第5話 自習室で自習してると思うな
家に帰って攻略本を開く。
鵜川先輩とのイベント? があれだったのかを確かめるためだ。
第三自習室には何回か通わないと、鵜川先輩は主人公に明確な興味を持たない。
一度目の邂逅は悲惨な場合も。
と書かれていた。
一応、攻略本に従えばそれなりのイベントは起こるのだろうか?
それとも、彼女の素の反応か……? 判断が難しい。
とりあえず次の検証に移るとしよう。
明日の放課後は、柿森さんのイベントが起こるのかを調べる。
知っている相手だから、あんまり緊張しないで自然体で接せれるのは良いんだけど。場所がなあ……。
◆ ◆ ◆
放課後、珍しく柿森さんは一人で帰ることを選んだようだった。
普段なら友人たちと帰路に着くことが多い彼女なのだが、たまに一人でひっそりと教室から消えることがある。
どこに行くかは分かっている(攻略本による)とはいえ、後ろをついていくわけにもいかない。
丁度良いタイミングになるまで時間を潰そうと、昨日も赴いた第三自習室へ。
放課後すぐのタイミングなのに、鵜川先輩はもういた。部屋の端で分かりづらいが確かに椅子に座っている。自分のクラスの帰りのHRは滅茶苦茶早いので、それよりも早くいるなんてビックリした。
自習室で真面目に勉強! なんてするわけもなく、俺は携帯用ゲーム機を取り出す。昨日は先輩を慮ってイヤホンをしていたが、今回はしない。
スピーカー越しにゲームの起動音が鳴る。
勿論イヤホンを通した方が高音質なのだが、ゲーム機本体から出る音も好きだ。
そんなクソガキみたいなムーブして、ゲームをしていると鵜川先輩がこちらへとやってきた。ちょっぴり眉が寄っている。
「……うるさいんだけど」
「す、すいません! 思わず」
上手く言い訳をしようと思ったが、特に浮かんでこなくて「思わず」と言ってしまった。我ながらどういう屁理屈?
「思わずってどういう意味? もしかして私がいることに気づかなかった……?」
「まぁ、はい」
実は敢えてイヤホンを付けなかったんだけど、先輩は別の勘違いをしてくれた。
気づかれなくてよかった~!
「そうなのか……でも、集中できないから音を鳴らさないで欲しい」
「……集中できないって、先輩も勉強してるわけじゃないのに?」
「……!?」
ここまで若干のイラつきを見せていた鵜川先輩の表情が崩れた。
酸っぱいものを食べたように、顔の中心に表情が寄っている。
「ど、どうして気づいた?」
「昨日、この自習室でゲームをしていた時にチラッと見てしまいまして」
嘘です。
ゲームには常に真摯に向き合いたいので、よそ見は基本しない。マルチタスクで動けるほど器用でもないし。
ただ攻略本に書いてあったので知っていた。
あの本に偽りの記載がある可能性は排除しきれないが、この反応からして本当のことらしい。
「先輩、この自習室でゲームしてましたよね?」
まあ実際にはゲーム以外もやっている。
読書、クロスワードパズル、お絵かき……などなど、勉強以外のことをしているらしい。実際に見てないから、詳しいことは分からないけど。
鵜川先輩は肩をガクッと落とした。
さきほどまで寄っていた眉が、へなっとしてしまっている。
「あの席、死角だと思ってたんだけどなあ……まさか見られるなんて」
ここからがちょっとした勝負。
先のことを見据えても、ここで一つ手を打っておきたい。
「またこの自習室に来るので、良ければ一緒にゲームしませんか?」
「……それくらいなら、分かった。辱められるもんだと思ってたし」
「しませんよ! ましてや同じゲームをする人間に対してなんて」
攻略本の情報が仮になくて、鵜川先輩が自習室でゲームをするような人だと素で知ったとしても、そんなことをしたりしない。
自分も同じような不真面目人間だし、ゲームが好きだから。
「ふーん、良い子なんだね。じゃあ――今からやる?」
「いえ、そろそろ予定があるので帰ります」
「あっ!? そうなんだ……気を付けてね」
うつむく鵜川先輩。
なんか――思ったよりもガッカリしてる?
そんな子犬のような表情されると、一緒にゲームしたい気持ちがががが!
だけど、柿森さんとのイベントは特定の日にしか回収できないようなので。
「すいません、また今度!」
「じゃあね……」
俺はなるべく急いで自習室から飛び出した。
鵜川先輩に気持ちが引っ張られちゃいそうだったからだ。
さて、気持ちを切り替えて。
ここから目指すのは、柿森さんとのイベントがある場所。
総合病院。
なぜか、彼女はそこに用事があるらしい。




