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「知らない天井だ」
ポツリとそう呟いた後、自分の頭が痛い事に気づく。
(桜乃と自販機でジュース飲んでたら財布がなくて、それで財布を捜しに教室に戻って、それで桜乃の所に戻るときに突き飛ばされて……)
記憶を遡っていくと事情がだんだん呑み込めてきた。
頭に手を当てるとたんこぶが出来ていて、どうやら思い切り頭をぶつけて病院に運ばれたらしいという事も分かった。
近くで作業していた看護師のお兄さんが「あ、起きたんだね」と声をかけてくれる。
「病院ですか?」
「そうだよ、卒業式だって言うのに階段踏み外して落ちちゃったんだって?ついてなかったね」
片栗がそういう事にしたんだろう。
俺はあいつに突き飛ばされたのだが、そう言っても信じてもらえるのだろうか?と不意に思う。
あらゆる面で優れているエリートの片栗に対して、周囲から浮き気味の俺では言葉の信憑性が違い過ぎる。
「体調はどう?」
「まだちょっと頭痛いですけど、それ以外は特に」
「そっか。いちおう先生に確認してもらおうか」
看護師さんが先生を呼びに行き、1人になった病室で窓の外を見ると外はもうすぐ日暮れ時だった。
ベッド横のサイドテーブルに置かれたスマホを見ると液晶画面が割れていて、多分落ちた時に割れてしまったのだろうと察する。
桜乃に電話をかけると『大丈夫?』と第一声が浴びせかけられる。
「大丈夫、まだちょっと頭痛いけど……」
『階段から落ちたって聞いてホントに心配だったんだからね?まあ大丈夫っていうなら信じるけど……』
「俺、片栗に突き飛ばされた」
『はあ!?』
「突き飛ばされたときに片栗がいた気がするんだよな、見間違いかもしれないけど」
正直、片栗を見たのは一瞬だったので自信がない。
あの時別の場所に居たと強硬に主張されたら取り下げてしまう程度のあやふやな記憶だった。
『嘘……はつく訳ないか、宗谷だし。でももしそうなら片栗くんと離れた方が良いかもね』
桜乃はもうすぐ島を出ていき、俺はこの島で一人きりになる。
片栗がどの程度俺を憎んでいるかは分からないけれど、一人きりになった俺を放っておいてくれるとは思えない。
『宗谷も一緒に来る?』
俺を案じるように誘ってくる桜乃に対して、俺の脳裏によぎったのはある単語だった。
「……どうせなら雪が見たいな」
かつて桜乃が繰り返し教えてくれた北国の雪を見てから死にたいと思った。
もうこの島に居たってしょうがない。どうせ人はいつか死んで、海の底へと溶けていく。
それならば生きているうちに本物の雪を見てみたい、と思った。
近くから足音がする。病院の先生が近づいているのだろう。
「そろそろ電話切るな」
『宗谷が雪を見に行くんなら、応援するよ』




