日替わりの一品しかないが、
味と量は保証する。うまいぞ」
「うんうん!!すっごくいい匂い!!」
「お前、よだれ……まぁいい話は後だ。
とりあえず、食え。くくっ」
「いただきます!!
タダ飯だぁぁぁ!!最高ぉぉぉ!!」
ゴンッ!!
「痛っ!!」
男の拳がサリーの頭に落ちた。
「『タダ飯』って言うな!これは人の好意だ!感謝して食え!」
「なるほど!覚えた」
「そうか、わかればいい」
「ただ飯、これは危険な言葉。言うと人間が殴ってくる」
「違う。感謝を覚えろ」
私は、こくこく頷く。
「了解。タダ飯は……呪いの呪文」
「違う!!」
食堂に男のツッコミが響くと同時に、食堂から笑いが起きた。
「お兄さん、苦労してんな」
「かわいい子なのに、変な子だね~」
「ははは!」
「騒がせてすまんな」
周りに一言言った後
「ほら、冷めるぞ。食え」
「美味しい~~」
(とりあえずご飯食べれて、しあわせ~)




