第19話 宝さがし(前編)
「先輩、話には聞いてましたけど、こんなところから入っていくんですか?」
津宮さんが不安そうに俺に聞いてくる。
俺たちが踏み入れようとしているのは、登山道でもハイキングコースでもない道なき道。広がるのは鬱蒼と茂る木々、それと足を踏み外せば落ちてしまいそうな斜面。
「そうですね……地図によるとここからが一番近いので。ダメそうならここで待っていてください」
「い、行きますよ! ちょっとぼやきたくなっただけですし」
まあ、俺もちょっと嫌だけど。
それでもハッピーエンドを目指すために必要なことだから。
「じゃあ、行きましょう。俺から離れないでついて来てくださいね」
「は、はい!」
山中に足を踏み入れていく。
どこで滑り落ちるかも分からないので、ゆっくりゆっくりと進んでいく。
ただ山に入ってそれなりに時間が経てば、多少は余裕がでてくる。そうなれば、この鬱蒼とした山の中を会話もなしに過ごせるはずもなく。
「先輩、この山って先輩の家が管理してるんですか?」
「どういう質問……?」
喋ることがない、というか頭が回らない故の質問か。
「その『?』みたいな反応止めてくださいよ……代々伝わる宝の地図とか言っていたので、土地もそうなのかなって」
疲れているせいもあってか、イライラしてような声の鋭さがあった。
「いや、違いますよ」
「え? ということは不法侵入ですか。確か山って所有者がいるんですよ」
「知ってますよ。だから事前に山の所有者の方と交渉してきました」
ギャルゲー世界とはいえ、そこらへんはしっかりしていた。
山の資源はワシのもの! とか言われる権利はあるのだが、そこら辺をどうにかするために姉貴に協力してもらっていた。
「あは、先輩……宝が本物だって信じてるんですね」
「ま、まあね。代々伝わるものだし」
本当は攻略本に書いてあるからなのだが。
津宮さんは「いいなあ~」と呟いていた。
「ということは先輩、家に家系図とかあるタイプなんじゃないですか?」
「ない――」
そこまで言って、「ない」とは言えないことに気づいた。
家系図もないのに『代々伝わる宝』とか、嘘だとバレてしまう。
「ないわけないじゃないですか」
「ですよね! あたしの家はそういうのは無関係なので、ちょっと憧れます。ちなみにご先祖は何をされてたんです?」
おおい! そこ、深堀する?
思ったよりも津宮さんは歴史とかが好きなのかもしれない。
でも、考えてる暇はない。即興で思いつくしかない!
「ええと、小さい団子屋を営んでたらしくて」
「団子屋さん! へえ~。でも団子屋さんが宝の地図をどこから手に入れたんです?」
適当に言い過ぎた。
でも、侍だったとは言えないって! 宝の地図持っているってことは、相当の地位にいたことになっちゃうから。
カバーストーリーを考えなくちゃ。
「そこをよく利用していた侍さんが、何かやらかして指名手配になったらしくて、幕府に金を渡すくらいなら…って感じで、地図をもらったらしいんです」
「ロマンありますね……。羨ましいなあ」
どうやら津宮さんは信じてくれたらしい。
あまりにもくだらない話をしていたが、そろそろ道の分岐だ。
地図にも載ってないような細い沢が流れている。
「綺麗な水ですね。足とかつけたら気持ち良さそうです」
「ヒルとかいるかもしれないから、絶対に止めてね」
「分かってますよ! 全く……ロマンがないです」
ムスッとした雰囲気を後ろから感じる。
でも、俺はこの宝さがしに誘ってしまった責任がある。
絶対に無事に帰さなくちゃいけない。
「あ、そろそろかも」
攻略本からページごと切り取った地図の解説。
見れば分かる特徴的な木の下に埋まっているらしいが。
「先輩、もしかしてあの木じゃないですか?」
津宮さんが指を指した方向には、真っ二つに裂けている特徴的な樹木があった。
このあたりで目立っているのは、あの木しかない。
「行ってみましょう」
「それっぽくはありますけど、本当にここなんですかね?」
津宮さんは悪態をつくが、俺には確信があった。
この景色は明確に攻略本で見たことがある。
近くに来てわかった。
「ここで会ってると思います」
俺は背負っていたリュックから、折り畳み式シャベルを二つ取り出した。
一つは俺が持ち、もう一つは津宮さんに渡した。
「掘りましょうか」
「……頑張ります」
それからは土と木の根と戦った。
最初の方は軽口もあったけど、途中から必要なこと以外喋らなくなった。
「あ、穴掘りってキツイです。パン屋バイトの比じゃないですよ……」
「もうちょっとだと思うから、頑張って……!」
愚痴を言ってくる津宮さんを励ましながら、掘っていった。
まだなのか……と疑っていると、シャベルの刃先に何か当たる感覚。
「また木の根、ですか?」
「……何か違う気がする」
「え、まさか――当たった感じですか?」
シャベルがぶつかったところから、丁寧に土を取っていく。
すると中から――黄金が現れた。




