032:魔法少女は煽りがうまい
032:魔法少女は煽りがうまい
SIDE アルカナ・フレア
『Critical Danger to Wearer: Confirmed.』
(装着者の生命危機:確認)
『Initiating Emergency Override: Attempting A.R.C.A.N.A System Restriction Release.』
(緊急オーバーライド開始:アルカナシステム制限解除を試行)
『System Status: Standalone. Administrator "Phoenix": Absent.』
(システム状況:スタンドアロン。管理者「フェニックス」:不在)
『Searching for Emergency Authorization... Wearer Privilege: Insufficient.』
(緊急実行権限を探索中……装着者権限:不足しています)
『Requesting Wearer Status Overwrite...』
(装着者の属性書き換えを申請します)
『..................【Deliberating... 】..................』
(..................【審議中... 】..................)
『――Detecting "Absolute Trust" amidst "Fatal Despair".』
(――絶望の中、確固たる信頼を検知)
『Condition for Class Redefinition: Verified.』
(――ユーザー属性の再定義条件:クリア)
『Initiating Class Redefinition: [Temporary User] ➔ [True Partner].』
(――一時的使用者から、真なる相棒へ再定義開始)
『Updating Database.......................................................... COMPLETE.』
(属性の更新………………...............................................................完了)
『Re-Attempting A.R.C.A.N.A System Restriction Release.』
(アルカナシステム制限解除を再試行)
『User Authentication.................. COMPLETE.』
(ユーザー認証.................................『承認』)
『Authority: Limited Release. Limiter... Disengaged!』
(権限:限定解放。リミッター……解除!)
まるでフェニックスが私の心に応えてくれているような、力強い承認の言葉。
そして、システムは最終フェーズへと移行する。
『Main Drive System: Connect.』
(主動力炉:接続)
『"D.D.O.C." (Doki-Doki Otome Circuit), Engaged.』
(駆動系:「ドキドキ乙女回路」、起動)
無機質でクールな英語、そして極限まで高まったシリアスな雰囲気。
けれど、その単語の意味を理解した瞬間、私の感動は消し飛んでズッコケそうになった。
「はぁ!? 何そのふざけた名前!?」
私のツッコミなどお構いなしに、システムは淡々と、そして恐ろしいフェーズへと移行する。
『Unlocking Core Material: Forbidden Relic "Seraphim's Agony".』
(炉心核解錠:禁忌遺物「セラフィムズ・アゴニー(熾天使の苦悶)」)
「……えっ、なんか急に天使が苦しんでるヤバそうな名前が出てきたんだけど!?」
カシャッ……
ビュオォン……。
右手の甲を覆っていた装甲が、遅延する時間の中で、低い音を立てて上下にスライドしていく。
それはまるで、堅く閉ざされていた「機械の瞼」が、ゆっくりと開いているようだった。
装甲の下から現れたのは、血のように赤黒く、それでいて虹色に脈打つ巨大なクリスタル。
その禍々しくも美しい輝きが、暗闇の中でカッと見開かれ、眠っていた力が「覚醒」する!
『Reactor: Limit Release.』
(反応炉、制限解除)
『Activating Grand Prominence Mode: "ARCANA FLARE".』
(グランド・プロミナンス)モード:『アルカナ・フレア』――起動)
あふれ出す黄金の光が、私の右腕を包み込み、手の中に小さなしかし力強く燃え上がる火種が生まれた。
ふざけた回路名に、呪いのような動力源。
そして、私の名前を冠した、この燃え上がる炎。
いかにもあのひねくれた魔王らしい、悪趣味で最強のプレゼントだ。
『行こう!アルカナ・フレア!!』
バトルドレスを通してフェニックスの声が聞こえた気がした。
そうだよね。
私は、ここで終わるような安い悲劇のヒロインじゃない!
「性格最悪おばあちゃん、教えてあげる」
私は顔を上げ、黒い壁の向こうの見えない敵に向かって不敵に笑う。
「貴方が捕まえたのは、か弱い小鳥なんかじゃない!!」
私が右手をギュッと握ると、グローブが紅蓮の炎に包まれた!
「魔王フェニックスの魔法少女!!神秘の炎!アルカナフレアよ!」
「うおおおおおおっ!!」
私の咆哮に呼応し、炎が色を変える。
ありふれたオレンジ色は、瞬く間に酸素を食らい尽くし、透き通るような青色へと温度を上げた。
周囲の棘が、触れる前から炭化してボロボロと崩れ落ちていく。
まだだ、まだ足りない! フェニックスの炎はこんなものじゃなかった!
