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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第1章 刹那の黒真珠 編
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33/42

033:魔法少女はとまらない

033:魔法少女はとまらない

SIDE アルカナフレア


「待たせたね!!」

 戦場に似つかわしくない、間抜けで、けれど世界で一番頼もしい声が響き渡った。


 視界の端、瓦礫の山を蹴散らして、黄色い弾丸フェニックスがこちらに向かって猛ダッシュしてくるのが見える。

 その短い足を高速回転させ、翼をバタつかせながら走る姿は、感動的な再会シーンと言うにはあまりにもコミカルだ。

 だけど、今の私には、白馬に乗った王子様よりも輝いて見える!


「とう!!」

 フェニックスが地面を蹴り、放物線を描いて私の肩へと飛び乗った、その瞬間!


「行くよ、フレア! 反撃開始だ!」

「合点承知!!」


 パートナーが戻ってきた。

 ただそれだけで、身体の芯に火が灯り、全細胞が「勝機」を叫び始める。


「行っけえええ!!」

 私は逆噴射して抵抗していたバーニアの出力を、一気に魔人に向かって最大出力フルスロットルへと叩き込んだ!


「な!?」

 今まで必死に逃げようとしていた獲物が、突如として自ら突っ込んでくるという自殺行為に、魔人の思考が一瞬停止する。


 ……絶望に空いたほんの刹那の針の穴。

 ここが私たちの突破口だ!


 ――今だ!!

 わずかに弛んだ呪縛の隙間へ、私は加速の暴力をねじ込み、力任せに突き破った。


 爆音と共に、世界がひっくり返るような凄まじい反動。

 だが同時に、私を雁字搦がんじがらめにしていた魔人の黒髪が、あまりの急転直下に追従しきれず、一瞬だけその力を失った。


 私はその隙を絶対に見逃さない!

 纏わりついていた残りの髪を紅蓮の炎で一気に焼き切り、一直線に魔人の元へとさらに加速をかける。


 焼き切られた無数の髪が、爆発的なG(加速度)に耐えきれず、私のバトルドレスを激しく叩きながら剥ぎ取られていく。

 引き剥がされた黒髪は、猛烈な風圧に煽られてバサバサとのた打ち、一気に私の背後へと置き去りにされていった。


「小癪な……ッ!!」

 反射的に、魔人が右手を突き出す。

 空気が悲鳴を上げるほどに歪み、目に見えない衝撃波が、巨大な鉄槌となって正面から迫り来る。

 まともに喰らえば、加速する私の肉体は容易く粉砕されるだろう。


 けれど、ブレーキをかける選択肢なんて最初から無い!

 フェニックスなら、絶対に何とかしてくれる!

 そんな根拠のない、けれど絶対的な確信が、私の背中を強く叩いたからだ。


 その信頼に応えるように、私の肩でフェニックスが空中のディスプレイを叩きつけながら叫ぶ!

  『 ピンポイント・バリア!展開!!』


 激しい結晶の衝突音が鼓膜を震わせ、弾け飛んだ衝撃波の圧力が、鮮烈なチェリーピンクの火花となって、加速する私たちの後方へと激しく吹き散らされていく。


「いけぇぇぇ! フレアぁぁぁ!!」

「うぉぉぉぉぉ!!」


 突き抜ける。

 衝撃波の壁を力任せに突破し、驚愕に染まる魔人の懐へと一気に肉薄した。


「喰らえぇぇぇぇッ!!」

 私はフェニックスが用意してくれた「白い塊」を、魔人の顔面めがけて全力で投げつけた!


 これは、フェニックスが教室のカーテンに重りを縫い付けて即席で作ったフェニックス特製ジャミングカーテンだ!


