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大阪府大阪市、新世界と呼ばれるエリアの路地裏は揚げ物とアルコールの匂いが漂う飲み屋街だ。
その一角に鎮座する串カツ伝治という古ぼけた暖簾をくぐると、40くらいの女性店主がひとりで立っている。
「ニンベン屋さんのカレーはここですか?」
「……2階の1番奥にいるよ」
無愛想な女性店主の指示に従い、2階へ階段を登ってから1番奥の襖を開ける。
そこにいたのは縦にも横にも大きな40前後の女性で、汚れたメガネの奥から僕の顔を覗き込んだ。
「依頼の品なら出来てるよ」
彼女は無地の茶封筒を差し出してきたので「確認します」と言って封筒を開ける。
そこには女装した僕の写真と我妻美咲という偽名の身分証明書と、印鑑証明付きの実印が一本。
彼女はニンベンヤと呼ばれる公的証書の偽造を専門とする業者だ。
島を出る前にネットで連絡をとって依頼しており、今回ようやく初対面となる。
「これ、後払い分です」
後払い様に溜めておいたお金を差し出すと、彼女はその現金を入念に確認して小さく頷いた。
「後払い分10万、確かに受け取った……でもどうせならヌードで払って欲しかったけどね」
ネットのある界隈では男性のヌードや盗撮は高値で取引されており、足りなかった場合はそれでも良いと言われていた。
流石に知り合いの盗撮や自分のヌードを渡すのは嫌悪感が先に立ってしまって無理だったので、正直あの時お爺さんがお金をくれて良かったとは思う。
「ちなみになんですけど、この辺で食い扶持を稼ぐならどこか良いところはあります?」
「あいりんに行って日雇いに紛れるのが一番手っ取り早いだろうけど、バレたら即海外に売られるからあんまりおすすめはしないね」
事前に調べた内容と全く同じ事を告げられ、やっぱりかぁとため息が漏れる。
「ですよね。ここのお店って……」「人手は足りてる」
そう言い切られた後、何かを思い出した様に彼女は「あ」と小さな声を上げた。
「人手不足のせいで訳アリでも面倒見てくれそうな奴に心当たりはあるな」
*****
連れて行かれたのは夕方のなんば、大通りから少し外れたビルの4階だった。
「まだ開店前……って、どうした?」
声をかけてきたのは細身ながら筋肉質で、ピアスとタトゥーが多めの少し怖そうな見た目の人だった。
「前に相談されてた人手を紹介しに来た」
チラリと視線を向けると「か……じゃなかった、我妻美咲です!」と咄嗟に偽名を名乗る。
外で性別を誤魔化すためにつけた名前は我ながら明るくて良い響きだと思う。
「こいつはコータロー、このバーの店主でバーテンダーをしてる。見た目は怖いが腕利きのバーテンだ」
見た目は少しいかつくて怖い感じがするが、よくよく観察してみると男性でありながらバッジ型の許可証を身につけていない。
それに男性にしては小柄で声も高めだ。島で見かけるような男性ではなさそうだ。
「我妻さん、と言ったか」
「はい」
「酒は飲めるか?」
「あまり飲んだことがないので分かりません」
「包丁は使えるか?」
「魚を捌いて刺身や煮付けが作れます」
そう答えるとしばらく考えた後「わかった、今日から調理補助で入れる」と答えた。
「コータロー、住むとこも貸してやってくれるか?」
「……こき使わせてもらうぞ。いま契約書を準備する」
コータローさんがそう答えると、しばらくの暮らしが確保できた安心感でホッとため息が漏れた。




