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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第一章 刹那の黒真珠 編
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26/32

026:魔法少女は恐怖で体が震えない

026:魔法少女は恐怖で体が震えない

SIDE アルカナ・フレア


 私が屋上から放った『物理最強硬度』の凶弾は、魔人の鉄壁の結界ごと、ユリウスさんに迫っていた右手を根こそぎ消し飛ばした。

 着弾の衝撃で校庭の土がクレーターのように抉れ、遅れて届いた轟音が大気をビリビリと震わせる。

 破壊と絶叫に満ちていた校庭に、圧倒的な暴力による一瞬の静寂が訪れたのだ。


 そんな中、誰もが、朝日を背に佇む深紅の私、アルカナ・フレアに釘付けになっていた。


 絶望に沈んでいた校庭を、凛とした沈黙が支配する。

 誰もが息をすることすら忘れ、ただ頭上に降臨した『奇跡』を凝視しているのだ。


 あの魔人は私の姿を認めると、その表情がぐにゃりと歪む。

 でも、それは苦痛や憎悪じゃない。

 狙撃された腕を押さえるのも忘れるくらいの湧き上がる激情。

 狂気に満ちた、歓喜の表情だ。

 

「アハ……アハハハハ! 来たのね、来てくれたのね! 昨日の可愛いお人形さん! 貴女が忘れられなくて……ここで食事をしていれば、きっと貴女が会いに来てくれるって信じていたわぁ……!」


 彼女の視線が、物理的な粘り気を伴って私の全身を舐め回す。

 それは剥き出しになった本能が、私の肌を、肉を、そして流れる時間そのものをどの部位から貪り食うかを選別するような、卑猥で残忍な執着。

 

 彼女は、テラテラと光る「蛭」のようになまめかしく動く舌を出し、自らの唇をなぞった。

 そのおぞましい舌なめずりは、焼けただれて歯茎の剥き出しになった右半面では飢えた獣のように貪欲に、いまだ白磁の美しさを保つ左半面では悦びに震える女のように妖艶に、境界を無視して唇を濡らしていく。


 ボロボロに崩れた右の口角から、一筋の銀色の唾液が、焦げた肉を伝って滴り落ちた。

 その汚らわしくも美しい輝きは、彼女が私へ抱く渇望が、もはや「執着」という名の逃れられぬ狂気に塗り潰されていることを、何よりも雄弁に物語っていた。


 「今度こそ逃がさない……今度こそ!お前の全てを最後の一滴まで、わたくしが吸い尽くしてあげる!」

 魔人が叫ぶと、胸元の『刹那の黒真珠』が、ドクンッ!と重低音を立てて脈動した。


 刹那!

 失われた右半身から漆黒の闇と黄金の魔力が爆発的に噴き上がる!

 闇の奔流が血管のように脈打ち、炭化した皮膚を剥ぎ取りながら、瞬く間に白磁の肉体を再構成していく。

 失ったはずの手首の先、黒い魔力の糸が瞬時に織り上げられ、そこには美しくも禍々しい黒く長い爪を持つ手が再生された。


 その勢いのまま、彼女を包む夕闇色のドレスが内側から弾け飛んだ。

 代わりに現れたのは、魔力を帯びた極上の絹で織り上げられた、あまりに扇情的で贅沢な背徳のドレスだった。


 「……ッ!?」

 私はそのドレスの美しさと禍々しさに不覚にも目線を奪われてしまった。


 深海のように深い黒。

 肌に吸い付くようなしなやかな生地は、彼女の豊満な曲線をこれでもかと強調していた。

 深く、エグいくらいにV字に開かれた胸元からは、零れ落ちそうな双丘が露わになり、激しい呼吸に合わせて挑発的に揺れている。


 腰元から一直線に切り裂かれたスリットは、彼女が動くたびに濡れたような光沢を放つ太ももの付け根のその最も際どい聖域までもを無防備に晒していた。

 さらに、再生した右半身の白い肌には、血管のように脈打つ「闇の紋様」が刻まれていた。

 それは喉元を締め付けるように這い回り、胸の谷間のさらに奥、そしてスリットから覗く太ももの妖艶な内側へと、誘い込むように吸い込まれている。


 彼女の視線が、物理的な粘り気を伴って私の全身を舐め回す。

 それは、剥き出しになった本能が、私の肌を、肉を、そして流れる時間そのものをどの部位から貪り食うかを選別するような、卑猥で残忍な執着。


 彼女が舌なめずりをし、その黄金のオッドアイで見つめられるたび、私は目線だけで犯され、魂の尊厳すら食い荒らされるような、経験したことのないおぞましい寒気に全身を支配された。

