デリシャス
1
「ブヒャヒャヒャ!良かったじゃねえか、これでお前は自由だぜ、ぶふぃ!」
「はあ……、確かに自由……ですね」
「そうだぜ。生きるために働くのに、働きすぎて死にかけてどうするんだ?ぶふぃ!」
「いや、しかし。収入なくても肩身が狭いじゃないですか。ダメな奴に冷たい世の中ですし」
「ダメな奴も何も、ニンゲンにダメじゃない奴なんかいねぇよ。なあ、ハナコちゃんにマスター?」
ゴッドは他のブタ達に意見を求めた。
「そうですね。ブタから見たら、ニンゲンは我々を喰うロクデナシばかりですかね」
「ニンゲンの社会で優秀だとか無能だとか、ブタ族から見たら誤差みたいなものよ?そもそも三輪さん、あなたニンゲンやめてるじゃない。気にしてどうするのかしら?」
「いやまあ、それはそうですが。一応は元ニンゲンですし」
ゴッドはやれやれといった風情で首を振った。
「チッ!まあいい。だがな、三輪。お前、実は明日朝から起きなくていいのが嬉しいだろう?」
三輪の肩がピクリと動いた。
「職探しはしばらくしてからにして、昼間から酒を飲めてラッキーとか思っちゃいねぇかい?」
三輪の肩が再び、ピクリと動いた。
「ソンナコト、ナイヨ?」
「なあに、答える必要はねえぜ。そうだなあ……他にも、社長の顔を見なくてすんでせいせいしたとか、旅にでようとか考えてんだろ?」
「ははは、なんのことやら」
三輪の肩が、今度はビクビクと動いた。
「まあ、それでいいんじゃねえか?一週間もすりゃ食うもんもなくなるだろう
がな、ぶふぃ。……で、だ。旅に出るなら、ちょっと頼まれてくれねえか?」
ゴッドは三輪をまっすぐに見た。相変わらず、悪い目付きである。
2
「五万人!?本当ですか?」
「ああ、本当だ。五万人のニンゲンが蒸発した。……多少は山奥の温泉なんかで見つかるかもしれないがな、ぶふぃ」
三輪はゴッドのおごりで、店で一番安い酒を飲みながら話を聞いていた。銘柄はワイルドピッグ、昨夜飲んでいたものと同じである。
「ええと、五万人も消えたわりにはニュースになってないですが?あと、山奥の温泉で見つかるって何ですか?」
「あら、三輪さん知らないの?ゴッドさんもそうだけど、神とか呼ばれる連中はトンでもない能力を持ってるのよ。ピピカドラグィラルだと、ニンゲン蒸発光線と記憶削除ね。」
「もっとも、対象に条件はあるがな、ぶふぃ。奴の能力は、社会の中でダメな奴とされる存在には無効だ。それとニンゲンにしか効かないな」
マスターもグラスを拭きながら、ゴッドの言葉に続けた。
「ニンゲン蒸発光線については、辞書で蒸発という言葉をひいてみてください。家出して姿を消すだの、人が行方不明になるだのといった意味もありますよ」
「行方不明の方がな、山奥とかで見つかることがあるんだわ。あまりギラギラ暑苦しくない奴らに多いぜ、ぶふぃ」
「……そういうことでしたか。ニュースにならないのも記憶削除のせいと。ではなぜ、僕にピピカドラグィラルの調査をさせたいんですか?」
ゴッドは、デリシャス残飯とメニューに書かれていた品を左前足でかばいながら答えた。
「だってお前、暇だろ?あと、このデリシャス残飯はやらんからな」
「いや、要りません。……マスター、前から思ってたけどメニューに残飯はいかがなものかと」
「ブタ族のお客様に、最も人気のメニューでございます」
「ぶふぃ、ニンゲンが滅ぶとこのメニューが無くなるから困るんだ」




