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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第一章 刹那の黒真珠 編
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28/33

028:魔法少女はつかず離れず攻撃したい。

028:魔法少女はつかず離れず攻撃したい。

SIDE アルカナ・フレア


「フレア!これを使うんだ!」

 フェニックスが新たなスキルカードを飛ばしてきた。

 私は魔人の 黄金の瞳から一瞬たりとも目を逸らさないまま、宙を舞うカードを右手で鮮やかにキャッチして、そのままデバイスにセットする。


『Skill Card, Set. Aerial Mode, Activate.』

(スキルカードセット。エアリアルモード起動。)


 刹那、背中のモルフォウイングが力強く一度だけ火の粉を散らして羽ばたいた。

 次の瞬間、モルフォウイングがいくつかのパーツに分かれて、背中だけじゃなく腰や足首にも展開される。


 ウイングモードがまっすぐ速く飛ぶためのものなら、このエアリアルモードは空中で自由に動き回るための形態みたい。


 腕に来たパーツはグローブと一体化するように合わさると、私のてのひらにバチバチと火花を散らす、赤いプラズマ球を生成し始めた。

 どうやら、これで中距離から攻撃を仕掛けられるみたいだ。


 これなら……あのいやな領域の外からでも戦える!


 嵐の前の静けさは、そこまでだった。


 ……いくよ!


 一瞬。

 溜めていた魔力を足首のバーニアに一気に叩き込む。

 ふわりと浮いたと思った直後、私は重力を置き去りにして、弾丸のような速度で魔人の正面へとカッ飛んだ。


「なっ……!?」


 魔人が驚くほどの超加速。

 これがエアリアルモードの機動性……まるで重力から解放されたみたいだ。

 思うがままの軌跡を描ける。


 魔人が苛立ち、見えない衝撃波を無数に放ってくる。

 けれど、今の私は止まらない。

 空中で複雑なジグザグの軌道を描き、鎌鼬かまいたちのような攻撃を紙一重で回避しながら、私は一気に間合いを詰めた。


「そこっだ!!」


 すれ違いざま、手のひらに溜めたプラズマ球を魔人の顔面めがけて叩き込む。

 直撃――と思った瞬間、魔人の周囲に展開された透明な多重結界がプラズマと衝突し、真っ赤な激しい火花が飛び散った。


(くっ、硬い……!)


 一撃では貫けない。

 けれど魔人は、自分の結界がこれほどまでに激しく揺さぶられたことに目を見開いて驚いている。


 しかし、それも一瞬。

 魔人はすぐに「ニヤリ」と、獲物を追い詰める爬虫類のような不気味な笑みを浮かべた。


「……面白いおもちゃですわね。ですが、捕まれば同じこと!」


 魔人の影が泥のように広がり、あの忌まわしい『時間遅延領域』が私の周囲へと一気に膨れ上がった。


 ゾクッ!!


 その瞬間、私の背筋に、氷を突きつけられたような鋭い悪寒が走る。


 やばい……捕まる!!


 反射的に足首のバーニアを全開。

 私は後方へとバク転するように一回転して領域の「泥」を回避すると、そのまま垂直に噴射を叩きつけ、一気に雲の高さまで上空へと舞い上がった。


 空中で停止して、息を整える。

 あの結界は厄介だ、私が思ったよりもずっと固い!

 でも、これなら……! この距離を維持すれば、あのいやな領域の外からでも戦える!

 牽制しながら次の手を考えなきゃ!


「来るぞ、3時方向! 急降下して!」

 肩から力強い声が響いた。

 フェニックスの鋭い警告に、私は思考するよりも早く反応する。

 背中のバーニアを逆噴射させ、空中で強引に機首を下げる。


 ヒュンッ!!

 直前まで私の頭があった空間を、不可視の衝撃波が鎌鼬かまいたちのように通り過ぎ、背後の校舎の屋根を鋭利に切り裂いた。


「今だ、死角に入った! 撃てェッ!!」

「おっけー!」

 私はきりもみ回転バレルロールの勢いを利用して体勢を立て直すと、すれ違いざまにプラズマ球を散弾銃のように分割して魔人に向かって叩き込んだ。

 

