第42話 奇跡が起ころうと無理
攻略本を最後まで読んだ。
だけど、特にヒントになることは書かれていなかった。
「でも、諦めたくない……!」
今までだって攻略本にない事態を最適解じゃなくとも突破してきた。
津宮さんのときだって、鵜川先輩のときだって。
「とにかく今は情報収集しよう」
まずはネットで情報を集める。
宝石病について色々なサイトを見て回り、AIなども使ってみるが結果は『対処療法しかありません』と成人を迎える前に亡くなることしか書かれていない。
ただ、これは日本国内での情報が主のはず。
海外では研究が進んでいる可能性だってあるはずだ。
でも、俺に英語は読めないし情報収集能力も微妙。だから、人を頼ろう。
繋がるかは分からないが、ある人に電話をかける。
「もしもし。どうしたいんだい、物部くん?」
電話相手は鵜川先輩。
頭の良い彼女ならなにか、海外サイトなどで情報を手に入れることができるんじゃないかと思ったのだ。
「先輩、お久しぶりです。ちょっと頼りたいことがあるんですけど……今、お時間ありますか?」
「うん。児相で暇にしてたし、警察の取り調べは大体終わってるからね」
どうやら先輩は保護されて児童相談所で暮らしているらしい。
彼女自身について聞きたいことはたくさんあったが、今はとにかく宝石病について聞かなくちゃいけない。
「先輩は宝石病って知ってますか?」
「ん? 知ってるよ。あの全身が宝石になってしまう奇病だろ。それがどうした?」
「実は友達がもしかしたらその病気かもしれなくて、可能な限り情報を集めたいんです。色々とネットで調べたんですけど、大した情報が得られなくて。先輩の力をお借りしたいんです。どうしたらいいと思います」
「そうか……全然構わないが、そうだな、君は国立国会図書館に行ってくると良い。あそこなら恐らくもっと専門的な知識、論文なども見放題だからな」
そうか図書館!
国会図書館という場所がどういう場所かはいまいちわからないが、名前の通りなら相当ちゃんとした情報が得られそうだ。
「ありがとうございます。行ってきます!」
「私は海外の論文などを漁ってみる。一応やってはみるが……期待はするなよ」
先輩の声には諦観があった。
どうして調べる前から期待するな、なんて言うのか分からなかったが、先輩なら何らかの情報を掴んできてくれるはずだ。
「よろしくお願いします!」
俺は電話を切って、再びインターネットの海を彷徨った。
◆ ◆ ◆
それから俺は言われた通り国会図書に出向いて調べることにした。
だが、18歳未満は入館不可だったため、検索サイトだけ使うことにした。
『宝石病』で調べると結構ヒットした。
論文を見ると、年に数本程度は出ているらしい。
でも、出版元? はほぼ一つ。
日本宝石病学会。
一応、日本にも宝石病を専門に研究しているところがあるらしい。
近隣の大学図書館に許可を取り、最新の論文から五年分くらいのものを読んでみるが専門用語たっぷりでほぼ理解できなかった。
それでも伝わってくる治療の難しさ。
精度の高い情報が集まれば集まるほど、見てて苦しくなる。
そんな風に論文と格闘している中、見覚えのある名前を見つけた。
御剣千奈。
もしかして……警察署であった警察官らしき女性。
共同研究者として彼女の名前が載っていたのだ。
会うこと自体は容易だし……行ってみよう。
◆ ◆ ◆
翌日、市内にある警察署にやってきた。
受付に行くと、警察官が顔を上げて俺を見つめている。
「君か~! どうしたの?」
その反応は何なんだろう? と思いながらも、俺は事情を説明することに。
「御剣さんっていらっしゃいますか?」
「了解。今から呼ぶね」
署内無線で呼ばれたのか、上の階から御剣さんが降りてくる。
「物部さん。どうしたの? もしかして何かあった?」
御剣さんは心配そうに俺を見つめている。
警察に相談しにくる時点で、厄介事と思われても仕方ない。
「違うんです。実は御剣さんに相談があって……」
「わ、私に!? なんの相談?」
「……宝石病についてです」
御剣さんは一気に険しい顔になった。
「なんで私なんだい?」
「論文で名前を見たので……」
「なるほどね……そこまで調べがついてるのか。ちょっと外に出よう」
外に出ると空が曇っていた。
昼間だと言うのに、かなり暗い。
「身内の誰かが宝石病にかかった感じか……」
「……! そ、そうです。研究に携わっていた御剣さんなら何か治療法を知らないかなと思いまして」
御剣さんは申し訳なそうに瞳を伏せた後、俺に向き合った。
「ないよ。残念ながら、治療法を探すくらいならその人の傍にいてあげた方がいい」
ごろごろと雷が鳴りだしていた。
俺は、その言葉を聞いて倒れそうになった。
「そ、そんなことない、ですよね? 本当は研究中のなにかとか?」
「……その子、何歳?」
「17か16だと思いますけど……」
御剣さんは首を横に振った。
「残念ながら軌跡が起ころうと無理だ。私が研究していたころから、治療の理論自体はあった。けど、それには莫大な研究資金と時間がかかる。お金の方がなんとななったとしても、時間まではどうしようもない。だから……」
御剣さんはそれ以上先を言葉にしなかった。
「そ、そうですか。話を聞いてくれてありがとうございます」
なんとかお礼の言葉を絞りだしたが、俺は動く気力すら失ってその場に蹲った。
とうとう雨が降り出してきたが、冷たさすら感じなかった。
次の日、俺は学校を休んだ。




