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第43話 あたしを救ってくれた言葉を否定するな!

「次郎~学校行かないの?」


 姉貴がドアの向こうから声を投げかけてくる。

 でも、返事をする元気すら湧かなかった。


「はあ……全くしょうがねえなあ」


 姉貴は諦めたのか、ドアから離れていった。


「しょうがない……」


 現実的に取れる手段はとった。

 鵜川先輩からも連絡があったが、やはり目ぼしい資料は見つからなかった。

 

 柿森さんは死ぬ。


 それがどうしようもなく避けられない運命。

 研究資金は頑張ればどうにかなるかもしれない。

 だけど、研究が始まったところで時間は待ってくれない。


 どう考えても詰んでいた。

 足掻いても足掻かなくても、柿森さんが死んでしまう。


 どうしたら……という気持ちすら無くなっていた。

 あるのは、無力感。

 カーテンで日を閉ざしたこの部屋のように闇しか広がっていなかった。


 ベッドで蹲り過ごしていると、気づけば放課後の時間になっていた。

 思い出せば最近の放課後は波乱万丈だった。

 バイトしたり、自習室で遊んだり、海行ったり……楽しいことも沢山あった。

 でも、その前から柿森さんが話しかけてくれたり、良いことばかりだった。


 分かってる。

 御剣さんが言うように、柿森さんの傍にいた方がいい……俺の場合は彼女のやりたいことに協力することを続けるべきだ。

 でも、体が動かない。


 柿森さんの死という絶望の未来に、押しつぶされている。


 グルグルずっとそんなことを考えていると、家の玄関が開いた。

 お邪魔しまーすという声、それに二人分の足音。

 一人は松葉杖なんかをついてる……?


 姉貴が友達を連れてきた……?


 俺は息を潜めて二人の足音が姉貴の部屋に行くまで待つ。

 と考えていたのに、俺の部屋の前で足音が止まった。

 ドアをノックされる。


「先輩。あたしです。津宮です! お見舞いに来ました」

「……つの、みやさん?」

「入っていいですか? というか入りますね」


 津宮さんがドアの中に入ってくる。

 予想通り松葉杖をついていた。


「先輩……体調が悪いわけじゃないですよね?」

「…………」

「なにかあった感じ……ですよね? 話してくれませんか?」


 話す。

 自分でもどうしようもないが、俺は口を開いてしまった。

 それは助けて欲しいとかじゃなくて、ただ単に気持ちを分かって欲しかった。慰めて欲しかっただけだ。


「友達が……宝石病に罹ってた。調べるたびに状況が絶望的なことがわかって、俺は、俺が、無力なのが分かって……」

「……! そう、なんですか」


 津宮さんは驚いた後に、声のトーンを下げた。

 彼女なら分かるはずだ。

 お兄さんを宝石病で亡くしている津宮さんなら、猶更。


「もう何も考えなくていいように、楽になりたい。こんなバッドエンド確定のクソゲー世界で生きていたくない……ハッピーエンドなんて無理なんだ」」


 津宮さんはゆっくりと歩いて部屋の電気を点けた。

 そして、松葉杖を使って乱暴に俺の被っていた布団を飛ばした。


「……! な、なにを?」

「な、なんでしょう? からだが勝手に」


 勝手に?

 言っていることの意味が分からないが、津宮さんは眉間に皺をよせていた。


「あ、分かりました。あたし、怒ってるんです」

「ど、どうして……?」


 同じ絶望を味わった津宮さんなら分かってくれると思っていた。

 でも、違う。

 津宮さんは俺を怒りを込めた目で睨んでいる。


「なんで怒ってるか? 簡単ですよ。先輩がらしくないことを言っていることもありますけど、一番大きいのは――過去にあたしを救ってくれた言葉を否定したことですよっ!!」


 津宮さんは松葉杖で、俺の顔面を殴った。

 まさか殴られるとは思わずにもろに食らってしまう。


「先輩は、あたしがあの山で置いていってくださいと言っても聞かなかった。ハッピーエンドじゃないとか言って、あたしを助けた! しかもずっとハッピーエンド、ハッピーエンドって言って!」


 津宮さんの怒りはとどまることを知らない。

 

「ハッピーエンドしか許さない! 俺は自分のプレイスタイルに嘘はつけない! って言ってましたよね? じゃあそうしてくださいよ! 宝石病でその子が死ぬことが決まってたって、何もせずにここでうだうだしていることが先輩にとってのハッピーエンドなんですか!?」


 津宮さんは肩で息をしていた。

 そして最後の一発と言わんばかりに、もう一度松葉杖で殴ろうとしてきた。それを俺は上手くガードした。


「先輩……?」


 俺は自分の頬を両側から叩いた。

 ベッドから降りて、津宮さんに向かって頭を下げた。


「ごめん、津宮さん。確かに俺らしくない……ハッピーエンドのため、ハッピーエンドに近くづくために、やれることはもっとあると思う。だから、頑張るよ」

「……! そうです。それでこそ、あたしのヒーローです! やれることをやっていきましょう……でも、それでも泣きたくなったらいつでも呼んでください。胸くらいは貸しますから」

「……そうする」


 この先、足掻いても足掻いても柿森さんの死へのカウントダウンは止まらない。

 でもちょっとでもハッピーエンドに近づくまで止まらない。止まりそうになったら、恥ずかしいけど津宮さんに助けてもらうのもありなんだ。


「先輩、今日何も食べてなさそうですよね? 何か作っていきま――ってなんかあたしが表紙になってる本が置いてあるんですけど!?」


 喝入れられて少しだけ元気が出た。

 だが、同時に見られてはいけないものを見つけてしまったらしい。

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