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今日ほど8月の酷暑がありがたく思えた時は無い。
潮でべたべたになったスニーカーがもう8割がた乾いており、洋服も着られる状態になっている。
ジャージはビニール袋に、ポケットにおじいさんの黄色い財布を押し込んで唯一の手荷物にした。
「ちょっと自販機行ってきます」
行きがけに見かけたジュースの自販機に行くふりをして外に出ようとする俺に「待った!」と彼女が声を上げる。
「こんな暑いなか外出るのは危ないし、それに男の子ひとりだと何があるか分からないから車出すよ」
「大丈夫ですよ。ここ来る途中にあったあの自販機なんで」
「さっきまで脱水になりかけてた子を不用心に外に出せません!」
そう言われてしまうと理解はできるが、俺のこの後の行動にはむしろ邪魔になってしまう。
「……じゃあせっかくならコンビニ行きたいです。アイス食いたいんで」
「アイスかあ、買い置きあったかな」
そう言って冷凍庫を確認すると「アイスないや」とつぶやいた。
「じゃあコンビニ行った後、警察まで送るよ」
彼女はそう言って車の鍵を手に取った。
*****
島にはコンビニもあるが、あるのは大手3社のみで中小規模のコンビニは存在しない。
なので島外のコンビニには全く知らない商品がいくつも存在していた。
(なんかワクワクするな、これ)
そんな俺の横で「何にする?」と聞いてくるので、ちょっと悩みながら手に取ったのはプライベートブランドのマンゴーソフトだった。
彼女の方はレモン味のかき氷アイスを手に取り、お会計を済ませるとイートインに腰を下ろす。
「島の外も大したことないでしょ?」
彼女がポツリとそんな事を口にする。
「どこに行ったって大して変わんないんだから、ちゃんと在るべきところに帰りな」
宥めるように俺に声をかける彼女に、俺はアイスを噛み締めながら窓の外を見る。
まだ知らないコンビニの商品、未知の景色と風景、そして話でしか知らない北国の雪。
そんな未知なるものへの好奇心を埋めるには、たった数時間の島外散策は短すぎる。
「……ちょっとトイレ行ってきます」
トイレに行くと、換気用の小さな窓が見える。
そこに体をねじ込んで外に出ていけば過酷な太陽が降り注いでいる。
駅はここから北に100メートル、今から走れば3分後の列車に飛び乗れるはずだ。
(悪いけど、俺はもっと広い世界に出ていきたいんだ)
あの人には悪いけどこの欲求はもう止まれない。
8月の酷暑の中をジャージとスニーカーで走り出すけれど、俺の事なんて誰も気にも留めていない。
今の俺を止めるものはもうどこにもなかった。




