第11話 津宮さんからのお礼
女子の家に行ったことなんて生きてきて今までない。
ゲーム一筋で興味ない……と言いたいが、俺だって思春期の男子。
ただ少し不思議に思うこともある。
いくら感謝してるからって、ほぼ初対面の男を家に招くだろうか?
でも、こちらとしては不都合ないし……。
津宮さんが歩き出したので、俺も隣を並んで歩く。
誰かと帰るのって中学ぶりだ……女子と一緒に帰るという条件なら小学生以来のことかもしれない。
このタイミングも仲を深めるチャンスかもしれない。
流石に攻略本には書いてないが、できることはやる。
「津宮さんはどれくらいパン屋でバイトをしてるんですか?」
「ん~まだ、二週間くらいですかね」
「……!? そうなんですか?」
そんなに短い期間しか働いてないのに、俺の教育係を……?
あの店長ヤバすぎだろ。それとも、それだけ津宮さんができるってことなのか。
「アハ! そんなにビックリします?」
「ま、まあ……」
「あたし、まだ高一ですよ。冷静に考えてそんなに歴あるわけないじゃないですか」
「確かに!」
言われて気づくがその通りだ。
今はまだ四月の三週目。中学生だった三月までバイトはできないはずなので、四月の入学直後から始めたと考えるのが妥当だろう。
そう納得していたら津宮さんがクスッと笑った。
「先輩ってちょっと抜けてるところありますね」
「……? ですかね?」
「だってバイト探しに来ただけなのに変な反応しちゃうとか、クレーマーを追い返すために火災報知器押しちゃうとか。なんか普通、とはちょっと違った感じの」
なんか楽しそうに語っている。
話だけ聞いてると馬鹿にされているような気がしなくもないが、そういうわけではないような気がする。
「ご、ごめんなさい! 馬鹿にしてるわけではなくて……」
津宮さんも変な言い方をしてると思ったのか謝り始めてしまった。
「普通とは違う感じはしますけど、い、良い人だって言いたかったんです……」
津宮さんはちょっとだけ顔を赤く染めていた。
良い人と言われて、嬉しくないわけもない。
ただ、こちらもちょっぴり恥ずかしい。
「……ありがとうございます」
「い、いえ。思ったことを言っただけなので……」
そうこう話しているうちに津宮さんの家に着いた。
「あんまり見ないでください……古いアパートなので」
「わ、わかりました」
確かに年期は入っているように見える。
でも周りは暗いし、よく分からないと言えば分からない。
「じゃあ先輩、ここで待っていてください」
「あ、はい。分かりました」
分かってはいたけど、中には入れてくれないらしい。
攻略本にも書いてあった。如何に俺に感謝の気持ちがあったとしても、普通に考えて家には上げないだろう。時間も時間だし。
津宮さんがどう動いてくるのか、ドキドキしながら待っていると何かを抱えて玄関から出てくる彼女が見えた。
「お待たせしました……これ、受け取ってくれませんか? お礼です」
透明なラッピング袋に包まれいるのは、何かのお菓子らしきもの。
暗いのもあるし、何なのかいまいち分からない。
「ありがとうございます。でも、本当に申し訳ないんだけど……この袋の中に入ってるのって何ですか?」
「バナナケーキです……ご、ごめんなさい。こんな安っぽいものしか渡せなくて」
「バナナケーキ……」
本当に聞き覚えのないお菓子だった。
少なくともコンビニに売っているタイプではないと見た。
「嫌、でしたか?」
津宮さんは不安そうに俺のことを見つめてくる。
バナナケーキを知らない無知ゆえに、そんな表情をさせてしまったのが情けない。
俺はとっさにラッピングを破って、口へと運んだ。
「なっ!」
「滅茶苦茶美味しいです! 知らないお菓子だったから、ちょっと警戒しちゃっただけで全然嫌じゃないですよ」
その行動を見た彼女は、嬉しそうに頬を緩めた。
「なら良かったです……!」
「こんなに美味しいお菓子が食べられるなら、助けた甲斐もあります!」
本当に美味しかったのもあるが、それだけじゃない。
津宮さんが作ったと思われる手料理を食べられたということが、滅茶苦茶嬉しい。
「そ、そうですか!? お母さんにも伝えておきますね!」
「よ、よろしくお願いします……」
一瞬で幻想が壊れた。
冷静に考えれば、その可能性が高いのは当たり前すぎた。
「じゃあ、そろそろ帰りますね」
俺は帰ろうと踵を返そうとした。
だけど、津宮さんが不安そうに声を震わせた。
「お礼、本当にこんなのでよかったのでしょうか?」




