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魔法少女物語 魔王フェニックスとパン屋の娘  作者: カニスキー
第一章 刹那の黒真珠 編
23/25

023:一般少女は早く助けに向かいたい。

023:一般少女は早く助けに向かいたい。

SIDE リーナ


 どうやら、怪人はグランドにいるらしい。

 怪人の気配は、この校舎の向かいのグラウンドで生々しく渦巻いている。

 見えなくても肌で感じる、素人の私ですら本能で理解できる。


 昨日の怪人とは、存在の密度が、世界に及ぼす「毒気」の強さが桁違いだ。

 あれは怪人などという生易しいものではない。

「魔人」そう呼ぶのがふさわしい絶望の存在だ 。


 私とフェニックスは、校舎一階の隅にある人気のない一年生の教室へと滑り込んだ。

 黒板には昨日書かれたままの日直の名前。

 机の上に置きっぱなしの、端が折れ曲がった教科書。

 いつもと変わらない、当たり前だったはずの日常の光景が、今は遠い異世界の遺物のように見えた 。


 ふと、窓際に目が止まった。

 使い込まれたクリーム色のカーテンが、開け放たれた窓からの微風を受け、ゆっくりと波打っている。

 昇り始めた朝日を透かし、柔らかな光を教室に投げかけるその布切れは、グラウンドで行われている惨状を遮るように、静かに、だが執拗に揺れていた。


 この薄い布一枚を隔てた向こう側で、今まさに魔人が子供たちを襲っている。

 そのあまりに生々しい現実感が、鋭い刺のように私の心をさいなむ。

 こっそりと、カーテンの向こうを覗いてみたくなるが今は我慢だ、その時じゃない!


 吹奏楽部の練習音も、運動部の掛け声も消え、ただグラウンドから響く破壊音だけが、この平穏なカーテンを無慈悲に震わせている 。


 私は周囲に人がいないことを再確認し、逸る心臓を抑え込んだ 。

「……よし。ここで変身するね」


 左手の収納ブレスレットに指をかけ、変身デバイスを起動しようとした、その時だった 。

「待て!待ってくれ、リーナ! 違う、そうじゃないだろ!?」

 肩の上で、フェニックスが悲鳴のような声を上げた 。


 短い付き合いだが分かる、次のセリフはしょうもないに違いない。


「落ち着いて!リーナ! 魔法少女にとって初のお披露目は、その後の伝説の強度を左右するのだ! こんな教室の窓からヨッコイショと外に出るのは、あまりにも締まらないとは思わないか!? 屋上だ! 屋上から派手に行くべきだ!!」


 ほらね、しょうも無かった。

 私がその言葉を切り捨て、変身コードを口にしようとした、次の瞬間

 フェニックスが私の肩からぴょぴょぴょんと飛び降り、床の上で、信じられない動きを見せた。


 それは、土下座だった。

 両手、両膝、そして額を床に投げ出す、最高位の礼のスタイル。

 ひよこの体の構造では無理があるのでは、とか、そんな些細な疑問も消し飛ぶくらい魂に響く土下座だった。


 その所作はあまりにも洗練され、神々しいまでに美しい。

 その姿からは、雑念など微塵もない、凄まじいまでの「静かな覚悟」が立ち昇る 。

 あまりに完成されていて、何故だか私の方が立場が下に思えてきた。


「……っ」

 そのあまりの美しさと、そこに込められた異様なまでの熱量に、私は思わず息を呑む。


「リーナ……僕は!魔法少女の輝かしいお披露目のためだけに、幾多の苦労を乗り越え、次元を渡り、この身を削って、全てを懸けてこの世界までやってきたんだ……!」

 震える声で、フェニックスが床に額を擦り付けたまま叫ぶ 。

「焦る気持ちはわかる! 救いたい心も本物だ! だが! どうか、どうかこの通りだ! 初回だけ! 初回の登場シーンだけは僕の、僕の命懸けのこだわりを聞いてはくれないか……!!」


 ひよこの背中が、小刻みに震えている。

 これが、かつて魔界を統べたという男の姿なのか。


 下らない。

 あまりにも下らないこだわりだ。


 なのになぜだろう、この振るえる背中を見ていると、子供たちの命を心配している私が間違っているのではと思えてくる。


「……はぁ。わかったわよ。一回だけ。一回だけだからね!」

 今回は私の負けだ。

 フェニックスの「魔法少女の初お披露目にかける」必死さが、何よりも強く私の胸を打のだ。


 私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、フェニックスはキラキラとした顔で跳ね起きて、ぴょぴょぴょんと私の体を駆け上りビシッと羽を指し示した 。

