024:魔法少女は外さない!
024:魔法少女は外さない!
SIDE リーナ
ズドォォン!!
鼓膜を直接揺らすような、腹の底に響く破壊音が校舎の壁を震わせる。
それは、私が日常生活で感じた事が無い不気味な質量を伴っていた。
「行こう!アルカナ・フレア!!」
肩からの声が、私の凍り付いていた思考を、咄嗟に呼び戻してくれた。
フェニックスの、いつになく真剣な、それでいてどこか悟ったような瞳に頷き、私は重いドアノブに手をかける。
軋んだ音を立てる鉄扉を押し開け、私は屋上の淵へと駆け寄た。
手すりの冷たい感触を掌に感じながら、身を乗り出すようにして眼下のグラウンドを覗き込む!
「……あ……」
喉の奥で、声が震えた。
土煙がゆっくりと、残酷なほど緩慢に晴れていく。
そこに広がっていたのは、私の知っている、早朝の笑い声が響くはずの校庭ではなかった。
そこは、希望という名の色彩をすべて剥ぎ取られた、灰色の地獄絵図がそこにあったのだ。
鼻を突くのは、焼けた土埃とオゾンの混じった不快な臭い。
そして、それを塗り潰すほどに強烈な、生々しい鉄の…いや、血の匂いだ。
至る所が爆撃を受けたように抉れ、黒い煙を上げる校庭のあちこちには、警備隊の人たちが物言わぬ肉塊となって転がっていた。
いつも市民の安全を守ってくれる優しくも頼もしい彼らは、今やボロ雑巾のように吹き飛ばされ、手足を変な方向に曲げたままピクリとも動かない。
彼らが命を託していた武器や盾は、熱波に晒された飴細工のように無残にひしゃげ、ただの鉄屑へと成り下がっていた。
そのさらに隅、崩れた塀や瓦礫が積み上がった影に、逃げ場を失った子供たちの姿が見える。
彼らは泥と涙にまみれ、震える体で地面に押し潰されるようにして固まっていた。
恐怖で喉が震え、嗚咽さえ上げられないその絶望が、冷たい風に乗って屋上まで突き刺さってくる。
グラウンドのあちこちには、昨日路地裏で見た私のように、枯れ木のごとく血と時間を奪われ、干からびた肌を晒して倒れ伏している人影がまばらに見えた。
昨日、私が味わった、生きながらに命と時間を吸い取られるあの恐怖と絶望。
それを今、この魔人は罪もない人々に、あの子たちにまで振りまいている。
その事実を理解した瞬間、ただ、熱い鉄を流し込まれたような激しい怒りが、私の思考を真っ赤に染め上げた。
「……ふざけないで。あんな思いを……あんな小さい子たちにまでさせるなんて、絶対に許さない!」
そして、土煙が渦巻く瓦礫の山のさらに向こう。
私の視線が、一点に縫い止められた。
私の心臓が、嫌な音を立てて跳ね上がる。
「ユリウス……さん……」
私の憧れの人は、広がる血の海の中で、無造作にうつ伏せに倒れていた。
その背中を、夕闇色のドレスを纏った貴婦人が、鋭いピンヒールの踵で残酷に踏みつけている。
ミシリ、と骨が軋むような嫌な音がここまで聞こえてきそうだった。
貴婦人は、まるで月明かりの下で愛しい恋人に触れるような、この世のものとは思えないほど優雅な手つきで、泥と血にまみれたユリウスさんの髪を優しく梳いた。
彼女の微笑みはどこまでも慈愛に満ち、聖母のような輝きを放っている。
それが、踏みにじられているユリウスさんの惨状と相まって、吐き気を催すほどの狂気を演出していた。
だが、その仕草とは裏腹に、彼女のもう片方の手にはドス黒い闇の刃が、脈動するように形成されていた。
どろりと肥大していくその刃。
それが放つ不気味な輝きが、遠く離れた屋上の私にまで届くような気がして、全身の産毛が逆立った。
貴婦人の唇が、凍りついたような慈愛の笑みを刻む。
彼女は、まるで夜露に濡れた花を摘み取るような、どこまでも優雅で、それでいて逃れようのない死の予感を伴う仕草で、右手に凝縮された闇の刃をゆっくりと天高く振り上げ、その刃をユリウスさんに向けて振り下ろそうとした。
「させない……っ!!」
私が屋上の淵に乗り出すと、フェニックスは待ってましたと言わんばかりに、スキルカードを飛ばしてきた。
「これだ、アルカナ・フレア!初撃は派手に決めろ!」
宙を舞うカードを、私は振り向きもせずに右手で掴み取る。
流れるような動作でデバイスに装填すると、凛としたシステムボイスが響き渡った。
『Skill Card, Set. Morpho Wing, reconfiguring to Snipe Mode.』
カードを装填した瞬間、私の背中で『モルフォウィング』が、意志を持つ生き物のように激しくうねり、分解・再構築を開始する。