 恐怖と屈辱で膝が震え、意識が遠のきそうになる。


 ……はずなんだけど。

 (……なんか、隣がめちゃくちゃ騒がしい)


 恐る恐る肩の上を見てみると、案の定、我らがエロヒヨコは直立不動のまま、鼻血を噴き出す寸前の勢いで荒い息を吐いていた。


 「な、なんて恐ろしい……なんて恐ろしい敵なんだ、アルカナ・フレア!!」

 フェニックスは、翼でクチバシを押さえながら、眼下の魔人を食い入るように見つめて叫んでいる。


 「見ろ! あの透けそうで透けない極上の絹が、肉体の曲線に抗い、絶妙なシワを作っている様を! あの計算され尽くしたスリット……動くたびに『見えそうで見えない』ではなく、『隠す気すら感じられない』あの暴力的なまでの肉感! そして極めつけは、あの白い肌を彩る背徳的な魔紋だ! スリットの奥に吸い込まれるあのライン……あそこには一体どんな芸術的な……いや、魔術的な終着点があるというんだ! ああ、恐ろしい! それに、あの!こぼれそうな胸元!一体どこに引っ掛けてるんだ!まさか!いや!そんなあり得ない!恐ろしい!そんな事が許されて良いのか?!なんて奴!なんて恐ろしい敵なんだ!」


 「……ねえ、フェニックス」

 私が白い目で隣のひよこを見下ろすと、彼はハッと我に返った。

 だが、その視線は微塵も魔人のスリットから動いていない。


 「さっきからエロいところにしか目が行ってないよね? 能力分析とか、弱点探しとか、少しは協力してくれない?」


 「し、失礼な!まるで僕がエロいところしか見ていないみたいに言わないでくれ! ちゃんと分析してるよ!ほら胸元の黒真珠がおっぱいの谷間の上のところにあって、おっぱいがいっぱいで!いや!違うんだ!!ほら!あの太ももの紋様は、魔力の循環経路を……ああ! 駄目だ、またスリットが……! クッ!なんて恐ろしい敵なんだ!!(二回目)」


 こいつ、ダメだ。

 完全に欲望に忠実すぎる。

 戦場にいることすら忘れて、敵の「扇情的なディテール」に魂を奪われている。

 この変態ひよこが味方であることに、私は今日ほど絶望したことはない。


 私がゴミを見るような冷めた目で、変態エロひよこを眺めていると、さすがにフェニックスもコレではいけないと思ったのか、すごく気まずそうに咳払いをしてグランドに向けて声を響かせた。


 「……コホン! ショーの主役は遅れて登場するものさ! さあ、行け、アルカナ・フレア! その神秘の炎で、邪悪な闇を焼き払うんだ!!」


 凄い! フェニックスの声にグラウンドの人々の視線が一気に集まるのを感じる。

 絶体絶命の戦場に突如現れた「深紅の救世主」。

 朝日を背にした私のシルエットは、きっと下から見れば神々しいほどに決まっているんだろう。

 数百の視線がスポットライトのように私を焼き、静まり返った空気の中で「さあ、奇跡を見せてくれ」という無言の期待が、物理的な重圧となって私の肩にのしかかってきた。




「おい、何やってる!? 早く! カッコよく飛び降りるんだ!」

 フェニックスはポーズを固めたまま、私に小声で、けれど断固とした口調で急かしてくる。


「え? 無理無理無理! ここ、七階建ての屋上だよ!? 高いって!」

「お前! バカ! 今、下を見るんだ! 警備隊も、ハンターも、あのユリウスまでもが君を『救世主』として見上げてるんだ! この状況でトボトボ階段へ向かうなんてかっこ悪過ぎるって!? それこそ恥ずか確定だよ!」


 下を見ると、確かに全員の視線が、屋上の縁に立つ「深紅の魔法少女」に集まっていた。

 うわ!

