1
瀬戸内の春は優しい春だ、穏やかな風と暖かい日差しの中に混ざる潮の匂い。
けれどもこの島で18回目の春を迎えた俺は、この優しい瀬戸内の春に正直飽きていた。
「そう言えるのは宗谷だけだと思うよ」
呆れたようにそう返すのは桜乃だ。
「そうか?」「そうだよ」
桜乃はこの島に来てまだ10年も経っていないからそう思うのかもしれない。
俺たちと違って島の外を知ってるから、きっとそう思えるんだろう。
「暖かくて居心地がいいから国立男性保護施設の島になったんだから、居心地がよくなきゃ意味ないでしょ」
桜乃の言うとおりだ。
男女比1:100で男性の生まれにくい現代、人類という種の保全には男性が必要不可欠。だから男性に最上の環境を与えてよい精子を作り、妊娠を希望する女性に提供する義務がある。
「でも、ここを居心地がいいと思うか狭くて退屈と思うかは俺の自由じゃん」
「……聞かなかったことにしとくね」
俺の言葉は聞く人が聞けば即説教からの反省文だ、それを聞かなかった事にしてくれる桜乃は良い奴だと思う。
「桜乃にとっても、そんないいとこじゃないだろ?」
俺と出会う前、桜乃は《《女の子だった》》。
生まれてすぐの時は生殖器の形から推定女性と判断されて女性として育てられた桜乃は、成長するに従い左右の足の骨格が全く違う成長を遂げていた。
生殖器も成長に従い明らかに男性のものに近しいかたちとなっていたことから、自分の体の異常を治してもらうため病院へ行った。
検査の結果、桜乃は左下半身のみが男性の性染色体を持つ女性・性染色体モザイクという診断を受けた。
さらに男性としての性機能もあったので女性として生まれ育ったはずの桜乃は、その日を境に男性になりこの島に連れてこられた。
「……否定はしないよ」
そんな桜乃と俺は不思議と馬が合った。
桜乃の口から語られる白銀の街や雪山はこの島では出会うことの無い景色で、俺の好奇心は間違いなく桜乃の思い出話によって育まれていた。
「卒業式、どうする?」
男性を保護するためだけに存在するこの島にも学校が一応あり、俺たちはもうすぐ高校を卒業する。
けれども俺たちがこの島を出ることは無い。
今や希少種となった男性がそこら辺を歩いていたら良くて痴漢・強姦などの性暴力・最悪誘拐からの性奴隷もあり得ると聞く。だからこの島に生きる男たちは原則この島から外に出ることは許されない。
(例外もあるけどハードル高すぎてなあ……)
一生この瀬戸内という優しい監獄で生きていかなくちゃいけないと思うと、心は酷く憂鬱になる。
「出ないとダメだよなあ」
「ダメだろうね」
「しゃあなし、行くかあ……」