美しく澄み渡る金属音を立てて深紅の装甲がスライドし、内部から白銀のリニアレールが音もなく伸長しはじめる。
剥き出しになった電磁加速コイルが淡い青光を放つ。
空気をバチバチと震わせるほどの高電圧がすでにチャージされているのが、肌に刺さる静電気で伝わってきた。
一瞬にして私の手の中に現れたのは、魔法の杖なんて代物じゃない。
それは、物理法則で敵を圧殺するプラズマの光芒を纏う神速の射出機。
質量加速砲だった。
ずっしりとした冷たい重量感が腕にのしかかる。
私は屋上の縁に片膝をつき、流線形の銃身を構えた。
バトルドレスのモーションアシスト機能が、私を一瞬で一流のスナイパーに変えてくれる。
起動した高精度スコープが網膜にタクティカルな照準を投影し、ターゲットである魔人の右手に、寸分の狂いなく照準が重なった 。
「いっけぇぇぇぇ!」
引き金に力を入れた、その瞬間だった。
魂で繋がっているフェニックスから、濁流のような記憶と感情が、私の脳裏に直接流れ込んできたのだ。
「……な、に……これ……?」
意識の裏側に強制的に映し出されたのは、セピア色に染まった、あまりにも必死で、それでいてどこかシュールな記憶の欠片だった。
浮かび上がったのは、昨晩の光景。
場所はトイレ横に設置された、あの古びたポチの犬小屋の中だ。
消えかけのランタンが揺れる薄暗い空間で、丸まった背中を見せる一羽のひよこ。
フェニックスは、プリッとしたお尻に生えている、艶やかな尾羽を震える翼で掴んでいた。
『うぅ……いくぞ、僕……! せーのっ……!』
ブチィッ!!
『ぴギィ!……痛い……でも、我慢だ、僕……これもリーナのためだ……!』
フェニックスはそう言うと、むしり取ったそのフワフワの尾羽に向かって翼を掲げる。
すると尾羽は七色に輝いて、黄金に輝く一つの弾丸へと形を変えた。
『よし!!出来たぞ!僕特製の20mm難融五元合金重徹甲弾だ!この物理最強突貫力の弾頭なら、たとえ魔獣が多重結界を張ってたとしても一撃で貫通できるはずだ!』
ひよこは完成した、美しく金色に輝く20mm弾に頬ずりし、うっとりと呟いた。
『これならリーナの役に絶対たってくれるはずだね!でも……僕の体の第零元素からしか作れないからこの一発しかできなかった…だけど、きっと大丈夫だ!僕の魔法少女が標的を外すなんてありえないさ!』
(……撃ちづらっ!!!)
ひよこの押しつけがましい献身的な想いと、それ以上に強烈な「ひよこのお尻」のイメージが混ざり合って、感動よりも先にドン引きがまさる。
あんなのを見せられたら、一発の重みが物理的にも情緒的にも重すぎて、指先が震えそうになるじゃないか!
けれど、もう止まれない。
魔人の闇の刃が、今まさにユリウスさんに届こうとしている。
「……後で、絶対説教だからね!」
私は湧き上がる雑念を無理やり振り払い、ヤケクソ気味に、けれどほんの少しの感謝を込めて、最後の一線を絞り切った。
■ Liner Notes
Track 24:アイテム紹介(Item Introduction)
【分類 / Category】
[12:支援装置]
【名称 / Name】
スキルカード:『スナイパーモード』(Skill Card: Snipe Mode)
【詳細分類 / Sub-Category】
質量加速型・遠距離精密狙撃ユニット(Railgun Snipe Unit)
【概要 / Overview】
左腕のガントレット型カードリーダーに専用カードを装填することで、翼ユニットを質量加速砲へと変形・再構築させる形態 。
魔法少女の身体能力を遥かに超える物理的衝撃を伴うため、発射時にはバトルドレスによる高度な衝撃吸収機能と姿勢制御が不可欠となる 。
【技術的特徴 / Technical Features】
〇連射機構
フェニックスのあらゆる科学知識に精通するという権能を応用し、砲身への摩擦係数と熱負荷を極限まで低減している 。
これにより、通常の物理法則下では不可能な「砲身の寿命を削らない高速連射」を理論上可能としている。
メンテナンス
本兵装は極めて精密な回路で構成されているため、規定の限界数を発射した後は、製作者であるフェニックス自身による「メンテナンス」とエネルギー再充填が必要となる。
Tags: #スキルカード #スナイパーモード #レールガン #第零元素 #量産不可 #フェニックスのロマン




