第22話 津宮椿にとってのヒーロー(エンディング)
目を開ける。
知らない天井……いや、やっぱり見たことあるような。
横を向くと夕日が眩しく差し込んでいる。
「よく寝てたねえ……」
ベッド脇にいたのは、姉貴だった。
「ここ、総合病院だよね?」
「せいかいっ! 倒れたあんたと津宮ちゃんが運ばれたってわけ……てか、次郎って総合病院に来たことあったんだ」
「何となく予想がついただけ……」
体を起こすと普通に起き上がれた。
痛いところはあるけど、病的なやつじゃなくて健康的な感じだ。
そう、これは筋肉痛だ。
「津宮さんはどうなった?」
「それは自分で確かめてみたら? 次郎の体に異常はないみたいだし。起きたら帰って大丈夫って言われてるからさ」
その言い方からして、ヤバい状態ではないらしい。姉貴は変人とはいえ、そんな意味の分からないポーカーフェイスはしない。
腕には点滴が刺されているが、水分を入れているだけなのだろう。
姉貴に看護師の人を呼んでもらって、針を抜いてもらった。
「じゃあ、津宮ちゃんのとこ行くか」
「うん」
病院の中を移動して、津宮さんの病室へと向かった。
「あ、せん、ぱい……」
津宮さんは足を吊られた状態で、ベッドに横になっていた。
「津宮さん……ごめん、俺がしっかりしてなかったせいで」
「なんで、先輩が、謝るんですか?」
彼女の喋り方ははっきりしていなかった。
意識が朦朧としているような印象を受ける。
「……体調悪いなら、帰るけど」
「悪いって言うか……麻酔のせい、で眠いんです。でも、先輩と話したいです」
どうやら津宮さんは全身麻酔で手術したらしい。
帰った方が良い気がするが、彼女の希望も無視できない。
俺は頷くことにした。
「先輩、ごめんなさい」
話したい、と言った彼女が最初に発した言葉は謝罪だった。
「どうして謝るの?」
「だって、先輩に迷惑を重ねてる、から。滑り落ちたのだって、あたしが、自分をコントロールできなかったせい、です」
津宮さんはそのまま、ヒックヒックと泣き出してしまった。
攻略本に書いてないイベントからの派生、俺は最適な言葉を持ちあわせていなかった。だから、言葉を使うことは辞めた。
俺は津宮さんの手を握ることにした。
「せ、先輩……?」
「どうしたらいいか、分からなかったから……不快だったらごめん」
「そんな、ことは、ないですよ」
スッと俺たちを見守っていた姉貴が消えたような。
津宮さんは、ちょっとだけ笑顔を覗かせてくれた。
「やっぱり津宮さんは笑ってる方がいいな」
「なんで、です?」
何か待ち望んでいるかのように、こちらに熱い視線を向けてくる。
普段なら恥ずかしいが、ここは素直に言うべきだと思う。
「一番可愛い、と思うから……」
「こ、光栄、です……」
ほら、互いに黙っちゃったじゃん!
やっぱりギャルゲー世界とはいえ、変なことは言うべきじゃない。
「つまりさ、俺は津宮さんに笑ってて欲しいから、楽しい話しようよ。未来の話とか、これから先の日常の話とか」
お宝を見つけた後のテンションの上がった津宮さんの話しぶりは、ずっと聞いていたくなるような明るさがあった。彼女にはそうあって欲しい。
「いいん、ですか? そのせいで、調子乗って、落ちたのに……」
「いいんだよ。ここは病院だから」
「じゃ、じゃあ……」
津宮さんは明るく話し始めた。
どうしてかは知らないが、俺の同伴前提で組まれているイベントも多かった気はする。苦楽を共にした仲だからかな? でも津宮さんとなら、楽しいこと間違いなし。
そんな風にして話していたら、気づけば太陽が沈んでいた。
長居は良くないだろうと思い、俺は病室をあとにすることにした。
「そろそろ帰ります」
「先輩、最後に一つだけ言っても良いですか?」
津宮さんは、目一杯の微笑みを向けながら元気よく言った。
「先輩はあたしのヒーローです! これからも、よろしくお願いしますね!」
ヒーロー。
まさか、そんなことを言われるなんて思っていなかった。
上手い返しが見つからない。だから。
「……また来ます。お大事にしてください」
「はい! いつでもウェルカムです!」
そして、面会時間は終わりを告げた。