「なめるな! 小娘がぁぁぁぁぁッ!!」


 尋常ではない殺気を感じ取ったのか、魔人はプライドも恥も外聞もかなぐり捨てて絶叫した。

 彼女が両手を狂暴に突き出した刹那、周囲の空間がドロリと漆黒に濁る。

 魔人が放った、自身の全魔力を絞り出した最大級の『時間遅延領域』。


「っ……、あ……っ!?」


 凄まじい推進力で突撃していた私の身体が、まるで水飴の海に飛び込んだかのような、凶悪な急ブレーキに捕らえられた。

 思考の速度だけが置き去りにされ、突進の初速が、ミリ単位の超スローモーションの世界へと強制的にギチギチと引き絞られていく。

 肉体が、鉛のように重い。


 魔人の顔に、獲物を捕らえたという勝利の笑みが浮かびかける。


 ――だが、その絶望の引き延ばされた時間の中で、ただ一羽だけこの瞬間を待ちわびていたひよこがいたのだ。


 私の手から放たれ、完璧な軌道で広がっていたカーテン。

 それだけが、魔人の時間遅延を完全に無視して、フワリと前方に展開されていくのだ。


(え……? カ、カーテンが……進んでる……!?)


 スローモーションの静寂の世界の中で、その白い布だけが、ゆっくりと、けれど確実に私より速い速度で魔人の目の前を覆っていく。


 驚愕に目を見開く魔人。

 遮られる視界の向こう、彼女が最後に目撃したのは――

 スローモーションの引き延ばされた時間の中で、私の肩にしっかりと爪を立てて、カーテンに時間遅延対策の魔導計算式を打ち込んだ、ドヤ顔の『黄色いひよこ』の姿だった。


(あの、ひよこ……っ!? まさか、これに最初から――術式を――っ!?)

 魔人の思考が、恐怖で凍りつく。

 私と魔人を結んでいた因果の射線が、完全に、カーテンの白によって遮断された。


 バサァァッ!!!


 カーテンが広がりきり、完全に目隠しが完了した――その刹那!


 ガシィィィィィンッッ!!!


 泥のようだった世界が、激しい音を立てて元に戻った。

 射線(能力の適用条件)が切れたことで時間遅延が強制解除され、今まで檻のように私を縛り付けていた反動のすべてが、一気に爆発的な前進エネルギー(ベクトルの暴力)へと反転する!


「視界が切れた! 今だ、フレア! ブレードモードだ!」


 泥臭い大金星を挙げたフェニックスが、元の超速度に戻った世界の中で、私の左腕を駆け上る!

 その勢いのまま、くちばしでスキルカードをスロットへ叩き込んでくれたのだ!


 ――ガシュゥッ!


 カードを飲み込んだ刹那、展開していた翼型リーダーが獲物を抱き込むように電磁的な速さで閉じる。

 白熱するスロット。

 接合面の隙間から吹き出した鮮烈な火花が、夜明けの空を激しく焦がす。


『Skill Card, Set.Morpho Wing, reconfiguring to Blade Mode.』

(スキルカード、セット。モルフォウィング、ブレードモードへ再構成)


 システムボイスが響く中でも、私はバーニアをブレードへの変形直前まで限界を超えて吹かし抜く。

 加速、加速、加速――!

 エアリアルモードの推進器が白熱し、「前進の勢い」を殺さぬまま、猛烈な速度で私の背中へと収束していく。


 それは、突撃の衝撃をすべて「一振りの刃」へと注ぎ込むための、神速の組み換え。

 背中に集まった推進器が甲高い金属音を立てて組み変わり、灼熱の光を放つ一本の巨大な刀身へと姿を変える。


加速これを全部、乗せてやる……っ!!」


「ぅおらあぁぁぁ!!」

 イメージするのは、突進の重圧をすべて肩越しに投げ飛ばす背負い投げ!

 全身をひしゃぐ凄まじいGを力に変え、背負った大剣の柄を鷲掴む!

  直線の慣性を、円の遠心力へと強引にブチ曲げる――!

 高周波で激震し燃え上がる黄金の刃が、流星と化した推進エネルギーのすべてをその身に宿し、フェニックス特製ジャミングカーテンごと魔人の結界に叩きつけられた!


 津波が激突したような音がした!

 それは、幾重にも重なった『絶対防御』という概念そのものが、逃げ場を失い、根底から叩き潰される破滅の破砕音だった!

 高熱のプラズマと激突した多重結界が、一瞬だけ耐えるように軋み、直後、逃げ場を失った圧力が爆発。

 私とフェニックスの想いを乗せた黄金の輝きが、結界という不落のことわりを、万華鏡を粉砕機にかけたような極彩色の破片へと変え、魔人のプライドごと粉々に打ち砕いた!

「いけぇぇぇぇぇ!!」

 私の全てを絞り出すような絶叫が響き渡る!

