酒とメシで護衛を雇う
1
壁に貼られた紙には、こう書かれている。「めし…百五十円」「酒…三百円」「酒の肴…二百円」
その店は、古い木造の平屋で、周りに他の建物は無かった。看板には「園辺食堂」と書かれていた。
「いらっしゃい」
三輪がカラカラと戸を開くと、一人だけいた店員が声をかけ、小さなグラスに酒を注いだ。
「久しぶりだな、三輪さん。百年ぶりぐらいか?」
「久しぶりですが、百年は経ってませんよ、橘さん。あと、まだ何も注文してません」
「ここに居ると、外の時間の流れがわからないからな。その酒については、しばらく前に解子姫が持って来た。たまに来る客に少しずつわけてるから、気にせずに飲めばいいさ。いい時に来たな」
店の男、橘はひらひらと手を振った。三輪はグラスを持ち上げた。
「いただきます。……うん、うまい」
「で、今日はどうした?この店は、いろんな世界とつながってるが、用がない奴には道が開かれない。見たとこまだ、飢え死にしそうな程じゃないから、メシじゃない用があるんだろ?」
「……この酒飲んだら、このために来たでいい気もしますがね。ピピカドラグィラルについての情報を集めに来ました。……卜部さんが居れば、ご助力願いたいとも思ってましたね」
橘は、それを聞いて頷いた。
「ピピカドラグィラルなあ、お前のいる世界は大変そうだなあ。卜部……翠隼の奴は、じきに来るだろ。まあ、あいつは変な名前な上に、生活力が皆無だが、腕はあるからな。連れてきゃ役には立つ」
「変な名前って……詩人としての筆名ですよね?卜部翠隼って」
「いや、本名だな。『子どもの頃はカッコいいと思ってたが、今は恥ずかしい』とか言ってた」
「変な名はお前もだろ、雷電火」
店の戸が開き、真っ黒な髪の男が入って来た。
「おう、翠隼か。……俺の名前は、じいさんが相撲好きだったからなあ。江戸時代の力士、雷電を超えるようにとつけられた。じいさんの願いが感じられるから、気に入っている」
「そうだったな。三輪さんも、こんちは。元気かい?」
「こんにちは、卜部さん。急ですみませんが、手をお借りできませんか?」
卜部は少し宙を眺めてから答えた。
「んー、メシを食わせてくれるなら、話を聞こう。引き受けるかは、食いながら考えよう」
2
三輪は百五十円出し、卜部にメシを食わせた。そして事情を説明した。
「なるほど、ピピカドラグィラルか。あいつ、でかくてビカビカ光る目玉にジュゴンみたいな体つきだけど、竜族じゃ強いほうなんだよ。もし戦うことになったら、下手すりゃこの星ぐらい余波でくだけるね」
「なんとか説得して、異界にお帰り願えないものでしょうかね?」
「うーん、前にグィーさんに聞いた話だとニンゲン殺すのが生き甲斐みたいな奴らしいよ。多分、召喚した奴らも、そいつらが安心して信用した後で、ジュワッと蒸発させるつもりだろうね。だから、説得するのは難しいと思うよ」
「そうですか。ところで、グィーさんという方はピピカドラグィラルに詳しい様ですね。どういう方ですか?」
「グィーさんは、ピピカドラグィラルのライバルだね。邪龍グィグィラゲヴァーン、自然の守護者にして、ミミズから進化した強力な龍だ。見た目は黒くて巨大なミミズに、刃物みたいな角が生えた姿だね」
「ああ、グィーさんって邪龍グィグィラゲヴァーンですか。ミミズ型だったんですね」
「そうそう、土壌が汚染されたのに怒り狂って人類滅ぼそうとしてた時に会ったけど、話のわかるいい奴さ」
「……人類滅ぼそうとしてた? ……話のわかるいい奴?本当ですか?」
「うん、だって君らの世界にまだニンゲン生きてるだろ?土を守る存在だから、土を大事にしないと怒るだけさ」
「なるほど。いろいろ教えてくれてありがとうございました。あとは一度ピピカドラグィラルの実物も見たいんで、卜部さん護衛として来てくれませんか?」
「うん、今から酒を飲ませてくれるなら、君らの世界の時間で明後日から引き受ける」
一応は本作中では、竜と龍は権力者にとって都合が良いか否かで、字を使い分けています。曖昧ですが。
また、一般的な竜の形した竜も存在しますが、長くて凄い奴は竜族ぐらいな扱いです。




