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第41話 柿森海香のエンディング

 柿森さんは無理に立ち上がろうとせず、体をひねり態勢を整えた。

 そして、バッグからスマホを取り出して親に連絡していた。


「も、物部くん、よかったら左足の靴と靴下脱ぐのを手伝ってくれない?」

「わ、わかった」


 俺は柿森さんの靴を脱がす。

 何かがぶつかる感覚……なんだ?


「痛った……!」

「ごめん。もっと気をつける」

「い、いや、大丈夫。こういうもんだから」


 思わず柿森さんの顔色を確認する。

 その額には脂汗が滲んでいた。自転車で転んだときは大して痛そうにしてなかった彼女が、相当痛がっている。


 その靴下、かかと部分には何か出っ張りがあった。


「靴下も脱がすよ」

「う、うん――ッツ!」


 痛みを我慢するかのように声にならない声を上げる。

 脱がしてみると、およそ人の体から生まれるとは思えない宝石のような色をしたできもの? のようなものが生えている。


「あちゃ~、やっぱりか」

「……柿森さん、これ何?」

「宝石病って、病気だよ。宝石みたいに綺麗じゃない?」


 柿森さんは宝石のようになった部分を指してそんなことを言う。

 綺麗というか……不気味だ。変化した部分が人間とはかけ離れて過ぎている。

 それにしても宝石病、どこかで聞いた覚えが……。


「そんなに深刻な顔しないでよ。これ自体は手術で除去すれば治るから……」

「するよ!」

「……え」


 柿森さんは驚いて目を見開いている。

 なんだかとても嫌な予感がするのだ。

 この病気が彼女のルートの鬱エンドじゃないか、という疑い。


 宝石病……。

 そうだ、思い出した!

 津宮さんのお兄さんが患っていた病気、そしてその患者は――。


 考えることすら憚られるし、口にするのももってのほかだ。

 だが、俺はちゃんと聞かなくてはいけない。


「その宝石病、18歳になる前に……」


 俺の勘違いだと思いたかった。

 津宮さんのお兄さんがかかっていたのは別の病気だって。


「…………知ってたか~。うん、そうだよ、私の余命は一年無い」


 柿森さんは少し黙った後、痛みを我慢しながら少し歪んだ、でもにへらっと笑いながら俺の言葉を肯定した。

 なんで笑っているのかもわからない。

 もしかして、俺を心配させないためなのか。


「そんな怖い顔しないで欲しいな」

「してるつもりはないけど……それでも」


 特別な人が死ぬ。

 そんなことを言われて、冷静でいられる余裕はない。


「うーん、わたしはね――」


 そうやって話していると、俺たちのいる砂浜の近くに救急車の音が聞こえた。


「あ、ママが遠いと思って救急車を呼んだのか。ごめん……物部くん、どこかに隠れてくれない? たぶんかなりの長距離移動になるし、親には物部くんのことを知られたくないから」

「で、でも、さ!」

「お願い! 実は海行くことも親に言ってないんだよね。もし同行人が物部くんだってバレたら……二度と会えなくなっちゃうかも」


 柿森さんは真剣に俺の眼を見つめていた。

 彼女は自転車のときに「親が過保護」だと言っていた。

 親の気持ちになれば分かるけど、柿森さんにとって邪魔なのも分かる。


「わかった、先に帰る」

「うん! ありがとう。またね」


 そして、俺は柿森さんを砂浜に置いて帰るふりをした。

 彼女が救急車に乗せられるまでは、隠れて見ていた。


◆ ◆ ◆


 俺は大急ぎで家に帰った。

 夕食も風呂に入ることすら拒否して、攻略本を開く。


 そこに描かれている柿森さんのバッドエンド。


【柿森海香は宝石病という稀有な病を患っている。その病が原因で18歳、高校三年生の途中で亡くなってしまう】


「やっぱり……!」


 ただ、ここからだ。

 何か彼女を救う術が攻略本には書かれているはず。

 いつも例外的なことは起こるが、道は示してくれる。それがこの『Timeless Days 完全攻略ガイド』だ。


【柿森さんが亡くなるまでの時間を楽しく過ごしましょう】


「は?」


 俺はさらにページを捲る。

 書かれているのは余命が判明してからのイベント。

 どれもエモさばっかり追求した内容だ。

 最後のページまで見て、俺は愕然とした。


「……宝石病を直す方法はない?」

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