第35話 柿森海香ルート開始
鵜川先輩のルートはほぼ終わった。
詳しいことを先輩から聞いていないが、どうやら色々と事情があるらしくしばらくは学校に来れないらしい。
因みにあの両親は逮捕されたと、先輩が俺に教えてくれた。
一件落着!
だけど、完全無欠の攻略とはいかなった。
攻略本に書いてないイレギュラーの発生に上手く対応できなかった。
なぜ発生するかも分からないし。バグとかあり得るのか?
俺はベッドに飛び込んで横になる。
「ここからは柿森さんのルート……」
攻略本に書いてあった情報。
柿森さんのルートを解放する条件――津宮椿、鵜川須美ルートのクリア。
それが終わった。
このギャルゲー世界を攻略する! とギャルゲーだし重い展開はこないだろうと無意識に思いこんでいた頃と同じような気持ちではいられなかった。
津宮さん、鵜川先輩――二人には明確なバッドエンドがあった。
しかも主人公の動きで発生するタイプでは無くて、個別ルートをハッピーエンドでクリアしなければ明確に訪れてしまうもの。
二人続けば、三人目にも何かあると疑いたくなる。
しかもルート解放条件が、あの二人の難しいハッピーエンドを掴み取ることだと制定されているとあれば。
何が起こるか分かったものじゃない。
「でも攻略本を見るのもなあ……」
先んじて柿森さんについて解説されている部分を見るのはアリではある。
ただデメリットも多い。
柿森さんにも何か重たい事情があった場合、そちらをどうにかすることに意識が行き過ぎてしまう。この場合、彼女と信頼関係を築くのは後回しにせざるを得ない。
だが、津宮さんと宝さがしに行けたのも、鵜川先輩を説得できたのも俺への好感度が多少なりともあったからだ。
俺一人で宝を掘り当て二千万円を好感度がない状態で渡したところで受け取ってくれるわけもない。面識がないのに、説得したところで聞くはずもない。
つまるところ好感度を稼ぐことにも力を割かなくちゃいけない。
鬱エンドが待ち構えているのを知っておきながら、普通に接する……しかも、攻略本という解決できる手段があるのを分かっておきながら?
「うーん、無理!」
そこまで器用なことはできない。
絶対にどこかでボロを出す。
だったら、鬱エンドのフラグに注意しながら好感度稼ぐ方がまだやりやすい。
そうと決めれば、柿森さんと仲良くなるだけ! 重たい問題がない可能性だってあるだろうし、いつも通りに接して楽しもう。
よし、決めたらあとはやるだけ!
◆ ◆ ◆
毎度退屈な授業が終わる。
ギャルゲー世界攻略にここまで絡んで来てないけど……学校で習った知識が何か役に立つ日は来るのだろうか? 来ないだろうな……。
「今日は暑かった~……学校はエアコンの効きが悪い!」
隣の席で愚痴を呟いているのは柿森さん。
独り言じゃないと信じて、お隣からも頷くことにした。
「いや本当だよ……こんなに暑いなら夏服で来ればよかった」
「だよね! ま、わたしは夏服なんですけどね」
柿森さんは俺に来ているワイシャツを見せつけてくる。
夏しか見えないであろう細くて白い腕がまぶしい。でも真っ白すぎるような気もするので、もっと日を浴びて欲しい……こんなことを本人には言えないが。
「ところで最近はどうなの?」
「最近……まあ、やっと色々と落ち着いてきた」
柿森さんとはギャルゲー世界攻略のためにバイト始めたり、自習室に通い始めたりしてから交流が薄くなっていた。二人のルートが終わったので、ようやく柿森さんルートを始められる。今日はその一日目だ。
「それは良かった? 忙しいのも青春だからね」
達観してる。
あまりにも下らない話は良いとして、本題に移らねば。
「柿森さん……一緒に遊びに行く話あったじゃん」
「うん。あったね。忘れてないよ?」
ちょっとだけ鋭い目になった柿森さん。
俺に釘を刺そうとしているのかもしれないが……逆にありがたい!
「俺も忘れてない……あの、それでさ、予定空いてれば近いうちに遊びに行かない?」
「……他は誰か来るの?」
柿森さんの質問に固まってしまう。
確かにね! 普通に考えれば、クラスの男女が二人で遊びになんて行かないわ!
バイト先だとか、自習室だとか、特殊な環境下だからこそ男女二人という関係性が成立していたが……クラスメイトじゃそうもいかない。
「……俺だけです」
正直に言う。
というか、ゲームばっかりやってて今までまともに友達も作って来なかったしな!
「へー、ふーん……じゃあ物部くんだけで問題ないよ!」
一瞬だけ考える素振りを見せたが、その後はテンションが上がっていた。
「それじゃあ、どこ行く?」
俺の方から提示しても良かったが柿森さんの性格的に考えてやめておいた。
彼女は好奇心旺盛ガール。どこか行きたい場所があるんじゃないかと思う。
「じ、自転車! 自転車乗りたい!」
あのすいません、それ場所じゃないんですけど……。




