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第38話 やりたいことを素直に言える人

「だ、大丈夫!? 柿森さん?」


 俺は転んだ柿森さんの方へと近寄った。

 

「痛てて……」


 彼女は立ち上がったが、その膝からは痛々しそうに血が滲んでいる。

 制服姿、細くて白い魅力的な足が見えるのは良いが防御力が低すぎだ。


「ハッ! 物部くん、自転車は?」


 転んだ衝撃から立ち直ったのか、俺に聞いてくる。


「自転車よりも柿森さんの怪我が心配なんだけど……」

「わたしの体は今はどうでも良いって! それよりも折角買った自転車!」


 どうでも良くは全くないが、一旦確認する。

 目が必死過ぎて、こちらの言うことを聞いてくれなそうだったからだ。

 自転車は地面と擦ったせいか塗装が剥げている部分はあったが、壊れてはいない。


「大丈夫だったよ。というか壊れてても自転車屋で直してくれるよ」

「そっか……お小遣いはパパの給料から出てるし、一日で壊すわけにもいかないから心配になっちゃって」


 柿森さんはホッとしたように胸を撫でおろしていた。

 それにしても、お金をいっぱい持ってるわけじゃないのか。なのに、小遣いを沢山渡している……? 何かあるのか。

 その考察は一旦、置いておくとして。


「とりあえず柿森さん、傷洗いに行こう」

「そういえば、そんなのもあったね」


 普通に歩けるようなので、一緒に歩いて水道まで向かった。

 水を出して、柿森さんに傷を洗ってもらおうと思ったが。

 

 なんか……擦りむいた方の靴と靴下を脱いでるんだが。

 当然ではあるが、足先まで真っ白くて、その美しさに見入ってしまう。


「……脚フェチ!?」

「違うから! ただ、傷が心配で見てただけだから! それよりこっち来て」


 俺は照れを隠すように、柿森さんを手招いた。

 水を流して傷の周りについた汚れを流す。


「沁みるね!」

「ちょっとの辛抱だから」


 流し終わって、水を拭いて……一応の処置が終わった。

 柿森さんは靴下と靴を履き直していた。


「休憩しよう」

「そうだね。まあ、転んだけど大体コツは掴めたような気はするし」


 近くのベンチに座る。

 一人分の間には俺たちの荷物を置いた。

 距離感的に言えば、普段の隣の席と変わらないような。


「いや~楽しかった!」


 柿森さんが伸びをしながら、そんなことを言う。

 ちょっとお疲れなのか、ベンチへの寄りかかりで顔が上に向いている。


「楽しかったならいいけど……ひざは大丈夫?」

「問題ないかな~。この程度の痛みで重傷なことはないだろうし」


 小さい頃はずっと病気だったと語っていたし、体の不調は他人よりも詳しいのかもしれない。無理をしている可能性はあるけど、俺には分からない。


「気になってたことあるんだけど、聞いて良い?」

「遊びに行ってくれたし……今なら大体のことは答えちゃう!」


 そこは全部じゃないのか、と心の中でツッコミを入れておく。

 普段とテンションは変わらないように見えるけど、もっとゴキゲンなのかも。


「なんで俺に自転車の乗り方を聞いたの?」


 普通に遊びに行くなら、どこでも良かったはず。

 自転車の乗り方なんていうのは、現状の俺如きの関係性でやることではなかったような気がしていた。


「う~ん。物部くんとは特別な友達になりたくって……」


 柿森さんはほんのちょっとだけ顔を赤くしていた。

 まあ、もちろん俺も動揺しますよ? 特別とか言われたらそりゃ!


「ど、どういう意味?」

「へ、へ、変な勘違いしないでね?」


 そんな言い方されると、心臓の鼓動が高まるって!


「ごほん。物部くんって、わたしにとっては唯一無二なんだよ。過保護な親でもないし、いつも一緒にいる女友達とも違う……取り繕う必要性を感じない相手だと思っちゃってる」

「なるほど……?」

「馬鹿にしてるわけじゃないからね。そこだけは絶対! ただ……物部くんって人の目を気にしないでゲームしてるよね。自分のしたいことを周りに関係なくできるって凄いと思ってた。だから、そんな物部くんだったら、わたしのしたいこと言っても問題ないかなって」


 そう語ってくれた柿森さんの横顔は、見たことのない真剣さがあった。

 ある意味での信頼。

 友人とも親とも違うカタチの。


 自分がゲーム好きを貫くことで、柿森さんからの信を得ていたのは嬉しい。まさか好きなことをしているだけで人の心を動かせるとは思ってなかった。


「……ありがとう」


 だから思わず感謝が出てしまった。


「……? わたしが物部くんに感謝すべきなのに……変なの!」

「ちょっと嬉しかったから」

「そうなんだ……じゃあもっと素直になっちゃお!」


 真剣そうな顔つきは吹き飛んで、いつもの笑顔に戻った。

 安定感のあるいつもの表情。


「ウェルカム」

「じゃあ、またわたしのやりたいことに付き合って欲しい!」

「バイト無い日だったら大丈夫」

「やったー!」


 隣を見ると天に向かって手を挙げていた。


「じゃあ次は……海! 海行こう!」


 俺はびっくりして吹き出しそうになった。

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