第34話 鵜川須美にとっての友達(エンディング)
「ちょ、ちょっと落ち着こうか、君たち……」
俺がヒートアップし過ぎたのと、先輩が泣き出てしまったからか警察の人たちが止めに入った。
どう考えてもやりすぎてしまった。
「わあああああ!」
号泣し続ける先輩は女性警官に連れられて、俺から離されてしまった。
謝りたかったが、俺は近づけるような状況ではなかった。
「多分、何かあったんだよね? ちょっと奥の方で聞かせてください」
「は、はい……そうしてくれると嬉しいです」
俺はそのまま警察署の奥にある部屋へと連れていかれた。
担当者が来るまでお待ちください、と言われた。
「やらかしてしまった……」
いくら先輩を止めるためとは言え、泣かせてしまうのは人として論外だ。
仮に説得に成功(ないとは思うけど)したところで、先輩との仲は険悪になってしまうこと間違いない。
「はあ……」
ため息をついて待っていると、二人の警官が入って来た。
一人は男性警官。色々と書類を持っている。
一人は女性警官だ。ただ、警官っぽい恰好をしていない。話しかけてきたのはその女性の方だった。
「いや~凄いね、君。傍から見てて感激しちゃったよ。青春ってアチー」
「……馬鹿にしてます? あんまり精神的に余裕ないんで」
男性警官の方がギロッと女性警官を睨みつけていた。
「ごめんなさい……若い子だから軽いノリの方がいいかなって」
「は、はあ……」
色々な意味で「はあ」だった。
「刑事部で薬物犯罪を担当している御剣千奈と申します。今日はよろしくお願いします」
「物部次郎です……お願いします」
「薬物犯罪に巻き込まれてる友人、あの女の子のことだよね? 彼女がどんな犯罪に巻き込まれているのか聞かせて貰えませんか?」
俺は知っていることを打ち明けていくことにした。
◆ ◆ ◆
「なるほど……あの女の子、鵜川須美さんの両親が大麻の違法栽培、販売をやっている。そして小学生のころ、その販売経路拡大を手伝わされた。纏めるとこんな感じで良いのかな? で、この大麻クッキーとボイスレコーダーがその証拠と」
「合ってます。それで先輩はどうなりますか……?」
どうしても体に力が入る。
そんな俺の緊張を崩すように、御剣さんは穏やかな笑みを浮かべた。
「物部さんの言っていることが本当なら、捕まったりはしないよ。けど、本人やその両親の証言で変わることはあるかもしれない」
「やっぱり、そうですよね……」
先輩が罪をでっち上げてしまえば、警察は捜査せざるを得ない。
両親がそれを認めれば、猶更だ。
「でも、大丈夫な気がするな~」
「どうしてですか?」
「君が鵜川さんを泣かせたからだよ」
「へ? 寧ろ最悪なんじゃ……」
思わず変な声が出る。
変なのは俺じゃなくて、やっぱりこの人かもしれないが。
「泣くって、そんな安い身体反応じゃないからね。物部さんの言葉が涙という反応を引き起こしたのは、彼女の心にそれなり以上の何かを与えたからだよ。ポジティブかネガティブかは分からないけど……変わることもあると思うよ」
「……そうなってくれたら、良いんですけど」
「なるなる! まあ、君の言葉だけじゃなくて、他の警官たちも説得を頑張ってくれると思うからさ」
こうなったら、あとはもう警察の人頼みか……。
「で、どうする? 聞きたいことは聞き終わったし、帰る?」
「……帰らない選択肢ってありますか?」
「まあ、別に待ってても良いと思うよ。ですよね?」
メモを取っていた男性警官が頷く。
「じゃあ、ご厚意に甘えさせていただきます」
「うん。そうしなよ」
俺は警察署で、鵜川先輩を待つことにした。
◆ ◆ ◆
かなり時間が経った。
夕日も沈んでしまって、完全な夜になってしまった。
だけど、それでも待つことにした。
「あっ」
警察署の奥から出てきた先輩が、俺を見て声を上げた。
先輩はどうしようか迷っていたのか、その場で立ち止まった。だけど、意を決したのか重い足取りでこちらに歩いてきた。
そして、若干距離を置いて俺の隣に座った。
「先輩、その……すいませんでした」
絶対に初手謝罪なのは決まっていた。
先輩の満足そうな顔にムカついたのは事実とはいえ、泣かせるようなことを言ってしまったのは明確に良くなかった。
「いや……君が言ったことは紛れもない正論だと思う。私は罰されるために警察を利用しようとした。愚かだよ」
先輩は穏やかな声でそう言った。
疲れているのか、いつもよりゆっくり喋っているが。
「そこまで言わなくても……」
「私自身がそう思っているから、問題ないんだ」
ネガティブな物言い。
だけど、そこには卑屈な様子は見えない。
「それで先輩、警察にはなんて……言ったんです?」
聞くのが怖い。
俺も結局ところ遵法精神とか正義感とは別のところで動いている。
ただ、先輩とまた一緒にゲームしたい。捕まって欲しくない。
「君に言われて、自分の気持ちにより素直になった」
やっぱりダメだったのか。
御剣さんは『変わることもある』なんて言っていたが、泣かせられるような暴言を言われて変わることはレアな事象だろう。
「警察には事実を全部話した。私は小学生の頃、親に言われて悪いことをしました。逮捕してくださいって……でも、警察の人に、犯罪にはならないって言われた」
先輩は愚痴るように語る。
だが、俺は嬉しかった。
「泣いたせいか、逆に素直になりすぎてしまったんだろうな。あの頃の罪の意識をどうにかしたい……君が言うように自分のことしか考えてなかったから」
思わず先輩の顔を見てしまう。
俯いている……先輩にとっては正論だったかもしれないが、劇薬だ。
「それで先輩は、これからどうなるんです……?」
「罪悪感の解消じゃないことをしなくちゃいけないと思った。警察の人にもそう言われた。何をするべきかは、まだ見えないけど……それでもね」
再び先輩の方を見ると、前を向いていた。
俺が慰めの言葉を言うことはできない。怒っておきながら、どの立場で言っているんだとなってしまう。
でも、先輩が前を向いてくれたなら。背中を押すくらいはできる。
「応援してます……いえ、手伝えることがあれば手伝います」
「ふふっ……気持ちだけで十分だよ」
先輩は機敏に立ち上がった。
だけど先輩は動き出さなかった。俺に向き合って、止まっている。
「物部次郎くん……ありがとう。君という友人がいてくれたから、私はこうやって真にやるべきことを見つめ直すことができるようになった。だから、その……落ち着いたらまた一緒に遊んでくれ」
先輩はキリッとした表情を見せた後に、恥ずかしそうに眼を伏せた。
そんな彼女に対する俺の返答は考えるまでもなかった。
「勿論です! また必ず一緒にゲームしましょう!」
俺は姉貴からの迎えがあるまで先輩とお喋りすることにした。先輩は安全が確保されるまで保護されるらしいので、帰れないとのことだった。
下らない話をした。
でも、先輩とまたそういう話ができたのがたまらなく嬉しかった。




