第4話 ヒロイン:鵜川須美
俺はパン屋から家に帰って来た。
ただの検証だったのに、自分の挙動不審でバイトの面接を受けることになってしまった。折角の高校生活が! 家でいっぱいゲームできる時間が!
それは一旦置いておいて。
攻略本を確認しよう。
主人公はバイトを探していて、あのパン屋を見つけバイトをすることになる。と書かれていた。
なるほど、そういう流れなのか……って!?
「バイトするのが決まったわけじゃないけど、意図せず『Timeless Days』の主人公と同じようなムーブをしちゃってる……?」
攻略本にある会話とはちょっと違うようだが、流れは似ている。
ということはもしかして……。
俺が主人公に成り代わってゲームを進めることもできるってことなのだろうか?
これも検討した方が良いかもしれない。
また一つワクワクが止まらないままに、俺は自室でアクションゲームを始めた。
流石にRPGやギャルゲーをプレイする気にはならなかった。現実がゲームじみていそうなのに、他のストーリーに熱中できるはずもないから。
◆ ◆ ◆
翌日の放課後。
授業を終えて隣の席の柿森さんが伸びをしている。
ちょっとだけ手がぶつかりそうで、ドキドキする。
「はぁぁわ。物部くん、今日はなんかいつも雰囲気が違うね」
「そ、そう?」
もしかして色々と態度に出ていたのだろうか。
ここは上手いこと躱さないと。
「だって、心ここにあらずって感じで、授業も集中して無かったでしょ?」
「まあ、そうだね」
「なんかあったの? それとも、なんかあるの?」
柿森さんなら絶対にそう聞いてくると思った。
キャラクター紹介にも書かれていたが、彼女は好奇心旺盛ガール。生まれたばかりの赤ちゃんのように、世界が輝いて見えているらしい。
「両方かな?」
「え~! それって聞いてもいいこと? いや、聞きたい!」
身を乗り出してくる柿森さん。
女の子特有のいい匂いが香ってくる……ちょっと香水? のような自然ではない香りも混ざっているような気もする。
「……秘密で」
「え~ケチ! わたしと物部くんの仲じゃんか」
ぷんすかする柿森さん。
俺の反応から楽しいことだと読み取られてしまったのかもしれない。
「教えてくれないなら、次は数学の宿題写させてあげないよ~だ!」
顔を膨らせている様子は可愛らしいことこの上ないが、流石に死活問題。
普段家に帰ってからはゲームばかりしているせいで、どうして宿題を忘れることが多々ある。そんな時に、柿森さんを頼れないのは厳しい。
どうにかして彼女を宥めなければ。
そこでふと思いついた選択肢。
「じゃ、じゃあ、今度一緒に遊び行く……?」
実は柿森さんには何度も遊びに行かないかと誘われていた。
昨日のカラオケ行かない? もその一つだ。
「え、いいの!?」
「う、うん」
「やったー! だったら秘密でも許してあげよう! でも、約束だからね! 忘れてたとかは無しだからね」
「わかってるよ」
「よし! じゃあ、日程はまた後で決めようね! じゃあ、また明日」
柿森さんはスキップしながら教室から出ていった。
俺と遊びに行くのが、そんなにも嬉しい……? こんなゲーマー陰キャの俺と?
と、とりあえず危機は脱したし、俺も動こう。
◆ ◆ ◆
校舎の中を攻略本の地図を見ながら移動する。
どうして攻略本を頼っているのかといえば、俺がその場所に行ったことが無かったからだ。
目指しているのは第三自習室。
辺鄙な場所にあるせいで存在すら知られていない幻の自習室である。
ようやくたどり着いた俺は、深呼吸をして中へと入る。
昨日みたいに挙動不審にはならない。
一番端っこの窓際に座っている女子生徒がこちらを見た。
艶めいて見える長い黒髪。
まつ毛も猫みたいに長くて、吸い込まれそうになる眼。
目鼻立ちが整い過ぎていて、まるで海外の女優のよう。
身長はかなり高めで俺と同じくらい、放漫なボディがとても柔らかな印象。
こんな美人、ウチの学校にいたっけ? とそう思わせるくらいの圧倒的な美しさだと攻略本には書かれている。
それが鵜川須美。
本校に在籍する高校三年生の女子生徒であり、『Timeless Days 完全攻略ガイド』に登場するヒロインが一人。
彼女も攻略本の情報通りの場所にいた。
ここまで来たらあの本が何であれ、ある程度の事実によって書かれているのが明らかになってきたように思える。
ここからは更なる検証……攻略本の通りに動いてみるとヒロインたちはどういう反応をするのか? ということを確かめたい。
そこで俺は携帯用ゲーム機を取り出してプレイし始めることにした。
あの本の言うことが本当なら、ここでゲームをしていた主人公に鵜川先輩が話しかけてくるイベントが発生するらしいが……。
―二時間後―
いや、全然話しかけて来ないんですけど!
もうあと少しで下校時間のチャイムが鳴ってしまうんだが?
そんな時間帯になって鵜川先輩が机から立ち上がり、こちらに向かってきていた。
よしやっとだ!
先輩は俺の肩を叩いた。
イヤホンを付けていて、聞こえないと思われたからだろう。
「……もう帰るから忠告するけど、君のイヤホン音漏れしてるよ」
鵜川先輩はそれだけ言うと、自習室から去っていった。
確かに話しかけられるイベントはあったけど……これだけ!?
しかもその内容は――恥!
音漏れしてる、と注意される圧倒的な恥!
俺は先輩が自習室に帰ってくる前に、荷物をまとめて下校することに決めた。
明日はこうはならないようにしなければ……。
柿森さんとのイベントも確認しに行くのだから。




