プロローグ
「あれ、檸檬残ってるじゃん」
「うん。唐揚げに付いてきてたけど、使わなかった」
「えー。じゃあこれどうするの?」
「どうって……。残すけど」
「だったら、頂戴」
「いいけど。何に使うの?」
「何にも使わないよ。食べ物なんだから、食べるに決まってんじゃん」
「ええ? 檸檬をそのまま?」
「そうよ。食べたことないの?」
「ないよ。うわ、本当に食べてる。酸っぱくない?」
「酸っぱいよ」
「よく平気な顔してられるね」
「酸っぱいけど、美味しいんだもん」
「美味しい、かあ。ちょっと私にはよく分かんないかも」
「じゃあ、いつも檸檬はどうやって食べてるの?」
「そりゃ唐揚げにかけたり……。かけなかったり……。第一檸檬なんて、わざわざ買ったりしないしさ」
「うっそー!」
「じゃあ君はわざわざ檸檬を買って、それを輪切りにして食べてるってこと?」
「いや、そこまではしない」
「なんだそれ」
「調味料として添えられている檸檬はね、使われないまま廃棄される運命にあるの。私はその檸檬にちょっとばかし手を差し伸べて、最後まで美味しくいただいてあげてるって訳。つまりは、そう。――檸檬の神様」
「でもさ。檸檬って、そういう運命じゃん? 残してる人の方が多数派だよ」
「じゃあ、私はその檸檬全部をすくい上げて、助けてあげる」
「すごいね。アベンジャーズみたい」
「でもね。檸檬って、酸っぱいだけじゃないんだよ。全身を駆け巡る、この爽快感! この苦みも大人の第一歩よ。檸檬ってね、そうやって人を大きく成長させてくれるものなんだよね」
「寛大過ぎない?」
「じゃあ勉強がてら、檸檬丸かじり選手権でもいかが?」
「それは却下」
「えーっ」
「檸檬の神様だけ行ってくれば?」
「うん、そうする」