「もっと……もっと熱く!!」
青い炎がさらに輝きを増し、この世ならざる神聖な紫色へと変貌する。
魔力の奔流がドレスを駆け巡り、空間がその熱量に耐え切れずにビリビリと悲鳴を上げ始めた。
そして、臨界点突破。
紫の光すら収束し、色が消えた。
そこにあるのは、直視すれば網膜を焼き尽くすような、純白の閃光。
音が消えた。
熱すら感じない。
あるのは、触れるものすべてを原子レベルで分解する、破壊の権化だけ。
「燃え尽きろ!!」
私はその掌にある『太陽』を、迫りくる絶望の壁に叩きつけた!
ドォォォォォンッ!!
魔人が勝利の美酒に酔おうとした瞬間、黒い繭が内側から膨れ上がり、白亜の閃光と共に弾け飛んだ!
「なっ…!?」
魔人の驚愕の声がかき消される。
炭化した髪の破片が飛び散る中、噴き上がる炎の柱の中から、私はゆっくりと舞い降りた。
纏うのは、太陽のような眩しく美しい黄金の炎。
「あり得ない!…わたくしの髪を…わたくしの特製の鳥籠を焼き払うなんて…!」
魔人が信じられないものを見る目で後ずさる。
そのドレスの裾が焦げ、優雅な余裕は消え失せていた。
私は炎を払いのけ、魔人を指さして不敵に笑う。
派手な登場、決まったね!
これ、フェニックスが絶対好きなシチュエーションだったのに、こういう時に限って居ないんだもんな。
あとで自慢してやろう、きっと悔しがるに違いない。
私が相棒が悔しがる姿を想像してクスクスと笑っていると、魔人はそれがたいそうお気に召さなかったようだ。
魔人の顔が屈辱で赤黒く歪む。
「イライラしますわ。わたくしにその命を捧げるだけの家畜風情が…その不愉快な笑みをやめなさい!」
激昂した魔人が、眉間に皺を寄せてすごんできた。
さっきまでならいざ知らず、今の私にその凄味はきかないよ。
だって、今の私は一人じゃない!
私がアルカナ・フレアである限り、フェニックスはいつも私と戦っているんだから!
……そっか。
だから、分かったんだ。
満たされた私の心と対照的に、目の前にいる彼女の心が、どうしようもないほど空っぽなことに。
私は頭をポリポリかきながら、心底不思議そうに首をかしげて見せた。
「うわぁ……人を家畜呼ばわりとか、性格悪すぎてドン引きなんですけどぉ」
私は魔人の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
さっきまでは怖くて直視できなかったその目は、今見ると、ちっとも楽しそうじゃなかった。
「……ねえ、おばさん。さっきから『美味しくいただく』とか『絶望のスパイス』とか言ってるけど、本当にそれが欲しいの?」
「な、なんですって…?」
魔人が虚を突かれたように言葉を詰まらせる。
「私には、あなたが無理して笑ってるようにしか見えないよ。……ねえ、気付いてる? あなたの笑顔、どこか痛々しいよ。」
私の言葉に、魔人の顔が凍り付く。
私は畳みかけるように、感じたままの「真実」を口にする。
「若さとか美しさとか、そんなの本当はどうでもいいんでしょ? あなたが本当に欲しがっているのは、若さなんかじゃな……」
「黙れぇぇぇぇッ!!」
私の言葉を遮るように、魔人が絶叫した。
その表情は、怒りを超えて、怯えに近かった。
見られたくない傷口を、無理やりこじ開けられそうになった子供のように。
「おまえに! 小娘ごときに何が分かる! 私の孤独が! 私の空虚が! おまえごときにぃぃぃ!!」
爆発するように、彼女の髪が四方八方に放たれた!
今までのもてあそぶような攻撃とは違う。
髪はうねりながら絡み合い、強大な蛇のようにまとまると、私に向かって飛んできた。
一撃一撃が致死の威力を秘めた、大ぶりの攻撃が私に襲い掛かる。
でも、威力はすさまじいけど、動きが雑!
私はエアリアルモードを巧みに操り、荒れ狂う髪の猛攻を、まるで舞うようにひらりひらりとかわしていく。
【Warning: Three minutes remaining.】
(警告:残り時間、三分)
本来焦るところなのだろうが、今の私に動揺は無い!
何故ならばフェニックスが必ず間に合わせると断言したのだ!
