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この島を出てほんとうの雪を見に行く。そんな計画が俺の中で決まってから半年が過ぎた。
俺は大学にも行かず労働もせず、毎日図書館で日本各地の地図や旅行本を眺めて過ごした。
男性保護の観点から労働の義務が免除されてるので、俺のような無労働者はこの島では少ないながら一定数存在するため大して珍しい事ではない。
ほとんどの男性は男性保護の観点から島から出られないはずなのになんで図書館に旅行本があるのか?と思っていたら、旅行に行けないからこそ代わりに旅行本を読んで旅気分を味わっているのだと司書さんが教えてくれた。
毎日のように本を読んでは脳内で脱出方法や移動ルートを組み立て、行ってみたい場所も絞り込んだ。
この国有数の大都市・東京と大阪、桜乃の生まれた街・弘前、そして俺と同じ名前を持つ日本最北の地・宗谷岬。
自分の出生時の資料によれば宗谷岬のある稚内は俺を産んだ母のいる街でもある、らしい。もしかしたら生みの母に出逢えるかもしれないと思うと興味が湧くのも止む無しだろう。
島外の生活についてはこっそり桜乃に相談し、僅かながら島外で流通する日本円も入手できた。
偽物の身分証明書を手に入れる方法やネットで調べて脳内に叩き込んだ。
あとは、脱出の日和を待つだけだ。
決行の日は8月、大潮と新月の重なり合う夜だった。
きょうは夜釣りに行くのだと言ってグループホームを出て、いつもの船溜まりへと向かう。
島外で流通する現金は小さな財布に入れたあとウォレットチェーンでつないで隠し持ってるが、普段使いの小銭入れや携帯はどうせこの先使わないからチェーンで繋がずに普通のポケットにしまっておく。
船溜まりに着くと、今夜の瀬戸内海は少し波が荒れている。理想的な夜だ。
(ああ、今日は理想的な脱出日和だ)
俺はミニボートで夜の海に漕ぎ出していくと、いつもより船が激しく揺れていく。
程よく沖合に出て、しばらく釣りをしていると波が一段と大きくなった。
大きめの波がガシャンと船にぶつかった時だった。
(今だ!)
高めの波で船から落ちた《《ふり》》をした俺は、海の底から光る夜の星を見た。
先輩も亡くなる直前に、こんな風に海から星を見たのだろうか?
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翌朝、俺は灯台のある突堤にたどり着いた。
海から昇る夏の朝焼けは暖かく、自分は生きているのだと思えて心底安堵できた。
脳内に叩き込んだ地図がここは島外だと俺に教えてくれる。
やっと俺はあの島から自由になれたんだと思うと、笑みがこぼれた。
この突堤をなぞって歩けば街に入れる。
この小さな漁村で少し体を休めよう。そこから俺の旅が始まる。