 結界を突き破った刃の勢いは止まらない。

 魔人の命脈まであと数センチ。


 だがその刹那、魔人の胸元で不気味に輝く『刹那の黒真珠』が、主を守ろうと本能的な防衛機構を起動させた。

 かつて私のレールガンさえ防ぎきった、光を拒絶する漆黒の闇。

 それがドロリと溢れ出し、私の振るう炎の剣を飲み込み、その熱量を喰らい尽くそうと牙を剥く。


 黄金のプラズマが漆黒の深淵を焼き払おうと狂ったように荒ぶり、対する闇は、触れた端から熱量を『無』へと変換して飲み込んでいく。

 爆発的なエネルギーがぶつかり合う接合面から、逃げ場を失った火花が漆黒の稲妻となって周囲を切り刻み、私の腕を伝う確かな「手応え」が、底知れぬ虚脱感へと塗り替えられていった。


(くっ、押し負ける……!?)


『そう来ると思ってたよ!』

 耳元で力強い声が響いた!

 フェニックスが空中に展開していた計算式の最後のエンターキーを、その短い羽で力一杯叩きつける!


『Admin: Override: Max Burn. Execution.』

(管理者権限:オーバーライド:最大火界。執行)

 

 システムボイスが鳴り響くいとまさえ惜しむように、フェニックスが引きずり出したブレードの中の「真の出力」が爆発した。


 ドォォォォォンッ!!

 

 私の手の中で唸りを上げていた刀身から、物理法則を無視したデタラメな勢いで黄金の火柱が噴出する!

 それは魔人の闇を「払う」のではない。

 圧倒的な熱量とエネルギーの暴力で、闇そのものを焼き払い、消滅させたのだ。


 視界を遮るものは、もう何もない。


(――ようやく、届く!)


 私と魔人を結ぶ「勝利への直線」を、黄金の刃が一点の迷いなく駆け抜ける。

 そのまま一気に、魔人の肉体ごと世界を断つ勢いで振り抜いた――!



Liner Notes

■Track 33

【分類】

  [[1]:アイテム紹介] > [[11]:変身・武装]


【日本語名称 / English Name】

 スキルカード:ブレードモード / Skill Card: Blade Mode


【概要 / Overview】

 アルカナフレアの機動武装『モルフォウィング』を、近接決戦用の巨大な大剣へと再構成リコンフィギュアするための専用スキルカード 。

 将来的に食玩のおまけになる事を想定したデザインを採用されている。

 大剣全体のダイナミックなイラストに、カッコいい感じの炎や剣のシンボルと意味ありげな数字が描かれている。


【特性・スペック / Properties & Data】

 ・レアリティ (Rarity)

 スタンダード(Standard)


 ・高周波プラズマ振動

 黄金の火柱を伴う高周波振動により、見た目の派手さと美しさと破壊力のすべてを高次元で両立。

 敵を圧倒し、戦場を魅了し、障害を粉砕する、まさに一石三鳥の黄金比を実現している。


 ・結界干渉・論理焼却

 対象の防御結界に接触した瞬間、その構築式に干渉し、強制的に回路を焼き切る「論理焼却コード」を上書き(オーバーライド)する。


 ・物理・論理二重崩壊

 大剣による物理的質量攻撃と、術式への直接干渉による構造崩壊を同時に行い、あらゆる概念結界に対して高い破壊適性をもつ。



【特記事項 / Secret Note】

・レアリティの意味

 本システムのスキルカードは「スタンダード」「レア」「ウルトラレア」の3段階に大別される。

 本カードが属するレアリティ「スタンダード」は、決して下位ランクを意味しない。

 むしろ、フェニックスが最も心血を注いだ、安定性・信頼性ともに基準値を超えた「王道マスターピース」を示すランクである。

 対して「レア」は、特定の状況にのみ特化したピーキーな性能であり、汎用性に欠ける実験的な側面が強い。


 また、現時点で最高位の「ウルトラレア」には「魔王の絶対隷属召喚」といった、世界のパワーバランスを根底から覆しかねない概念崩壊級のカードが割り振られている。

 このブレードモードは、それら特殊なカードを必要としないほどに磨き上げられた「究極の標準兵装」なのである。



Tags: #相棒の帰還 #投網名人の伏線回収 #フェニックスの読み的中 #ブレードモード #王道のスタンダード


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