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第30話 津宮さんのお見舞い

 鵜川先輩ルートをハッピーエンドに持っていくのに必要ではないが、俺には先に行っておきたい場所があった。


 市内にある総合病院。

 そこに入院している一人の少女に会いに来たのだ。


 面会届を書いて、病室へ。

 その少女、津宮椿はスマホで何か動画を見ているようだった。

 イヤホンをつけていて、こちらの接近には気づいていない。

 怪我人を驚かせるのも良くないと思ったので、堂々と接近していく。


 すると、津宮さんがこちらを向いてくれた。

 彼女は俺を見るなりイヤホンを外して、頬を膨らませた。

 ちょっと怒ってる……?


「せんぱい、来るのが遅いです! 毎日来てって言ってるじゃないですか!」

「それは無理。バイトとか色々あるし」


 怒っている理由はとても可愛らしい。

 本当にそう思ってくれているかは分からないが、暇で退屈なのはあるだろう。


「バイト~!? あたし、シフト表持ってるんですよ。バイトが無い日だってあるんですから、その日は来てくれればいいじゃないですか」

「俺にもやることがね……」

「やることって何ですか! どうせ家でゲームしてるだけなんじゃないんですか?」


 最近はゲームあんまりしてないよ、と言いたかったが逆にツッコまれそうなので止めておこう。ここは好感度を上げの一択。


「自習室行ったりしてる」

「……何ですか? その行ったりしてるって。普通、自習室で勉強してるって言いません? はっ、もしかして……女遊び?」

「ギクッ!」


 近いところを指摘されて、思わず反応してしまった。

 女遊びではないが、他の女子の攻略ルートやってます……。


「先輩のエッチ……!」


 津宮さんはプイッとそっぽを向いてしまう。

 まずい……どうにかしてご機嫌を直してもらわないと!


 俺はショルダーバッグから、行きがけに買ってきたケーキを取り出した。


「このフルーツタルトで許してくれませんか……?」

「め、滅茶苦茶美味しそうじゃないですか……!」


 俺は家から持ってきたスプーンを津宮さんに渡した。

 

「良いですか? いただいて」

「どうぞ……」


 津宮さんはタルトを一口食べると、頬を蕩けさせていた。

 顔が緩んでいるのが、一目瞭然すぎる。


「病院食が味気ないので、こういう甘いのはたまらないです……!」

「よかった……これで許していただける?」


 お見舞い来れなくてごめん+機嫌損ねさせてごめんのお許しだ。

 

「何を言ってるんですか先輩。あたしには怒る権利なんてないので……」

「そうなの?」


 脊髄反射的に出てしまった言葉。

 俺の反応を見て、津宮さんが俺から顔を背けた。

 そして、周りに聞こえないように小さく呟いた。

 

「後輩以上の関係じゃなきゃ、怒るだなんて許されませんよ……」


 のぼせるように赤くなった津宮さんにそこまで言われてようやく気付く。

 お見舞い来れないこと、女遊び(?)のことに怒る……もっと深い関係でしか許されない行動だったのだ。ただ、それを言及するということは――俺を明確に異性として接しているからで。


「せ、先輩、顔赤くしないでくださいよ……」

「してない、してないって!」

「……そ、そうですね」


 津宮さんは俺から目を離して、もう一口ケーキをパクり。

 甘いものでは会話のお口直しはできなそうに見えた。


「先輩、なんか面白い話してくれません?」

「唐突にそれは無茶ぶりが過ぎる……」

「いいじゃないですか。なんか微妙な雰囲気なままなのも、と思ったので」


 一理というか全理ある。

 なんか面白い話……。


「この間、犬カフェに行ってきたんだけど――」


 俺は先輩のことは話に出さずに犬カフェに行ってきたことを話すことにした。

 津宮さんは興味深そうに聞いてくれていた。


◆ ◆ ◆


 津宮さんのお見舞いは定期的に行ってはいた。

 だけど、今日来たことには理由がある。


 それは自分の決意を再確認すること。


 津宮さんは、借金に返済の当てがついたことで生き生きと笑っている。

 俺は鵜川先輩もハッピーエンドに導いて、犬カフェで見た時のように頭のおかしい言動を繰り返して欲しい。

 彼女を助ける以外の選択肢は決してない。

 けど、そこに覚悟が備わっていたかといえば別問題。


 これから俺がすることは褒められたことじゃない。

 寧ろ、立ち回りを間違えれば、俺も将来が閉ざされてしまう。

 

 だから、ハッピーエンド以外は譲れないとはいえ、ちゃんと覚悟を決める必要があった。端的に言えば、津宮さんの笑顔を見て励まされたかったのだ。


「さて、じゃあやりますか」


 これから俺がしなくてはいけないこと。

 鵜川先輩の自首を防ぐ……つまり、俺が先輩の両親が麻薬栽培、販売をしている証拠を掴み警察に情報提供する。そして先輩を警察に保護してもらう。


 まあ、つまり俺が麻薬販売、栽培しているところに接触し、写真や音声データなどを撮りに行かなくてはいけない。

 

 幸い、証拠集めの足掛かりはある。

 先輩の母親からもらった連絡先……あれはやはり明確に伏線だった。

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