第33話 先輩を止める!
「ど、どうして先輩が自首を……?」
「知っているだろう。それは、君も」
突然の展開についていけない。
だが、喉元にナイフを突きつけられているような感覚がある。
「……私は両親のスマホに遠隔操作ウイルスを仕込んでる。だから、君とあの女のメッセージのやり取りは知っているし、会話も盗聴させてもらった」
「なっ……! そんなことが――」
「君は一度その画面を見たことがあると思うんだけど……まあ、それはいい」
もしかして、一回目に『絶交』と言われたとき?
確かに見たことのない画面ではあったけど、あの時だったんじゃないか。
「……先輩はどうして今から自首を?」
「君を守るため」
電話越しでも分かる力強い言葉に、俺は苦しくなった。
先輩を助けるために動いているのに、どうして俺が守られるのか。
「自分の身くらい、自分で守れます」
「君はあの邪悪な女が、忠告だけで見逃してくれると思っているのか? 仮にも何年も犯罪をして生き残っているやつらだよ。何もしないとは思えない」
「……」
先輩の言い分には頷けてしまう。
確かに、これから何か仕掛けてくる可能性は十二分にある。
俺にあった選択肢は、即座に警察に駆け込むことだけだったのだ。
「そういうわけだから、私はこれから自首する……物部くん、君と出会ってからの一か月はちょっとだけ楽しかった。ありがとう」
「せんぱ――」
そこで電話は切られた。
再度かけ直してみたが、繋がる気配はしなかった。
「どうしたら――」
ここから先輩を止めるには、実際に会って話をするしかない。
ただ居場所が分からない。こうなったら、一か八かの賭けだ。
この放課後の時間なら、先輩は自首室にいるはず。
電話で自首するかどうかは……分からない。
でも確実な証拠を持って、両親や自分を捕まえてもらうなら警察署に行くはず。
そうだと予想して動かざるを得ない。確証はないが……。
「とにかく警察署まで走って行って、先輩を待ち伏せる。それしか今の俺にうてる手はない」
こんなことになるなら、もっと体を鍛えておけばよかった。
そう思いながらも、全力、それ以上を出そうと思って走った。
◆ ◆ ◆
「つ、着いた……!」
先輩が先に来ているかを確かめないと……。
警察署の中に入って、受付の人に聞いてみる。
「す、すいません。今日、自首しに来た人っていませんか?」
「じ、自首かい? いなかったと思うけど、何かあったのかな?」
先輩がまだ来ていないことにホッとする。
それに、親切そうな人で助かった。
どちらにせよ、警察の協力はあった方がいいからだ。
「相談があるんです。実は友人が薬物犯罪に巻き込まれていて……」
「分かった。僕じゃ対応できないから、刑事課の人を呼ぶね」
無線を使ったのか、すぐに何人かの警察官が降りてくる。
「向こうで座って話を聞こう」
「時間がないので、ここで軽く説明をさせてください」
「わかった」
ここでなのは鵜川先輩が入ってきらすぐわかると思ったからだ。
先輩が来る前に事情を説明できれば――と思っていたのに。
「君の方がちょっとだけ早かったか……」
鵜川先輩がもう来てしまったのだ。
◆ ◆ ◆
―鵜川須美視点―
君……物部君が私のことを痛ましそうに見つめている。
だけど、まだ諦めていないのか、その瞳に火が灯っている。
「なんでここに来たの?」
「先輩を止めるためです」
周りの警察官たちは、私たちを見守っている。
どういう状況なのか掴めてないのだろう……これは好都合だ。
「そうか。でも丁度良かったかもしれない。君にはもうちょっとだけ言いたいことがあったから」
「なんです?」
物部くんは警戒して身構えている。
「絶交だ。私にはもう構うな」
自首すれば彼を傷つけるとはずっと思っていた。
関係に区切りを付けなくては、ずっと彼に後ろめたい思いをさせてしまう。
これでもういい。
幾多の友達の人生を壊してきた私がやっと裁かれるときがきた。
まだ十七歳の私では、満足な罰は受けられないことだけが不満ではあるが。
「ふざけないでください!」
物部くんの怒りに満ち溢れた声が、警察署内に響いた。
◆ ◆ ◆
「ちょっと君……!」
警察官の人に宥められたが関係ない。
俺は今、先輩の満足そうな顔にとてもイライラしている。
「なんでそんな満足そうな顔してるんですか! 先輩が物凄い罪悪感を抱えて生きていることは知っています。だから、罪を償おうとするのも分かる。でも、先輩の本質は罪を償いたいわけじゃない。ただ罰されて気持ちよくなりたいだけの幼い感情だ! そのためには、俺が邪魔だから……絶交なんて言うんだ!」
「……!」
思いっきり感情をぶつけた。
先輩は面食らったかのように、苦しそうな顔をし出した。
「ち、違う。そんなことない……ただ、私は皆に申し訳なくて」
「そうなんでしょう! 申し訳ないんでしょう? じゃあ、どうして両親が悪いことをしてるって気づいたときに通報しなかったんです!? 結局は自分のことしか考えてないから、そんなことができるんですよ!」
先輩が悪い人だなんて思わない。
けれど、そんな自分の罪悪感を解消するだけの出汁に『絶交』なんて言われるのが耐えられなかった。ムカついた。だから思ったことが口から出てしまった。
結果――。
「ちがっ……。ちがうもん……私は、本当に――アアアアア!」
先輩が号泣してしまった。