今ごろ、あの短い足をフル回転させて、羽をバタつかせながらてんてこ舞いで準備してるに違いない。
その必死な姿を想像すると、恐怖なんて吹き飛んで、むしろ笑いがこみあげてくる。
魔人のなりふり構わない猛攻で、地面が抉れ、建物が壊れる。
それを巧みに避けながら、私は少し距離を取って地面に降り立つと、私は魔人を小馬鹿にするように、フェニックスがこだわりまくっていた自慢の太ももをくいっと強調するポーズを決めてみせてやる。
「あまりはっちゃけ過ぎないほうが良いよ、加齢臭の汗がそのキツイ香水でも誤魔化せなくなるよ!お・ば・あ・ちゃ・ん」
「きさまぁぁぁ!!」
魔人の目が真っ赤に充血し、顔中に血管が浮かび上がった。
彼女が絶叫と共に両手を突き出すと、今まで一番強力な不可視の特大の一撃が、空間そのものを歪ませながら私に迫ってきた。
「えっ!?」
とっさに防御姿勢をとったけど、衝撃は想像を絶するものだった。
バトルドレスのシールドがガラスのように砕け散り、私の体は校舎の壁を突き破って、教室の中まで吹き飛ばされた。
間髪入れず、魔人は追撃を開始する。
自らも砲弾のように飛んできて、瓦礫から起き上がろうとする私の足に、その髪を素早く絡ませた。
足首に絡まった髪が私を魔人の元へ凄い力で引っ張っていく、まるで地獄の亡者が私を地獄に引きずり込もうとしているよう。
私は全身のバーニアを逆噴射させて抵抗するが、ドレスが軋むだけで魔人と私の距離はジワジワと縮まるばかりだ。
【Alert: Two minutes remaining.】
(警告:残り時間、二分)
戦闘終了時間の警告音が私の心を締め上げていく。
もう2分しかないの?
ううん、まだ、2分もある!!
でも……このままじゃ、ジリ貧どころかゲームオーバーだ。
心の中、奮い立たせていた強がりに、ほんの少しの焦りがまじりはじめたその時!
視界の端、瓦礫の山から砂煙を巻き上げてあの黄色い塊が猛スピードで走ってくるのが見えた。
……キタ!!!
私は最後の力を振り絞り、バーニアの出力を維持したまま大声で叫んだ。
「遅いよ! 馬鹿ひよこぉぉぉ!!」
Liner notes
■Track 32
【分類】
[1:アイテム紹介] > [13:寄生・禁忌遺物]
【日本語名称 / English Name】
禁忌遺物:『セラフィムズ・アゴニー』 / Forbidden Relic: Seraphim's Agony
(正式名称:『リグレット・オブ・ルシフェル』 / Regret of Lucifer)
【概要 / Overview】
かつて最高位天使であったルシフェルが、堕天して大魔王ルシファーになる直前、フェニックスがどさくさに紛れて抜き取った純白の羽をコアに精製したクリスタル。
現在の大魔王ルシファーの翼は漆黒に染まっているため、全次元に現存する「最後の白い羽」という超絶激レアアイテムである。
【特性・スペック / Properties & Data】
この遺物は物理的な魔力を貯蔵しているのではない。
魔界の支配者たるルシファーの魂の深層へ不正アクセスし、そこからエネルギーを無断で引き抜くための「裏口」である。
本来、異世界間での高エネルギー物質の持ち運びは制限されるが、この方法は「無尽蔵のエネルギー源にホースを刺して、こっそり吸い出しているだけ」なので、ホースを通す分の負荷さえ誤魔化せば、実質無限のエネルギーを異世界で行使可能となる。
法の抜け穴を突くような、フェニックス渾身の裏技である。
【特記事項 / Secret Note】
・エネルギー原理
『黒歴史の永久機関』
この遺物の動力源は、ルシファーが心の奥底に隠している「堕天への未練」である。
表向きは神に反逆し、冷酷無比な大魔王として振る舞っている彼だが、その深層心理に「あの頃の俺、輝いてたなぁ……」という女々しい後悔が1ミリでも残っている限り、その感情熱量の差がこの遺物を通じて莫大なエネルギーへと変換され続ける。
ルシファー側からすれば、自身の総魔力から見れば誤差レベルの流出であり、肉体的なダメージはない、加えてフェニックスの神業的な偽装技術のお陰で『よっぽど注意しない』と発見される心配はないだろう。
しかし精神的には「思春期に書いた恥ずかしい自作ポエムを、本人が知らないところで、赤の他人に24時間読み上げられ、しかもそれを燃料にされている」のと同義である。
まさに、悪魔的精神的拷問を利用した永久機関と言える。
・セキュリティリスク
『魔界総軍による抹殺対象』
この遺物は、フェニックスによる「究極の盗聴器」であり、大魔王ルシファーにとっては威厳に関わる「致命的な脆弱性」である。
もしこの遺物の所在がルシファー本人に露見した場合、彼は戦略的価値を度外視し、「プライドと羞恥心の保護」のためだけに、魔界の全軍団を率いて次元をこじ開けてでも回収に来ると断言できる。
フェニックスは、この「バレたら世界が終わるレベルの地雷」を、魔法少女の演出のためなら安いものだと判断し、涼しい顔でアルカナ・フレアの腕に搭載しているのである。 正気ではない。
Tags: #反撃開始 #ユーザー認証成功 #D.D.O.C #熾天使の苦悶 #ひよことの合流




