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第36話 自転車に乗りたい!

 それに言っていることの意味合いが良く分からないのもある。


「自転車乗りたいって、サイクリングに行きたいってこと?」

「違うんだよねえ……」


 チッチッチと言いながら、指を振った。

 可愛いけど、その動作は何なんだろうか。


「お恥ずかしながら、自転車に乗ったことない! だから乗れるようになりたい!」


 その堂々とした言いようは、全く恥ずかしそうに見えない。

 別に俺も恥ずかしいことだと思わないので、へりくだって言う必要性すら感じないけど。


「なるほど……分かった。やるだけやってみる?」

「うん! やる!」


 柿森さんは嬉しそうに頷いた。

 それでこれからどうすればいいんだ……?


 攻略本にはごく低確率で起きるイベントの中に書いてあった。

 眼も通しはしたけど、詳しいところまでは覚えてない。


「柿森さん、行く前にちょっとトイレ行ってくるね」

「あ、うん。了解」


 教科書に紛れて持ってきていた攻略本を見るために一時離席。

 トイレの個室で、内容を確認してから教室に戻る。


「遅くなってごめん、じゃあ行こう」

「自転車乗れるの楽しみ~!」


 ウキウキな柿森さんを連れて教室から出た。

 クラスメイトからの視線はあるが、気にならない。警察署の中で本気の言い合いをしたことと比べれば何のことも無かった。


 ◆ ◆ ◆


 目的の場所についた。

 大きな公園が近くにある自転車屋だ。


「物部くん? ここで止まってどうしたの?」

「……柿森さんの自転車買わないといけないと思うんだけど」


 柿森さんはハッとしたように口元に手を当てる。

 でも、その眼はすぐにキラキラと輝きだした。


「い、いいの!? ここで選んでも?」

「いいも何も……ないと練習できないよ?」

「でも最近は街中にあるじゃん。レンタルサイクル? みたいな」


 という反論はしつつも自転車の方に目が吸われている。

 もう欲しいなら買おうよ……と思うが、柿森さんの意見はちゃんと否定しておきたい。


「あれって基本電チャリだから……初心者には良くない」

「電チャリ……?」

「電動アシスト自転車。バッテリーの力で楽に漕げるけど、感覚とか掴みにくいしスピード出過ぎちゃうかもしれないから」

「なるほど……だから、普通のを買った方が良いってわけね……じゃ、じゃあ見てもいい?」


 柿森さんは待ってましたと言わんばかりに自転車を眺める。

 公園での需要を見越してなのか、そこそこ大きいサイクリングショップで見ごたえ自体はある。

 柿森さんは俺の言った通りに普通のを見てくれている。


「……なんか思ったよりもデザインに差とかはないんだね」

「そうだね。価格も安いし、皆そこまでオリジナリティを求めてないと思うし」

「あっち……のはダメだよね?」


 柿森さんが指を指したのはスポーツ自転車の方。

 

「電チャリと同じで初心者にはあんまりだと思うよ」

「だよね。うーんじゃあ、どれ選んでも同じか……じゃあ、適当にこれ!」


 柿森さんが選んだのはフレームが白いママチャリ。

 無難で良いと思う。


「あ、そういえば……お金あるの?」

「あ~そっか、これ二万もするんだよね……ありまーす! お小遣いならいくらでもくれるから問題ないない!」


 万札を取り出してアピールする柿森さん。

 お小遣いをいくらでもくれる親……いいのかその教育方針? 

 柿森さんは店員さんを呼んできてその場で購入。

 こうして、自転車に乗る準備は整った。


◆ ◆ ◆


 俺は自転車を一旦止めて、説明から始めることにした。


「これから自転車講習始めたいと思います!」

「わーい!」


 パチパチパチパチと柿森さんが拍手をしてくれる。

 彼女といると変に気分が盛り上がってしまいそうだ。


「始めるまえに一つだけ注意事項があるんだけど」

「うん」

「もし転んだりして怪我したら、ちゃんと教えて。それだけは絶対!」

「了解です! 教官!」


 柿森さんは元気よく返事をしてくれた。

 まあ、彼女が変な無理をするタイプには思えないし、大丈夫だろうとは思う。


「じゃあ、始めよう!」

「分かりました!」


 柿森さんが自転車に乗れるようになる特訓が始まった。

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