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第6話 ヒロイン:柿森海香

 何故、柿森さんが病院に向かったのか、その理由は分からない。

 共通ルートの範疇では、どうやら語られないらしい。

 個別ルートでのみ明らかになる秘密なんだろうか……?


 ただ柿森さんのルートは津宮さん、鵜川先輩のルートをクリアしないと解放されない。俺はそこまで先を考えていないから、気になるけどどうしようもできない。

 それに攻略本の使用は自主的に縛っているし。


 病院に着いた。

 総合病院なので、凄い広い。

 奥まで足を踏み入れれば、普通に迷子になりそうだ。


 ふと思ったけど、ギャルゲーというか現実世界舞台のゲームって主人公はどこでも入れるような作りになってることはある。だけど、特に用事もないのに病院へ行くのは、普通に非常識だと思う。自分もその一人です……。


 この時間の柿森さんは会計を待っているらしいけど……。

 辺りを見渡すと……いた。


 青髪が目立つ。

 それだけじゃなくて、美少女オーラが凄いので、特に探す必要性を感じなかった。

 柿森さんは暇なのか読書をしていた。


 俺は柿森さんの方へと近づいていく。

 隣まで来たが、彼女は気づかない。その本、そんなに面白いのかな?


 だけど、ここで陰キャが発動してしまう。

 隣に座っていいのか……? キモがられたりしないか?

 そんな迷いが生んだ一瞬、柿森さんが顔を上げた。


「えっ? 物部くん……? どうしてここに? なにか病気?」


 柿森さんは首を傾げて不思議そうな顔をしていた。

 友達と会うような場所でもないし、そんな反応にもなる。


 そう言われるのは想定済み(攻略本さんが)だったので、俺は用意しておいた回答をスマートに出す。


「いや、ここの病院ってカフェが併設されてるじゃん。姉貴がそこのケーキが好きらしくて……買って来いって言われたから」


 入口付近に有名カフェチェーン店が併設されている。

 俺が住んでいる市内にはここにしか店舗がないため、そんなことも言える。


「へー。確かにあそこのケーキ美味しいよね。よく食べてた」


 よく食べてた……。

 何のこともなしに語る柿森さんだが、それはつまりこの病院に通い慣れていることを指し示すような発言に違いなかった。


「柿森さんこそ、どうしてこの病院に?」

「うーん……経過観察かな?」


 柿森さんは少し答えるのに悩むような素振りを見せた。

 デカい総合病院に来てるくらいだし、説明が面倒な事情があるのかもしれない。


「ていうか物部くん、立ってないで座りなよ。隣空いてるよ」

「あ、うん。失礼します」


 電車の椅子ほどは近くないけど、学校の机の距離感ではない。

 その距離の近さにちょっとだけドキドキしてしまう。


「それでさ! 物部くんのお姉さんってどんな人なの?」


 柿森さんは前のめりにそんなことを聞いてくる。

 いつもは机越しだから近さを感じないけど、今日は位置関係の都合で柿森さんの肌のきめ細やかさまで分かる。

 心臓が飛び出そう。


「な、なんで姉貴のことが気になるの?」

「わたし一人っ子だからさ~、お姉ちゃんとかお兄ちゃんとか羨ましいなって!」

 

 羨ましいか……?

 流石にこの年なら、その羨望が間違ってそうなのも知ってそうだけど。


「がさつだし、怒ると怖いし……ろくでも無いって」

「でも、良いじゃん! なんか家族が多いってだけで羨ましいよ……わたし、小さい頃はずっと病気で友達とかいなかったから。お姉ちゃんとかお兄ちゃんとかいたら、もうちょい楽しかったかなって」


 遠い目をして過去を語る柿森さん。

 いつも明るくて元気なのに、喋る勢いが段々と落ち着いたものになっていた。

 

 それにしても小さい頃に罹っていた病気があったのか……今は完治してるってことでいいだろうか。

 もしかして柿森さんの普段の明るくて好奇心旺盛な振る舞いは、そういう過去の反動なのかもしれない。

 

「俺、適当なことしかいえないけど、今からでも友達いっぱい作って楽しもうよ。それで昔の苦しさがどうにかなるわけじゃないけど」

「うん! だから今はそうしてるつもり!」


 さっきとは違った明るい笑みを浮かべていた。

 俺が変に励ます必要性はなかったみたいだ。


「じゃあさ、物部くん……折角ならわたしとちゃんとした友達になってよ」

「ちゃんとした?」


 俺の首が傾いてしまう。

 ちゃんとした友達、というのが何なのかいまいち分からないからだ。


「だって物部くん。わたしと接するの、少し避けようとするじゃん」

「……ま、まあ」


 そりゃね。

 ゲームオタクの俺が、超絶美少女の柿森海香と積極的になんて関われないって!

 だけど、柿森さんにそこまで言われて一歩引いたまま、なんてことはしたくない。


「わかった。柿森さんとちゃんと友達になるよ」

「やった! じゃあ、アプリの連絡先交換しよ」

「了解」


 そして、俺は柿森さんの連絡先を手にいれるのだった。


◆ ◆ ◆


 その後、俺は言い訳した通りにケーキをテイクアウトして帰った。

 家に帰ってきて、ケーキを皿に乗せて自室へ。


「じゃあ、まとめますか」


 『Timeless Days 完全攻略ガイド』の検証の結果を。

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