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桜乃と共に教室の扉を開くと、周囲の冷たい視線が飛んでくる。
「海棠の奴また喜多見と登校してるよ、自慢か?」
「喜多見を独占しやがって」
この島で唯一の10代女性(少なくとも外見上は)である桜乃と登校するといつもこうなのだ。
だからと言って桜乃をひとりに出来ない理由もそれなりにある。
「おはよう喜多見さん」
爽やかな顔をして桜乃に声をかけたのは片栗智也かたくり・ともや、この学校において中心的な存在だ。
くっきりと整った顔立ちとすらりとしながらも筋肉質な体型を誇りながら、体力測定・学業成績・精子提供能力で常に上位を維持、すでに島外から優秀な人材として目をつけられている。
「今日も可愛いね、キスしていい?」
「そう言うのはちょっと……」
桜乃はこの片栗という男から熱烈なアプローチを受けている。
しかしそのアプローチはどこかねっとりとした重みがあり、桜乃に身体を寄せようとするついでに桜乃の胸部に腕を押し当てようとしている。
「そう言うのはよそでやれよ」
2人に割り込む形で桜乃から片栗を引きはがした途端、片栗の目が俺への憎悪に滲む。
「人の恋路を邪魔するなよ」
「片栗なら島外にいくらでもキスできる女は居るだろ」
普段女性と交流することが無いこの島だが、後世に残すべき良質な遺伝子を持つと判断された優秀な男性であれば女性との交流を持つことも容易だ。
相手の女性が直接この島まで貰いにきたり、特例で派遣される場合もある。
「お前と違ってエリートだしな」
「そんな事知ってる」
男性の減少が進む現代において精子は公共の財産だ。
公共の財産となった精子は機械で回収・冷凍されて全国の妊娠希望の女性に平等に譲渡される。
しかしどうせ命懸けで産むのならば良質な遺伝子を持つ男性の精子でという考えから、優秀な男性の精子を確保するため札束を積み上げるものも珍しくない。
ただし例外もある。日本では学業やスポーツで優秀な成績を収めるか芸術などに大きな才能があると判断された成人男性のスポンサーになる代わりに、スポンサーに優先的に精子を提供するシステムが存在する。
様々な面で優秀な片栗にはすでにスポンサー希望者がいるそうだ。
「それなら桜乃じゃなくてもいいだろ」
「俺の勝手だろ」
どこか不貞腐れたようにそう吐き捨てると、朝のホームルームを知らせるチャイムの音が鳴り響いた。
*****
「いつもごめんね」
卒業式の練習のための移動中、桜乃が申し訳なさそうにそう告げる。
「俺が勝手にしてるだけだから」
「おとなしく付き合っちゃえば楽なんだろうけどね」
桜乃が片栗を嫌いな理由はなんとなくわかっている、隙あらば体に触れようとするのが心底嫌なのだ。
どっからどう見ても嫌がってる友達をほっとけるほど俺は薄情にはなりきれない。
体育館の入り口で体育館履きを取り出すと、靴の中にきらりと光るものがあることに気づく。
念のため体育館の外で靴の中身をひっくり返すと中身は砕けたガラス片だった。
「また片栗くん周りの子かな」
「かもな、まあ気にしなくていいよ」
俺が桜乃とべったりな事に嫉妬する奴は多い。
この島で数少ない若い女性である桜乃に憧れ・好意・劣情を抱くものは多い。
そんな桜乃が一緒にいる相手がみんなが認めるエリートの片栗なら諦めがつくだろうが、特に秀でたものを持ち合わせていない俺なのが気に食わないのだ。
教員たちもこの島で生まれ育った男性として心情が理解できるのか、この事を黙認しているように思う。
「ガラス片取れた?」「たぶん大丈夫」
中のゴミがきれいに取れた体育館履きを履き、体育館の床を踏みしめた。




