025:魔法少女は逸らさない
025:魔法少女は逸らさない
「いっけぇぇぇぇ!」
その瞬間、世界が悲鳴を上げた。
ドオッ!!
という耳を劈くような爆音と共に、私の肩を巨大な鉄槌で殴り飛ばされたような、骨の髄まで響く衝撃が駆け抜ける。
凄まじい反動に耐えかねて、私が膝をついていた屋上の床が蜘蛛の巣状に砕け散り、視界が白煙に覆われた。
「……っ、あ、が……っ!」
衝撃波で私の肺の空気が強引に押し出され、一瞬だけ息が止まる。
呼吸が止まった刹那の間にも、バトルドレスの防御システムが叫ぶようにフル稼働し、私の腕をねじ切りかねない衝撃を散らしていくのが分かった。
深紅のドレスが激しくたなびき、背後に展開されたいくつもの防御結界が、余剰エネルギーを火花のように周囲の空間へ逃がしていく。
放たれた黄金の閃光『難融五元合金重徹甲弾』は、マッハ7を超える極超音速で空気を引き裂き、白熱するプラズマを纏って魔人へと突き進む。
それは、物理法則という名の絶対的な蹂躙。
魔人の纏っていた不可視の防御結界に、その閃光が接触した刹那。
一瞬で、透明な壁に毛細血管のような白いヒビが全体に走り、鉄壁だったはずの力場が粉々に砕け散る。
だけれどそれでは止まらない、きらびやかな破片となって飛び散る結界の残骸を突き抜け、黄金の凶弾は魔人の手首へと到達した。
ゴボォ!!
大気を震わせたのは、鈍く重い破壊音。
極超音速の破壊の権化は、肉体を打ち砕くなんて生易しいものじゃない。
それは細胞の結合を分子レベルで「消滅」させる。
魔人の手首は手袋ごと跡形もなく弾け飛び、血が噴き出す暇さえなく、その断面は数千度の熱波によって一瞬で黒く焼き塞がれた。
「…………っ!」
刹那、魔人の胸元で『黒真珠』が闇色の光を噴出させ、狂ったように膨張するのが見えた。
主を護るための強硬な防御反応。
だが、弾丸が纏う熱波はその闇さえも食い破り、彼女の右半身を無慈悲に侵食していく。
夕闇色のドレスがボロ布のように焦げ落ち、白磁のようだった彼女の肌が、見る間に炭化して赤黒く焼け爛れていった。
標的を貫いた弾丸は、一切の勢いを失わずに校庭の地面へと吸い込まれる。
あまりの運動エネルギーに、着弾した土壌が一瞬だけ液体のように跳ね上がる。
凄まじい摩擦熱は周囲の砂を瞬時に溶かし、着弾した地面には、赤黒い熱気を吐き出す不気味な暗黒の穴が穿たれた。
手元の質量加速砲からは「プシューッ!」と激しい排熱音が上がり、白濁した蒸気が私の頬をかすめた 。
排熱スリットが勢いよく後方へスライドし、役目を終えた「装弾筒」が、赤熱化した火塊となってパシュっと外へ排出される。
カラン、と乾いた音を立てて屋上の床を跳ねたソレは、数千度のプラズマに晒された熱でどろりとした赤い光を放っていた 。
床のタイルに転がると同時に「ジュッ!」という耳障りな焼灼音を立て、不快な臭いと共に激しい白煙が立ち上る 。
「……っ、あ……」
引き鉄を絞り切った衝撃。
凄まじい反動と熱量に思考を奪われ、私は質量加速砲を構え、屋上の縁に片膝をついた姿勢のまま、立ち上る白煙の中で呆然と固まっていた。
両腕の感覚は麻痺して遠のき、耳の奥では高周波の残響が絶え間なく鳴り響いている。
自分の放った一撃の、あまりにも理不尽な破壊力に、ただただ圧倒されていたのだ。
けれど、物理法則は私の困惑など待ってはくれない。
視界を覆う土煙の向こうで、不自然に「何か」が跳ね上がるのが見えた 。
それは、極超音速の弾道が引き起こした猛烈な負圧に飲み込まれ、宙を舞うユリウスさんの体だった 。
「え!?……ユリウスさん!!」
目に見えない巨人の手に引かれるようにして、彼の体が瓦礫の山を転がっていく 。
まるでボロ雑巾のように地面を跳ねるその姿に、私は心臓が止まる思いで悲鳴を上げた 。
土煙がゆっくりと晴れていく。
オゾンの臭いと、焦げた肉の匂いが立ち込める静寂の中。
「あっ!動いた!!……よかったぁ、無事(?)みたいだ!」
転がった先で、ユリウスさんの手足が繋がっているのを見て、そして微かに自らの意思で動き出したのを見て、私は膝の力が抜けるほどの安堵に包まれた。
ノリで撃っちゃったけど、まさかこれほどの威力とは。
あとで、ひよことはお話し合いをしないといけない。
魔人は、自分に何が起きたのか理解できていないようだった。
彼女は、吹き飛んで跡形もなくなった右腕を、信じられないものを見るかのように呆然と見つめている 。
そこにはもう、白磁のように美しかった手首も、宝石で飾られた手袋も存在しない。
