第29話 鵜川須美が迎える鬱エンド
須美と声をかけられた鵜川先輩だが、無視して進もうとする。
「え、いいんですか?」
「うん。どうでもいい。ほら、行くよ」
鵜川先輩は本当にすぐ離れたいのか、俺の手を取った。
そして歩くスピードをあげて、その場から立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
その人も早歩きで俺たちに追いついてきた。
「須美。なんでそんなにお母さんを避けるの?」
「……私に話しかけるな」
口調が強い。
そのドスが聞いた声はとても親(?)にかける声とは思えない。
「じゃあ友達の君に聞いちゃおう。最近の須美はどうしてる?」
「え……」
勝手に答えて良いのか分からない。
考えるまでもなく、親子の中は非常に悪そうだ。
鵜川先輩と仲良くしたい俺が、ここでこの人と話す理由もない。だけど、
これが何かしらの伏線なのだとしたら……。
「物部くん、この女と話したら絶交ね」
「……分かりました」
鵜川先輩の『絶交』、出るのは二回目だ。しかも名前まで呼ばれた。
決して冗談ではなさそうな、その言葉。
やっぱりここで、鵜川先輩の母親らしき人と話すことは無理か……。
「はあ、頑固なんだから……仕事場に戻るわ」
その人は俺たちに背を向けて消えていった。
だけど、俺とすれ違う瞬間に小さな声で「これ、連絡先」と小さな紙をポケットに忍び込ませた。
「ごめん。でも、あの人とは一秒たりとも話したくないから」
「……分かりました」
先輩は緊張が解けたのか、手に入っていた力が抜けて離れた。
初めて繋いだ女の子の手だったが、別の意味でしかドキドキしていない。
せめて気の利いたことを言えればよかったが、何も思いつかない。
攻略本に書いてなかった(見ていなかっただけの可能性もある)展開だった。それに、ここまでの憎悪を人に向けたことが無かったからだ。
ただの親子喧嘩だったら「親、うざいですよね」とか適当に言える。けど、鵜川親子はそうではない気がする。
「じゃあ、ここらへんで」
「先輩、今日は奢らせてくれてありがとうございました」
「本当にいいところ連れてきてくれたよ。こちらこそありがとう」
先輩は下手な作り笑顔を見せた。
犬カフェでおかしくなっていた様子を見たら、流石にその笑顔が嘘なのは分かってしまう。彼女の心を乱したのは……。
◆ ◆ ◆
家に帰ってきた。
いつのように机に座る。置いてある攻略本を先まで見ないように確認する。
鵜川親子の関係は恐らく、先の展開において何かしら関わってくるだろう。
ただ、先輩に「何があったんですか」と聞いたところで、答えてくれる気がしない。それだけの強い拒絶を見せられた。
ギャルゲー世界の主人公に成り代わったムーブを徹底するのなら、先輩との関係性或いは展開を進めて自然と聞ける仲までもっていくのがベストだろう。
ただ、鵜川先輩のルートは一つ間違えれば終わってしまう。
攻略本を見返していたが、あの絶交は本気の拒絶! と書かれていた。
先輩が本当に俺との関係を切りたいと思えば、それでGAME END。
津宮さんのときは勝手に人の秘密を知るのはよくないだろうと思って、攻略本を使って秘密を話してもらうことができた。
ここはギャルゲー世界だが、その中の人物である俺にやり直しは効かない。
綱渡りで先輩から好感度を稼ぐ。
攻略本を用いて、このルートに立ちふさがる障害を排除する。
王道なのが前者なのは分かってる。
けど、ハッピーエンドで必ずクリアするなら…………。
悩んだ挙句、俺は攻略本を開くことにした。
そこに書かれていたことに衝撃的な内容だった。
【鵜川須美の両親は麻薬の栽培、販売を行っている。彼女はかつて麻薬販売を手伝わされていた過去があり、それを悔いている。18歳の誕生日と同時に自首しようと考えており、自分ごと両親を裁いてもらおうと考えている】
鵜川先輩は、薬物売買の犯罪者として近い将来逮捕される……?
ただ攻略本には先輩を救う方法ももちろん書かれていた。
だったら俺に救う以外の選択肢はない。必ずハッピーエンドでこのギャルゲー世界を攻略すると決めているのだから。