 光弾の雨が魔人の結界に着弾し、花火のような爆発が魔人の視界を奪う。


「くっ…!ちょこまかと目ざわりでしてよ…!」


 散弾プラズマは、そのほとんどが魔人の結界に阻まれるが、時折何かの拍子で結界を貫通する。


 バシュッ、と焼けるような音。

 雨あられと降り注いだ散弾プラズマの数粒が、障壁の隙間を縫って魔人の白い頬をかすめ、その陶器のような肌を赤く焦がした。

「……っあ?」

 魔人が、自分の頬に手を当てる。 指先に付着したわずかなすすと、じわりと滲む赤い鮮血を見た瞬間、彼女の黄金の瞳が信じられないものを見たかのように見開かれた。

 驚きは、刹那の間に凍りつくような殺意へと変わる。


 焦げた頬の傷は、どす黒い魔力に覆われると同時に、生き物のようにうねりながら一瞬で塞がり、跡形もなく消え去った。

 けれど、「傷つけられた」という事実は、彼女のプライドを完膚なきまでに叩き潰したらしい。


 魔人の周囲の空気が、ミシミシと悲鳴を上げるほどに重く、冷たく変わる。


 魔人はヒステリックに腕を振って不可視の衝撃で応戦してくるが、その都度、肩のフェニックスが的確に指示を飛ばしてくれた。

 フェニックスの指示は本当に頼りになる。

 彼の存在が、私に心強さを与えてくれる。


「本当に…イライラしますわ!」

 そう叫ぶと、魔人の胸の黒真珠が黒く禍々しく瞬いた、すると夕闇色の髪が意思を持った蛇のように伸び、空中の私をどこまでも追尾してくるようになった。


「うわ!なにあれ?気持ちわるいんですけどぉ!」

「アルカナフレア!あの髪はある程度自動追尾してくるみたいだ!今までよりも余裕をもって回避しないと捕まってしまうよ!」

 そんなこと言われても!

 見えない衝撃波も忘れた頃に撃って来るんですけどぉ!

 ねぇ?これって卑怯じゃないの?


 避けきれずに空を切った髪の先端が、背後の校舎の壁を打つたび、コンクリートが大きく砕け散り、鈍い破壊音が響き渡る。


 戦況の雰囲気ががらりと変わった。

 私はうねりながら襲ってくる髪の毛と、見えない衝撃波を空中を縦横無尽に飛び回って必死にかわしながら、プラズマ球を撃ち込んで牽制攻撃を繰り返す。


 魔人の髪は、まるで生きているみたいだ。

 一本一本が蛇のようにうねり、私の逃げ道を塞ごうとする。

 ブラスターで焼き切っても、すぐに別の髪がぬるりと伸びてきて、私の視界を覆い隠そうとするんだ。

 まるで底なし沼に足を取られたみたいに、動けば動くほど絡めとられていくみたいだ。

 髪の先端が頬を掠めるたびに、甘ったるい死の香りが鼻孔をかすめ、肌にひりつくような冷たい感触が走る、すごく気持ち悪い。



 激しい攻防が続く中、耳元で一番聞きたくない警告音が流れた。


『Warning! Operation time limit: 5 minutes remaining.』

(警告!活動限界まであと五分。)


 無機質で冷徹なシステムボイスが、残酷な現実を私に告げる。

「え?あと5分……!?」


 心臓が冷たい手に握られるような感覚がした。

 焦りで私の動きに迷いが生まれる。


 魔人はその隙を見逃してはくれなかった。

 魔人の口元がいやらしく歪み、攻撃の密度がグッと増えた。


「あら、もう疲れたの?思ったよりも脆いお人形さんなのね。ほらほら、がんばらないと、終わっちゃうわよ。」


「まだ…!」

 私は叫びながら、空中を縦横無尽に飛びまわりつつプラズマ球を乱射する。

 だけど、雨あられと襲い来る髪の猛攻が、私の狙いをことごとく逸らしていく。

 たまに直撃しても、魔人の結界に弾かれて傷一つつかない。


 そう、エアリアルモードならあの理不尽な領域に入らずに戦えるけど、その代償として火力が決定的に足りないのだ!

 かといって、決定打を与えるために懐に飛び込めば、今度こそあの泥沼のような『時間の檻』に捕らえられて終わり。

 遠距離は決定打不足、近距離は自殺行為。

 その上、無情にも、変身解除までのタイムリミットが文字通り刻一刻と迫ってくる。


 ……あれ? 遠くてもダメ、近くてもダメ、時間もない……これって、もしかして詰んでない?


 防戦一方の私を見て、魔人はさらに口元を歪めた。

「あらあら、その顔!最高よ!乙女の絶望!それこそがわたくしを最も美しくする極上のスパイスなのよ!」

 髪の攻撃は、もう私を捕らえるためだけじゃなくなった。

 一本が鞭のようにしなって私の頬を打ち、別の髪がわざと足元を払ってバランスを崩させようとする。

 彼女は、私が苦むのを楽しんでいるんだ!

