第13話 津宮椿の謎
俺との勝負に勝った先輩からの要求が下された。
「じゃあ、そのバイト先であった面白い出来事で! あればでいい……なかったら、好きな女子の話で」
先輩はにやにやしながら、俺の回答を待っている。
この人譲歩したかと思いきや前者の「バイト先であった面白い出来事」は答えらないのが前提で出して来てるって! まだバイト始めて一日なのに。
まあ、あるんですけどね!
「ヤバそうなクレーマーが後輩女子に絡んでいたので、火災報知機を押して撃退しました! そしたら、店長からは『クビ』って言われました」
「ハハッ! 初日でクビとか」
鵜川先輩は笑いながら喋っている。
「でも、そっかあ。意外と正義感強いんだ」
「……まあ、はい」
感心したように言われた。
確かにこんな陰キャでゲーム好きなやつが正義感高そうには見えないな!
「それで、その後はどうなったんだ?」
「その後輩女子に助けられてクビを回避して、家に連れていかれてお礼をしてくれました」
そこらへんは別に面白いことでもないから、端折ってもいいだろう。
だけど、鵜川先輩は怪訝そうな目を向けてきた。
「ん? その後輩女子とは初対面じゃないのか?」
「そうですけど……?」
先輩が何を疑問視しているのか、いまいち分からない。
俺の方が首を傾げたい。
「いや、普通は初対面のやつを家に連れてかないだろ。いくらクレーマーから助けてもらったとて。コンビニで何か買うとか……その程度のことになるんじゃないか」
「言われみれば、確かに……」
確かにおかしいか。
わざわざ家にあったバナナケーキを渡してきた理由……それは何なんだ?
「お礼されたって具体的には?」
「後輩女子の家にあったバナナケーキを渡されました」
「ふうん? よっぽど自作の菓子に自信があったのか……」
先輩は頬杖をつきながらつぶやいた。
自作ではないと訂正するか悩んだが、そこはまあどうでもいいか。
「先輩、推理し始めても俺に答えは出せませんよ」
「あ、そっか。じゃあ、考えるの止める」
鵜川先輩はバッグから本を取り出した。
どうやら、これからは読書をするらしい。
ゲームはまた今度かあ……。
◆ ◆ ◆
出勤二日目。
店舗の裏にて先に着替え終わっていた津宮さんと遭遇した。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
まだシフトをもらってなく、津宮さんと一緒になれたのは偶然だ。
攻略本、イベント自体は書いてあるが津宮さんの『好感度に応じて発生』とかいう曖昧な書き方のせいでいつ起こるのか分かりづらい。
今日は引き続きレジ業務だ。
もうちょっと覚えてくれば、他の仕事も教えるとのこと。
なんとなく夕方の時間が過ぎて、閉店時間になる。
特にこれといったこと(俺がパンの種類が分からなくてごたついたくらい)を除いて、トラブルは起きずに時間は過ぎていった。
着替えてタイムカードを押して、帰ろうとしていたところを店長に止められる。
「ここにシフト表あるから、都合の悪い日とか書き込んでおいてね。一応来週以降も組んであるから、写真撮るなりメモ取るなりしてちょ~だい」
「了解です」
シフト表を見ると一番下に俺の名前が。
その上にいるのは津宮さん。
他人のシフトを気にするのは若干気持ちが悪いのは承知した上だが、まあ気にな――えっ?
「えっ」という反応が口に出なかったのは、ちょっとだけ自分の成長を感じる。
一目シフト表を見て驚いてしまったことがあるのだ。
津宮さんは週五回もシフトに入っている。
しかも土日なんて八時間勤務だし……一体どういうことなんだ?
その理由は攻略本を見れば明らかになるだろう。
だけど、それをして面白いか……?
自分の力で、関係性を深めて聞き出してこそが、俺のゲームプレイ!
「店長! お疲れさまです!」
俺は大急ぎで店から出て、先に退勤していた津宮さんを追いかけることにした。
思ったよりも遠くには行っておらず、少し走っただけで追いつきはしたが。
「はあ、はあ……ちょ、ちょっと待って津宮さん!」
「せ、先輩!? そんなに急いでどうしたんですか?」
津宮さんはちょっとびっくりしている。
なんでそんなにシフト入ってるの? を聞きたくて走ってきた、とは言えない。
ただ、それを抜きにしても俺は津宮さんと関われる手はある。
「津宮さん、俺もお礼がしたいんです」
「な、なにも対する……?」
「自分を雇ってくれるのを認めてくれたことだったり、クビ回避しようとしてくれたりしたことに対してです」
俺は津宮さんを助けたが、彼女もまた俺を助けている。
それなのに、彼女にだけお礼をさせるのはフェアじゃないと思う。
攻略本にも、そう書いてあった!
「というわけで、お礼させてください」
「……わかりました。それで、どうします?」
津宮さんはちょっとだけ口をもごもごとさせながら、俺の言葉を飲みこんだ。
「アイス食べに行きませんか?」
攻略本に津宮さんの好物としてアイスが書かれていたのを俺は知っている。




