022:一般少女は運動不足で走れない
022:一般少女は運動不足で走れない
SIDE リーナ
学校へ向かう石畳の道を、私はただひたすらに走っていた。
心臓が張り裂けそうで、肺が焼けつくように痛い。
それでも、足を止めるわけにはいかなかった。
子供達が、クロエが、そしてユリウスさんたちが危ないかもしれないのだ。
その想いだけが、私の体を突き動かしていた。
「はぁ、はぁ…!ちょ、ちょっと待って…!」
でも、日ごろの運動不足はそんな簡単に気力でねじ伏せられるように甘くない。
学校までの半分くらいの距離で、ついに体力の限界が来た。
私は膝に手をついて荒い息を繰り返す。
肩の上で、フェニックスが呆れたようにため息をついた。
「情けないぞ、リーナ!敵は君の息切れを待ってはくれない!」
こいつ、自分は私の肩でふんぞり返ってただけのくせに!!
「だ、だって、普段こんなに走らないもん…!そうだ!変身しよう!変身すれば、学校まで一瞬でつけるじゃない!!なんで気が付かなかったんだろう?」
私は左手の収納ブレスレットから変身デバイスを取り出そうとした、が、肩から飛び出したフェニックスに華麗なひよこキックで止められてしまった。
着地までスーパーヒーロー着地なのがなんかムカつく。
「ちょっと!何するの?」
フェニックスは私の抗議を無視して、真剣な声で続けた。
「変身は学校についてからじゃないとダメだ!バトルドレスの最終調整も僕の魔力充填も万全ではない。今回、君がアルカナ・フレアとして戦えるのは、せいぜい15分といったところなんだ!」
「じゅ、15分!?」
昨日戦った怪人くらいだったら15分も必要ないと思うけど、明らかに今回は雰囲気が違う気がする。
15分という時間制限に、私は無意識に生唾を飲んだ。
「あとこの際聞いておくけど、変身して髪の色が変わるのはしってるけど、見る人が見たら絶対私だってばれると思うんだ、顔を隠さないで良いの?」
ついでに、フェニックスに気になっていた事を聞いてみた。
「ふふふ、非常に非常に良い質問だ。答えは大丈夫だ!バトルドレスに認識阻害の術式が組み込まれている!たとえ知り合いが見たとしても、アルカナフレアや僕の姿の認識がリーナに繋がらないようなっているよ。」
ひよこはよく聞いてくれましたというように、ビシッと小さな羽をサムズアップした。
もしかしたらずっと聞いて欲しかったのかもしれない、大変誇らしく嬉しそうだ。
「これでアニメのどう見ても素顔バレ問題も完璧だ!!ちなみに、この機能を組み込むために、僕はダンタリオンという陰湿な魔王に筆舌に尽くしがたい身の毛もよだつ辱めを受けたんだ!」
ひよこの目の端に一粒の輝く涙が生まれた、よっぽどひどい事をされたのだろう。
目の前のひよこ魔王は、魔法少女にかける情熱だけは本物だ、ほんの少しだけ尊敬する。
「君に渡した魔法少女グッズは、文字通り僕の血と涙とプライドを犠牲にして出来た僕の半身と言っても差し支えない、超超傑作品なんだぞ!そこのところをよーく感謝して、今夜あたりからクローゼットにね…」
前言撤回、やっぱりこのひよこ油断できない!
私がにじり寄るひよこに渾身のチョップを叩きこもうとした次の瞬間、学校の方角からひときわ大きな爆発音が響き渡った。
ズガァァァン!という轟音と、立ち上る黒煙。
私の胸に、一気に鉛を流し込まれたような恐怖が広がる。
(もしかしてもう、みんなが…!)
「ちっ!思ったより事態は悪そうだね!!急ぐよ、リーナ!」
私は強く頷くと、学校までの残りの道を懸命に駆け抜けていくのであった。
◇
息も絶え絶えになりながらようやく学校にたどり着いたけど...
