第39話 高校生活を彩ってくれる人
それから一週間ほど経った放課後。
隣に座っていた柿森さんは隠していたソワソワを解放したかのように声を上げる。
「物部くん、行こう! 海」
「そうだね。行こう」
帰りのHRが終わり次第、俺たち二人は学校から出て海へと向かった。
この街は海辺ではないので、結構移動しなくてはいけない。
駅に向かい、やってきた電車に乗る。
「物部くんって電車にはよく乗るの?」
「いや、全然。だからちょっと長い時間電車乗ってるのはきついかも……」
柿森さんは友人たちと遊びに行くことが多いだろうし、電車もよく使うのだろう。
「かなり時間かかるんでしょ? ずっとお話してるのも疲れちゃうね」
「かもしれない」
攻略本を見て話題は集めてきたつもりだが、それでも何時間単位でかかる移動時間ではすぐに無くなってしまうだろう。
「だからね、じゃん! 持ってきちゃいました!」
柿森さんがバックから取り出したのは、携帯用ゲーム機。
まだ全然使ってないのかピカピカだ。
「買ったの?」
「まあね……あれだけ、物部くんに隣で楽しそうにされてたら気になっちゃって」
得意げに語る柿森さん。
何もしてないが俺の影響で、彼女がゲームしてくれるのはなんか嬉しい。
なにか一緒にやっても良いが、同じソフトを持ってるとも限らないし。
柿森さんはソフトを起動した。アクション系だ……一人プレイ用。
「そういえば、さ……気になる女の子がいるって話、どうなったの?」
以前、そんな話を柿森さんにしたことがあった。
本当に「そういえば」って感じなくらいに、話題に出ていない。
「忙しくてあんまり考えてる暇がなかったかも」
「ふーん」
柿森さんにしては意味深な反応だ。
ただゲームと並行してやっているからそう感じるのか。
本当に鵜川先輩のことで頭がいっぱいだったので、津宮さんへの気持ちをよく考えている時間はなかった。
「……不思議に思ってることがあるんだけど、聞いても良い?」
「どうぞ?」
ゲームから目は逸らさないが、手があまり動いていない。
「暇になったらわたしと遊んでくれるようになったんだよね?」
「そうだけど……」
「わたしが君の立場なら、その気になってる女の子の方に行くと思うんだよね」
確かに……。
だが下手なリアクションは取れないので、思ったことを言えない。
「で、聞きたいことなんだけど、物部くんにとってのわたしってなんなんだろうって…………ご、ごめん。ちょっと重すぎたかも、やっぱ無しで」
アクションゲームはミスしているようで主人公が死んでいた。
隣の柿森さんを見ようとすると、目が合った。
いつものキラキラした瞳とは違った重みが宿っている。
「い、いや、大丈夫。答えた方がいい気がするし……答えるよ」
ここで有耶無耶にするのが攻略上後で響きそうだとか、そういうのを抜きにしてちゃんと考えて答えるべきだと思った。
メタ的に見れば彼女はこのギャルゲー世界における真エンディング。
津宮さんと鵜川先輩のルートをほぼ終わらせた以上、『Timeless Days』を最後まで見届けない理由はない。そういう理由はある。
俺の目的を抜きにして考えた上で、正直に答える。
この前、柿森さんはそうしてくれたのだから。
「俺にとっても柿森さんは特別だよ。言わなくても分かるだろうけど、俺は趣味一直線でちょっと浮いてたから……隣の席が柿森さんになって、一杯話しかけてくれてすげー嬉しかった。だから、今みたいに友達になれたのはかなり嬉しい」
そうだった。
小学校、中学校では一緒にゲームやってくれる友達はかなりいた。
ただ高校生にもなると趣味嗜好は分かれていくし、ゲームが好きというだけでは友達ができなくなる。それどころか、自分の趣味嗜好を出し過ぎると避けられてしまう。高校では休み時間でゲームやってても怒られないので、好きにやっていたら周りから人がいなくなった。
寂しいとは思っていなかったつもりだった。
だけど、それが長い期間続けば、思うところもあった。
そんな中、進級しクラス替えで隣の席になったのが柿森海香という女の子だった。
何にでも興味津々で誰にでも話しかける活発な少女。
陽気で元気いっぱいで何でも聞いてきてくれる彼女とのやり取りに救われていた。
攻略本を拾って、この世界の攻略に夢中になっていたから忘れていた。
柿森さんが俺の高校生活を彩ってくれていたんだ。
「そ、そうなんだ……!」
柿森さんは頬を赤く染めていた。
一度視線を落としてゲームのセーブをしている。
「じゃ、じゃあさ……その気になってる女の子とわたし、どっちが大事?」
「え…………そ、それは、決められない」
津宮さんと柿森さんを天秤に……?
ちょっと前までなら津宮さんと答えてたかもしれないけど、柿森さんの存在が改めて俺にとって大きいことを自覚してしまった。
ていうか、なんでそんなことを聞いてくるの!?
「……ありがとうね。答えてくれて」
だが、そんなことを聞ける度胸はなく、会話は終わってしまった。
柿森さんは満足そうな表情しないで! 俺は悶々としてるんだって!




