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走り着いた駅の改札で、そう言えば切符をちゃんと買うのは初めてだな、と気づいた。
島はあまり大きくないから列車は走っていないかわりにバスが細かく回っているが、乗り降りは島民証をピッとするだけだから切符を買うという文化は無い。
切符の買い方は前に本で読んだから何となく記憶にある、とりあえずもうすぐ来る播州赤穂行きに飛び乗るため1番高い切符を買った。
初めて乗り込んだ列車は、横一列に並ぶ長い座席の向こうから海が見えた。
窓の外に知らない街並みが流れていく。
規則的に奏でられるレールの音とバスにはない独特の横揺れ、女性特有のほのかに甘い香り、弱めの冷房が肌を撫でる感触。
この列車の中は何もかもが俺の知らないものでできていて、その一つ一つが俺にはひどく新鮮だった。
俺は席に腰を下ろすこともなく、ひとりその景色を全身で味わっていた。
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播州赤穂のホームで、ひとりのお姉さんと目が合った。
「いた、例の子だ」
その一言で私服警官だと察した俺は咄嗟に視線を逸らして逃げ出した。
ホームを駆けあがって電光掲示板をチラ見で次の列車を確認すると、姫路行きは10分後になっている。
(10分間逃げ回って捕まらなきゃこっちの勝ちだ!)
列車の中で捕まえてくるという可能性もあるが、乗っていた感じだと列車はあまり広くなかった。
そんなところに警察がいたら騒ぎになることは目に見えているから多分やらないだろう。
播州赤穂駅はあまり大きくない、おそらく駅の外にも警察がいるので外には出られない。
俺を追いかけてくる警察官は5人くらい。
島にいた時よりはキツイが逃げることは割と得意だ。
追いかけてくる警察から逃れるためには自動改札を飛び越え、喫茶店の空席を蹴倒して妨害し、列車から降りてきた人の流れを壁にしてホームへと駆け降りた。
姫路行きの列車に滑り込めば、列車のドアが閉まった。
追いかけっこに勝てた喜びで小さくガッツポーズをすれば、乗客から不思議そうな視線が飛んできた。
大阪まではあと少しとなる。
おそらく素直に姫路で降りればまた警察が待ち受けているだろうから、相生から新幹線に乗れたはずなのでそちらに乗り換えよう。
大阪まで辿り着けば人混みに紛れられるはずだし、助けてくれる人と出会える予定なのだ。
逃げ回った苦労も日本屈指の大都市・大阪の景色への期待で帳消しだ。
さあ、次はどんな景色と出会えるんだろう?