 その事実が、焦りと一緒に屈辱を私の心に植え付けた。


 不意に、一本の髪が私の足首を捕らえた。


「しまっ……!?」

  私は慌ててバーニアを最大出力にして振りほどこうとする。


 でも、魔人の髪はちぎれない。

 それどころか、私の抵抗を嘲笑うかのように、周囲の髪の毛が生き物のように集まってきて、私の足に幾重にも絡みつき、一本の太い黒いロープのように変化した。


「逃がしませんわよ?」

「きゃあっ!?」

 バーニアの推力が、圧倒的な質量に負ける。

 巨大な力で空から引きずり下ろされ、私は受け身を取る暇もなく地面に叩きつけられた。


「がはっ……!」

 砂埃の中、私は背中を強打し、肺の中の空気が強制的に吐き出される。

 激痛で視界がチカチカと明滅し、体が一瞬動かなくなった。


「ふふふ、愛らしい悲鳴。ゾクゾクしますわ」

 愉悦に満ちた声と共に、まだ脚に絡まっている髪が凄い力で私を魔人の元に引きずり始めた。


 私は抵抗しようと地面に指を食い込ませて全力で抵抗するが、脚に絡まった髪の毛は強化されているアルカナフレアの力よりも強い力で私を魔人の元へ引き寄せる。


 ガリガリと石畳を削る私の爪が剥がれそうなほどに、その力は強大で、容赦がない。

 地面に刻まれる10本の爪痕が、私の絶望の距離みたいにどんどん伸びていく。


 ズリ、ズリ、と引きずられるたびに、地面の砂利が私の肌を無慈悲に削り、魔人の甘ったるい死の香りが肺の奥まで侵食してくる。


 「……っ、ああ……っ!」

 

 逃れようともがく私の足首に、さらなる絶望が絡みついた。

 一本、また一本と、意志を持つ黒い蛇のように増殖する魔人の髪。

 それは冷たい無機物などではなく、ねっとりと熱を帯びた「指先」のような生々しい感触を伴っていた。

 

 髪の束は執拗に、そして舐めるように私の脚を這い上がってくる。ふくらはぎを、膝の裏を、そしてバトルドレスのスリットから覗く太ももの柔らかな肌を、逃さぬようにじりじりと締め上げていく。


 それはまるで、下卑た欲望を隠そうともしない老人が、獲物の感触を楽しむかのような卑猥な手つきだった。

 スリットの奥、絶対に触れられたくない場所にまで、その「指先」はじりじりと、這い寄る温度を伴って侵入してくる。


 柔らかな肉を割り込むように力を込められ、逃げ場のない恐怖が心臓まで直接締め上げるみたいだ。


 屈辱と恐怖で全身の毛穴が総立ちになり、奥歯がガチガチと震えた。

 迫りくる魔人の足元。

 視界の端、逆光の中で魔人が口元を三日月のように歪め、悦びに身を震わせて笑っている。

 

「あ、このままだと……私、されるがままに食い殺される……」

 思考が真っ白に凍り付き、目の端から溢れた涙が、絶望の熱を持って頬を伝い落ちた。


 Liner Notes

 ■Track 28:

【分類】

  [1:アイテム紹介] > [11:変身・武装]


【日本語名称 / English Name】

 スキルカード:『エアリアルモード』 / Skill Card: Aerial Mode


【概要 / Overview】

 背部の『モルフォウイング』を複数の推進ユニットへ分割・再配置し、空中での自由自在な機動を可能にする強化形態。

 直線的な高速飛行に特化した「ウイングモード」に対し、対個体戦における回避と攪乱に主眼を置いている。


【特性・スペック / Properties & Data】

 ・分散型姿勢制御ディストリビュート・バーニア

 背中、腰、足首の各所に配置されたスラスターをミリ秒単位で制御する。

 空中で慣性を無視した「バレルロール(きりもみ回転)」などの三次元的なドッグファイトも可能である。


 ・掌位プラズマリアクター

 両腕のパーツに内蔵された中距離攻撃ユニット。

 連射性能に優れ、リボンのバッテリーから供給される魔力光弾を放つことで、領域外から絶え間ない圧力をかける。

 追加兵装へのエネルギー供給ユニットでもある。

 プラズマの色を赤くする為にフェニックスは専用チップを作る設計会社を立ち上げた。


【特記事項 / Secret Note】

 ・不死鳥の矜持と「サーカス」の美学  

 空中戦で後れを取ることを最大の屈辱とするフェニックスが、並々ならぬ気合で構築したフォーム。

 地球のアニメに見られる、複雑な軌跡を描く「サーカス」のような空中戦に感銘を受けた彼が、「回避の軌跡は芸術的でなければならない」という制約を設計思想に盛り込んでいる。


 ・演算コアのオーバークロック  

 予知に近い回避能力と、物理法則をねじ伏せる姿勢制御を実現するため、ドレス内部の演算コアは常時オーバークロック状態で駆動する。

 そのため、数あるフォームの中でも突出してエネルギー効率が悪く、短時間でバトルドレスの魔力を激しく消費する「短期決戦仕様」となっている。


 ・未完の殲滅形態  

 本来、このフォームの真骨頂は強力な「遠距離用追加武装」を装備した際の「高機動砲撃戦」にあるが、現時点では補助武装であるブラスターしか解禁されていない。


 ・信頼が繋ぐ極限機動  

 シンクロ率が低い状態でこのフォームを起動すると、脳を直接灼くような膨大な計算負荷により、空中で意識を失い、嘔吐物を撒き散らしながら墜落するという悲惨な結末を招く。

 リーナがこの極限状態を乗りこなし、自由に空を舞えるのは、彼女の無意識下がフェニックスの演算干渉を全面的に受け入れている「全幅の信頼」のあらわれでもある。



 tags: #エアリアルモード #掌位プラズマリアクター #魔人の逆鱗 #絶望のタイムリミット #聖域への侵食


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