「流石、僕の魔法少女だ!! さあ急こう! 今の太陽の角度なら、あっちの校舎の屋上が最高の逆光ポイントだ!」


 変わり身の早さに騙された気がしなくもないけれど、もう迷う時間は一秒も無い。

 私はグラウンドから響く新たな破壊音を背に、震える脚を叱咤して屋上へと駆け出した



 屋上へ続く重い鉄扉の前にたどり着いた時、私の心臓は早鐘を打っていた。

 焦る気持ちのまま、ドアノブに手をかけようとしたその時、フェニックスが私の前に飛び出して制した。


「ちょっと待って!リーナ!」

「え?何?急がないと…!」

「焦るな、まずは深呼吸だ。……いいかい?このドアの向こうには、倒すべき強大な敵と、今まさに理不尽に傷つけられ、助けを求めている人々がいる」


 フェニックスはそこで一呼吸おくと、私の目を真っ直ぐに見つめ、ニヤリと不敵に笑って見せた。

「だが、裏を返せばここが最高の見せ場だ!ここから僕たちの、魔法少女アルカナ・フレアの伝説が始まるんだ!……準備は良いかい?」


 彼の言葉に、焦りで強張っていた心が不思議と落ち着き、代わりに熱い闘志が湧いてくるのが分かった。

 そうだ、私はただ悲劇を見に行くんじゃない。

 その悲劇を、ハッピーエンドに覆しに行くんだ。

 恐怖と疲れが、心地よい緊張感へと変わっていく。


「うん、バッチリ!」

  私は力強く頷くと、左手のブレスレットから変身デバイスを取り出し、フェニックスに視線を送った。

 フェニックスは満足げに、その小さいひよこウイングでサムズアップを返してくる。

「さぁ、行こう!ここからが本当の魔法少女物語の始まりだ!」


 私は覚悟を決め、高らかに変身コードを口にする!

「システム・エンゲージ!マテリアライズ・コード『アルカナ・フレア』!」


『Authentication, complete. Transformation sequence, start.』


 無機質なシステムボイスと共に、足元に灼熱の炎で描かれた巨大な魔法陣が浮かび上がった。魔法陣から噴き出した無数の光の粒子と炎が、竜巻のように私の体を包み込む。

 今着ている服が巻き上がる炎と溶けあうように、光の粒子になって炎に飲み込まれていく。


 光の糸が私の脚に絡みつき、右脚の太ももに深紅のガーターリングを瞬く間に織り上げた。


 続いて、純白の光が胸元で収束し、体に寸分違わずフィットしたビスチェを構築する。


 次の瞬間、深紅の炎が腰の周りで渦を巻き、不死鳥の尾を思わす、幾重にも重なった美しいスカートへと姿を変えた。

 腕や足に金の装飾が光と共に現れ、まるで生きているかのようにブーツやグローブの形になって組みあがる。


 熱を帯びた風が栗色の髪を天に巻き上げると、炎の波が髪を洗い、根元は深紅、毛先は燃えるようなオレンジ色のグラデーションへと染め上げながら、美しいポニーテールに結い上げた。


 仕上げとばかりに、頭上から光り輝く翼のユニット――『モルフォウイング』が降臨し、シャコン!という心地よい音を立てて背中に装着される。


 全ての光が収束し、生まれ変わった私がそこに立っていた。


(そうだ、この後、決め台詞を言わなきゃ…!どうしよう、考えてなかった…、あっ、ユーリのお気に入りの『じゃんけんマン』で良いか!そうだ!そうしよう!!)


 恥ずかしさを振り切り、私はユーリの大好きなヒーローを真似て、ユーリから教わったポーズをビシッと決めた。


「愛と勇気を拳にのせて!何が出るかはお楽しみ!アルカナ・フレア!ここに参上!」

 どこからか、七色のスポットライトが私を照らす。

 きっと、セリフと決めポーズを言うと発動するギミックなのだろう。


 肩の上で腕を組んでいた、フェニックスが採点を始めた。

「75点!変身シーンはもう少し、大人に憧れるけど勇気が持てない14歳の少女の切なさを表に出して!!ポージングに関してはキレとセリフの独創性は良いが、いかんせん子供っぽすぎる!魔法少女であるプライドを持ってくれ!!そこが減点対象だ!」


(このひよこ…!後で絶対焼き鳥にしてやる…!)



 ■ Liner Notes

 Track 23:世界観設定(World Setting)

【分類 / Category】

[50:地理・公共施設] / [11:教育・社会システム]


【名称 / Name】

 舞台紹介:王都立中央学校(Royal Capital Central School)


【教育システム】

 義務教育(11歳〜15歳)

 王都の全ての子供が通う5年制の教育課程。

 義務教育課程と選択教育課程の2つを修める。


 モラトリアム期間(16歳〜20歳)

 卒業後の5年間は自由期間。

 様々な職業を体験し、自らの適性を見極めることが社会的に推奨されている。


 大書庫アテナイオン

 卒業生の中でも上位数%の英才のみが、厳しい試験を経て入学できる国家最高峰の研究機関。


【施設規模と構成】

 生徒数

 全校生徒約1,500名


 中央棟

 管理・教員用。

 幾つかの教室と図書室がある。

 この近辺では一番高い建物。屋上は王都を一望でき、フェニックス曰く「最高の逆光ポイント」。


 教室棟

 下級生(1〜3年)と上級生(4〜5年)で分かれている。

 リーナが潜入したのは第一教室棟1階の一年生教室 。


 グラウンド

 競技トラックだけじゃなく、この世界ならではの競技の為の設備が設置されている。


 早朝開放制度

 王都の朝は早い。

 特に獣狩りや素材採取を生業とする「ハンター」たちは、日の出と共に街を出発する。

 そのため、中央学校は彼らの子供たちを預かる託児・自習施設として、授業開始数時間前から校門を開放している。


 この善意の開放制度が、皮肉にも魔人の襲撃時に「守るべき無防備な子供たち」を大量に戦場へ留めてしまう要因となった。



 Tags: #王都立中央学校 #惨劇の舞台裏 #カーテンの境界線 #魔王の土下座 #じゃんけんマン #変身点数は75点


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