 本当に、ココで階段なんか使えない雰囲気になっちゃってるじゃん!

 逃げ場をなくした私の背中を、フェニックスの翼がグイグイと押してくる。

「大丈夫、バトルドレスの慣性制御があるから絶対大丈夫だから!!」


 同調圧力という見えない力場が私を襲う。

「後で覚えてなさいよ、フェニックス!!」

 ええい!! 女は度胸!!

 覚悟を決めて、私は屋上の縁から空へと身を投げ出した。


「わああああぁぁっ!?」 って叫びそうになる口を必死に結ぶ。

 一瞬、胃が浮くような浮遊感に襲われたけれど、すぐさま背中の『モルフォウィング』が私の意志に反応した。


 深紅の光の粒子が羽のように舞い散り、大気が私の身体を優しく押し上げる。

 落下速度が急激に殺され、景色がゆっくりと流れていく。

 私は一枚の羽根のように、音もなくグラウンドの中心へと舞い降りた。


 とんっ。


 と、 重力を無視した優雅さで着地する。

 その場にいた誰もが息を呑むのが、肌で感じられた。


「一体、誰なんだ…?」

 警備隊員や屈強なハンターたちも、敵か味方か判断できず、ただ呆然と私を見つめていた。


「さあ、始めましょうか」

 魔人が囁くように呟くと同時、私は両の拳を握りしめた。

 その瞬間、拳から紅蓮の炎が爆発的に噴き上がる!


 先手必勝!

 地面を蹴った瞬間、景色が後方へ吹き飛んだ。

 昨日よりも反応速度が良くなってる!

 思考と動作に一切のラグがない!


 魂で繋がってるフェニックスから、チラッと昨日の夜、夜なべしながらバトルドレスの調整に励んでいる記憶が流れてきた。

 思わず口元が緩む。

(ありがとう、変態ひよこ!)


 私は紅蓮の閃光となって更に加速をかける。

 魔人が瞬きをするその隙に、私はすでにその懐へと潜り込んでいた。



 Liner Notes

 ■Track 26:魔紋(Magic Patterns)

【分類 / Category】

 [53:固有現象・呪術]


【名称 / Name】

 魔紋まもん / 英名:Magic Patterns


【詳細分類 / Sub-Category】

 魂の高密度集積回路(MIC:Magic Integrated Circuit)


【概要 / Overview】

 強力な個体が膨大な魔力を高効率かつ高速で演算・駆動させる際、その魔力回路が皮膚表面に視覚化される現象。

 ある程度以上の格の存在に見られる「力の証明」であり、個体の格付けを左右する重要な指標となる。


【特性 / Properties】

 〇演算加速

  回路の密度が高いほど、高度な魔法を無詠唱かつ超高速で並列処理できる。


 〇放熱ヒートシンク

 魔力負荷による肉体の自壊を防ぐバイパス回路。発光現象は、演算時に発生する「魔力熱」が光として放出されている状態を指す。


 〇自律進化

  持ち主の成長や精神状態の変化をもとに再構築を経て、より繊細で独特な「回路設計」へと形状を変える場合がある。

 今回の魔人の場合、リーナへの偏執的な執着が「絡みつく蔦」のような意匠となって現れた。


【特記事項 / Secret Note】

 〇魔紋マニアとデコード文化

 魔界には魔紋を解読デコードし、そのパターンを楽しむ特殊な層が存在する。

 彼らは特殊な転写紙に魔紋を写した『紋拓もんたく』を集めており、たまに市場に出てくる珍しい『紋拓もんたく』に法外な値段がつくこともある。

 熟練のマニアの中には、魔紋の波形から対象の「弱点」や「健康状態」はおろか、「秘めた性癖」までをも完璧に読み解く変態猛者が存在する。

 上位存在は、これを見越して魔紋の偽装や隠蔽を施している者が多く、それを見た魔紋マニアから理不尽なブーイングを受ける事がある。



 Tags: #魔紋 #背徳のドレス #黄金のオッドアイ #おっぱいがいっぱい #戦闘開始


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