第12話 バイトアキネーター
「いや、自分は嬉しいですけど……」
津宮さんは今食べたバナナケーキを安っぽいと言っていたけど、そこが不安なのだろうか?
「ごめんなさい、変なこと言って……帰ります。お疲れさまでした」
「……? お疲れさまです」
そうして初出勤のイベントは終わった。
個人的には予定通り進んだし、大満足だったんだが……津宮さんに関しては気になることがいくつかできた。
津宮さん目当てのクレーマー。
自信なさげなお礼……。
攻略本を見て知ることは簡単だけど、それじゃあこのギャルゲー世界を真の意味でプレイしているとは言えない。
知りたいなら……することは一つ。
ここはギャルゲー世界なのだから、好感度を上げるのみ!
◆ ◆ ◆
好感度を上げようと思ったものの、次のシフトは明後日。
久しぶりに放課後はゲームする! でもよかったのだが、今日は久しぶりに第三自習室へと行くことにした。
このギャルゲー『Timeless Days』をクリアするには津宮さんだけじゃなくて、鵜川先輩も攻略する必要がある。時間があるときに先輩との繋がりを強化するのは決して悪くはないと思う。
ガラガラと扉を開けて第三自習室に入ると、端っこの見えにくい、いつもの定位置に鵜川先輩は座っていた。
今日はスマホを弄っている。
SNSだろうか……何かを検索してる?
俺が近くに寄って来たのが分かったのか、バッと勢いよくスマホを隠した。
「……ッツ! もしかして、見たか?」
先輩はギッと俺のことを睨みつけてきた。
凛々しさのある彼女の本気で鋭い眼光に睨まれるとかなり怖い。パン屋にいたあのクレーマーおじさんより正直怖い。
ここまでの凄みを見せられると、何かヤバいものを見ていたのかと良くない心が騒ぎ立ててしまう。
「……まさか、エッチなのを見てました?」
先輩はカーッと顔を赤くした。
この反応、まさか……当たってしまった?
「なんで私が学校でエッチなものを見てることになる! 失礼だな!」
「すいません……スマホに夢中だったようなので」
鵜川先輩は怒っているように見えるが、近づいたときほどの鋭さは無かった。
スマホでの検索を見られるより、エッチなのを見てたというからかいの方が不快じゃなかった? まあ、どちらにせよ。
「ほんとうにごめんなさい! 調子に乗りました」
「そうだよ。全く……場合によっては絶交するところだった」
どうやら本気で怒っていたらしい。
本能で察せてよかった。ここで鵜川先輩ルート終了なんて最悪すぎる。
「それに、一緒にゲームするって言ったくせに全然この自習室に来ないし、一体全体なにをやっていたんだ?」
「……バイトを始めまして」
「バイト? 君が?」
その反応、柿森さんにされた覚えがある。
他人からもゲーム好きって思われてるのは悪くないけど、侮られてる気もする。
「どんなバイト……いや、面白くないな。折角ならゲームをしよう」
「ゲームですか? 何やります?」
俺はリュックから携帯用ゲーム機を取り出そうとするが、先輩が首を横に振った。
「違うよ。言葉だけでできるゲーム」
「TRPGじゃないですよね? となると――」
「アキネーター風にやったら、面白いかなって」
「いいですね! やりましょう」
アキネーターとはある特定のものを思い浮かべて、それを相手が質問し、イエスやノーで答えていくというものだ。
つまり先輩が俺に質問していき、できるだけ少ない質問回数で俺のバイトを当てるゲームになるわけだ。
「私の勝利条件はそうだな、五回以内に正解したらでどうだ? 負けたら、買った方の言うことを聞くで」
「了解です! 負けませんよ」
罰ゲームありだと負けられない。
無しでも負ける気はさらさらないが。
「じゃあ行くぞ! まずは――そのバイト先は飲食業ですか?」
「……部分的に、そう? ですかね」
「ん? そんなことある?」
「いや、俺の知識だとそういう回答になっちゃいます」
パン屋が飲食店かどうか、俺にはよくわからない。
飲食店って店内で調理して料理を提供して、その場で食べてもらう店? でいいんだろうか。その体で考えるならパン屋は『部分的にそう』っぽい。
「部分的にってことは完全な飲食業の形態ではないって君が思っている……だったらファミレスなどの外食産業は除外される。であるなら、フードデリバリーやテイクアウトが専門、もしくは小売り業のようなもので食品を扱っていると考えてよくて――尚且つ高校生が従事できる、親御さんも認めてくれるようなバイト先…………」
一つ回答しただけで先輩は考察を深めていく。
プロフィール紹介にも書いてあったが、鵜川先輩が頭良いって本当だったんだ。特に回転がめちゃくちゃ速い。
「パン屋かな」
「……! せ、正解です」
まさか質問一回だけで当てられるとは思っていなかった。
驚いて一瞬フリーズしちゃったよ。
「うーん、じゃあ勝ちってことだから――言うこと聞くよね?」
「まあ、はい」
基本、俺は勝負事に負けると悔しくなるタイプではある。
けど完敗すぎて言い訳すらできなかった。