あるのは、『難融五元合金重徹甲弾』がもたらした超高圧の熱波によって、炭のように黒く焼き塞がれた、無残な断面だけだった 。
やがて彼女は、軋むような緩慢な動作で、ゆっくりと私の方に顔を向けた。
私の正面にあるのは、今しがた放った黄金の凶弾が蹂躙した、彼女の右半身だ 。
そこには、先ほどまでの気品ある貴婦人の面影など微塵もない。
腕は根元から消失し、白磁のようだった肌は炭化して赤黒く焼け爛れ、どろりとした闇が傷口から溢れ出している 。
だが、彼女が完全にこちらを正面に見据えた瞬間、私の全身に総毛立つような戦慄が走った。
「……そんな、嘘でしょ……?」
正中線を境に分かたれた、あまりにも残酷な「美」と「醜」の対比。
マッハ7の衝撃波と数千度の熱波に晒されたはずの左半身だけは、『黒真珠』の守護によって産毛一本焦げることなく、冷徹なまでの美しさを保っていたのだ 。
地獄の業火に焼かれた怪物と、月下に佇む優雅な貴婦人。
その二つが、ひとつの身体に完璧な直線で縫い合わされたような悍ましい姿が、そこにあった 。
「…………っ」
何より恐ろしかったのは、その瞳だ。
無傷の左目が冷たく私を見据える一方で、熱波に焼かれ、白濁した右の瞳は、底知れない「虚ろ」を湛えていた。
それは昨日、雨の路地裏で私を追い詰めた、あの醜い怪物のものと全く同じだった。
優雅な貴婦人の皮を物理的に剥ぎ取られ、その隙間から「本性」が漏れ出している。
「……う……ぁ……!」
彼女の口から漏れたのは、言葉ではない、得体の知れないうめき声が炭化した口の端から漏れていた。
私は、麻痺した腕に力を込め、立ち上がる。
背中の『スナイパーモード』が再び光を放ち、リニアレールが折り畳まれ、翼状の『モルフォウィング』へと再構成されていく。
カチリと金属が噛み合う音が、戦いへの合図のように響いた。
「そこまでよ!!」
私は声を張り上げて宣言する。
瓦礫の中で、ユリウスさんが一瞬だけ私を見た気がした。
今はとにかく私に魔人の注目を集めて、彼が安全な場所へ動ける時間を作らなきゃ。
私と同じ考えなのか、肩の上で、フェニックスも生き生きと声を張り上げた。
「待たせたね!みんな!ここからはシナリオ変更だ!絶望を焼き尽くす希望の炎、魔法少女アルカナ・フレアのオンステージだ!」
フェニックスの目の輝きが有りない位に輝いている。
いや、これ絶対、魔法少女の戦闘でテンション上がってるだけじゃん。
けれど、そのお調子者の声が、今の私には心強かった。
Liner Notes
■Track 25:アイテム紹介(Item Introduction)
【分類 / Category】
[12:支援装置]
【名称 / Name】
難融五元合金重徹甲弾
〇正式名称
W-Re-Ta-Mo-Nb系・難融性高エントロピー合金弾頭
【概要 / Overview】
スナイパーモード専用の特殊徹甲弾の一つ。
純粋な物理法則の限界を追求した一撃。
W、Re、Ta、Mo、Nbという5つの超耐熱・超高密度金属を精密に配合した「合金」を弾芯に使用している。
【スペック / Specs】
対多重結界性能: 中位魔獣や魔人の展開する複数枚の結界を、物理的な圧力と「自己研磨効果」によって一気に粉砕・貫通する。
物理的特性:
〇高融点
レールガン発射時の数千度のプラズマ熱でも一切変形しない。
〇重質量
鉛の約2倍近い密度を持ち、着弾時の運動エネルギーを極限まで高めている。
〇生産の制約
弾頭の生成にはフェニックス自身の「尾羽(第零元素)」を消費するため、異世界転移の影響で力が限られている現在では量産が極めて困難である 。
〇対結界貫通能力:
通常、中位以上の魔獣は結界を多重展開し、あらゆる魔法や物理攻撃を減衰・無効化する。しかし、本弾丸は着弾時に自らを研ぎ澄ませる「自己研磨」特性を持ち、多重展開された結界を物理のみの力でまとめて貫通することが可能。
【特記事項 / Secret Note】
〇開発背景
「もし魔法少女が対物理結界に阻まれたらどうする?」という問いに対し、「相手が想定する以上の物理でこじ開ける!」というプロデューサーのロマンから急遽追加された兵装である。
〇開発コスト
フェニックスの権能で磨き上げた未来技術の結晶であるが、弾丸一発につきフェニックスのお尻が少し寂しくなるという、文字通り身を削るようなコストが支払われている。
Tags: #難融五元合金 #ペンタ・アニヒレイター #第零元素 #自己研磨 #物理最強 #フェニックスの身を削る献身




