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第32話 鵜川須美の罪悪感

 鵜川先輩の母親は口角を上げて話し始めた。


「私たちは須美が生まれた頃から麻薬栽培、販売を始めたわ」

「その話、要ります?」

 

 時間がかかりそうな気がするので、強い口調で脅した。

 上手くいっている気はしないが。


「ええ。だって、須美との仲違いが聞きたいのよね? だったら、仲が良かったころのことも話さないと」

「時間かけないでください」


 今のところ、この人の仲間が来るような感じはない。

 一応人通りが多い場所なので、増援が来てもどうにかなるとは思うが。


「私たちは今の仕事を須美に『誰にも教えられないけど皆を救う仕事』だと教えたわ。そしたらあの子はそれをずっと信じてくれて……だから小学校中学年くらいまでは仲が良かったのよ。アニメに出てくる正義の味方みたいって」


 人を騙して麻薬中毒にさせることを考える人は、凄いことを言う。

 皆を救う、というか地獄に落とすの間違いだろう。


「それが変わったのが五年生、六年生のころだったかしら?」


 その年にもなれば、親の欺瞞に気づいてもおかしくない。先輩は頭いいし。


「須美が仕事を手伝いたいって言いだしたのよ」


 攻略本に書かれていた『麻薬販売を手伝わされていた』という記述。

 この時期の話なのか?

 それにしても……小学生の女の子が一体何を手伝ったんだ?


「だから私たちは須美にできることを教えたわ」

「……何を」


 決定的な出来事を話される、と思い身構える。


「須美には顧客を集めてきてもらったの。学校から」

「……」


 いまいち意味が分からない。

 俺には違法薬物の顧客を集める方法なんて知らないからだ。


「あの子は天才だったわ。言葉巧みに人を誘導して、数多のクラスメイト、友達たちの親にまで麻薬を売りに売りまくった。売り上げはその時が今でも一番多いわ」


 この人は楽しそうに語るが、俺は全く楽しくない。

 何故なら、絶対にこの後の展開は……。


「でもね、あの子は優しすぎたのよ」


 先輩が優しいのは知っている。

 けど、お前ら親が『優しすぎたのよ』と欠点みたく言うのは違う。


「売りすぎちゃったせいで、須美の友達が中毒になったり、親御さんが逮捕されたり……そういうことが相次いだのよね。そこで本当のことに気づかれちゃった。だからずっと仲が悪いってわけ」


 自分は良いことをしたと思ったのに、本当は地獄に誘い込んでいただけと知った先輩の気持ちになってみれば……。

 なのに、この人はどうしてそんなに淡々と語ってられる?

 しかも実の娘なのに?


 殴りたい。


 女性とか関係ない。

 こいつは、この世に存在していい類の人間じゃない。

 ギャルゲー世界とはいえ、こんなやつが親をやっているのは信じたくない。


「早く捕まれ」

「あら、怖い顔で睨んじゃって。でも警察には通報しない約束でしょ?」

「それ、本当だと思ってるんですか?」


 ここまで悪い人間が、俺の嘘を見抜けないとも思えない。


「思ってないわよ。それにまだ話は終わってないわ」

「……早くしてくださいよ」


 正直、こいつの話は聞きたくない。

 だけど何か手札を持っている。それは確かだろう。


「仮に貴方が通報して、私たちが捕まるじゃない? そうなると須美は自首してくると思うわ。自分も犯罪に加担しましたって。須美はあなたよりもたくさんのことを知ってるしね」

「――ッツ!」


 ハッとする。

 鵜川先輩がそういう行動に出る可能性は高い。

 攻略本の通りにこいつらを先に逮捕して、先輩が関わってないことを話せばいいと思っていた。

 だけど、後出しでも捕まる。

 先輩の頭なら、証拠の捏造……自分が犯罪に関わっていたものを作成できる。口でも説明できる。自分を罰してもらうことも簡単。


「分かった? 貴方が私たちを通報すれば、須美も捕まるってわけ。何のためにここに情報を集めに来たか、その真実は分からないけど……貴方に須美を犯罪者にすることができるかしら……よーく考えた方がいいわよ」


 そう言い残して、あの女は消えた。


 やるべきことは分かった……。

 けど、本当にそれが成せるかは全く自身がない。

 俺が一番にすべきこと……それは先輩を説得すること。

 攻略本にはこんなことは書いていなかった。

 まただ、津宮さんのときと同じように重大イベント抜け落ちている。


 ただ幸いなことに時間はある。

 先輩の誕生日はまだまだ先……時間をかけて説得できる言葉を練ればいい。

 無理に勝負を急ぐ必要性はない。


 そう考えていたところに、俺のスマホの着信音が鳴る。

 知らない番号……だけど、このタイミング。悪戯電話とも思えなかった。


「もしもし、物部です」

「鵜川です……電話番号はあってるみたいだね」


 その声の主は鵜川先輩だった。

 どうして俺のスマホの電話番号を? と聞きたいところだが、それより先に。


「どうしたんです?」

「別れの挨拶かな? 私、これから警察に自首しに行くから」

「……え?」


 俺はスマホを持ったまま固まってしまった。

 

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