学校の周辺には人だかりができていた、入り口には警備隊の人たちが青い顔をしながらも、懸命に野次馬が中に入らないように頑張って仕事をしているみたいだ。
「どうしようフェニックス!これじゃ、私達も中に入れないよ!」
朝も早いのに大量の野次馬の人たちが集まっているみたい、これじゃあ中の様子も分からない。
人々の喧騒に紛れて校庭の方から何かの破壊音が聞こえてくる、一刻の猶予も無いのかもしれない。
「こうなったら変身よ!変身して、あの警備員さんたちをドーンと蹴散らして強行突破するしかないわ!」
私は半狂乱で叫びながら、再びデバイスに手を伸ばす。
「落ち着くんだ、脳筋少女!こんなところで変身したら、別の意味でパニックになるよ!」
フェニックスが私の頬を翼でペチペチと叩く。
「君はこの学校の生徒だろう? 警備が手薄な裏口とか、生徒だけが知ってる秘密の抜け穴とかないのかい?」
「はっ! そうだ、ある! 私が遅刻した時に使う給食室の搬入裏口!!あそこからなら入れると思う!! 任せて、あっちよ!」
私はフェニックスを掴んで、フェンス沿いに走り出した。
しかし、たどり着いたその小さな鉄扉もまた、無情にも太い鎖と南京錠で固く閉ざされていた。
「だめ、鍵がかかってる…!」
私は焦りながら鍵がかかった錠前をガチャガチャと震わせながら、フェニックスを見つめた。
「泣かないでリーナ。紳士たるもの、いついかなる時もレディの涙を拭くハンカチと……閉ざされた道をこじ開ける聖なるつるぎは常備しているものさ」
フェニックスが涼しい顔で、どこからともなく何の変哲もないヘアピンを取り出した、あのヘアピンには見覚えがある、たしか私のお母さんがセールで買って来たヘアピンだ!
「リーナ、まずは周囲を確認だ。誰かに見られていないかい?特に二階の窓や物陰に注意するんだ!」
「えっ?あ、うん…誰もいないみたいだけど」
「よし、クリアだね。ちょっと待ってて、10秒ぐらい周囲の警戒をお願い!」
フェニックスは低い声で呟くと、器用に片翼とクチバシを使い、ヘアピンを鍵穴に差し込んだ。
カチャカチャと微かな金属音が響く。
その手つき(羽つき?)は、熟練したベテランの空き巣のようだった。
その愛らしい見た目とのギャップに、私は眩暈を覚える。
カチャッ。
数秒もしないうちに、軽い音と共に錠前が開いた。
「よし!開いたよ!念のため指紋をふき取るのを忘れないでね!それと、プロは足跡を残さない。土の上を歩くときは踵をつけないように。できればそこの側溝のフタの上か、石畳の上だけを選んで歩くんだ」
フェニックスは何事もなかったかのように、開いた錠前を私に差し出し、まるで先輩が後輩に指導するように的確な指示を飛ばしてくる。
「フェニックス、なんか手慣れてない?」
(……この戦いが終わったら、一回警備隊に突き出した方がいいかもしれない)
私は本気でそう考えながら、ジト目でひよこを見下ろした。
「さあ、急ぐよ!痕跡は残さないでね!」
フェニックスは私の視線に気づかないふりをして、愛らしく小首をかしげると、さっさとフェンスの隙間をくぐり抜けていった。
私は釈然としない思いと、新たな不信感を抱えつつ、その後を追って校内へと駆け込むのであった。
■ Liner Notes
Track 22:世界観設定(World Setting)
【分類 / Category】
[33:魔導・技術理論] / [77:精神干渉系・超高位隠蔽魔術]
【名称 / Name】
バトルドレス拡張機能『認識阻害(Identity Mask)』
【機能概要 / Functional Overview】
物理的な変装ではなく、アルカナ・フレアおよびフェニックスという存在を、因果時空からの干渉で世界から「微細にずらす」機能。
これにより「認識できないのが当たり前」という理を世界そのものに刻み込んでいる。
そのため、対象とする世界にいる限り、魔術的・科学的な手段を問わず、正しく認識することは通常な方法では絶対不可能である。
【開発秘話 / Development Story】
「魔法少女がほぼ素顔であるにも関わらず、なぜ正体が露見しないのか」という魔法少女界の命題に対する、フェニックスなりの回答。
自身の権能に限界を感じた彼は、面識の薄い「認識阻害魔法の最高峰」魔王ダンタリオンに教えを請うた。
菓子折り持参で現れたフェニックスに当初は戸惑っていたダンタリオンも、そのあまりに偏った情熱に呆れ、そして感動し、協力を承諾したという。
代償と顛末
技術協力の代償は、フェニックス自身が「魔王級悪魔向け精神干渉」の実験台になることだった。何十もの契約により「最後の尊厳」こそ守り抜いたものの、実験後に植え付けられたトラウマは凄まじかった。
普段は彼の寝首をかく機会を狙っている大悪魔たちでさえ、あまりの痛々しさに数日間は優しく接したという逸話が残っている。
【隠し機能 / Hidden Feature】
変身デバイスに特定の裏コードを入力することで、あらかじめ登録した姿への偽装(変身)が可能となる。これはダンタリオンの助手の大悪魔の一柱がフェニックスの「ショタ姿」を過剰に気に入り、「お、お、お、お姉ちゃんに任せなさい!!!」という咆哮と共に勝手に追加した機能である。
Tags: #認識阻害 #バトルドレス #魔王ダンタリオン #ひよこ空き巣疑惑 #15分一本勝負 #報酬は半ズボン姿




