狂言回しの誤算
アタイは掃除を始める前に、瑞稀に着替えを促す。
制服姿で掃除なんてしたら、汚れるだろ? それに、瑞稀の私服姿を見たいしなぁ。
「ホラ。 瑞稀、着替えろよな!」
「え? ……別にこの格好でいいよ」
そういうと、瑞稀は部屋から出る。 まさか、瑞稀もアタイと同じ考えなのか?
渋々、アタイもそれに続いた。 リビングにある、服の山を凝視した。
ーーどうやら、リビングにあるのは、コイツの服じゃねぇな。 しゃねぇ。 コイツには、あんまし汚れない作業をさせよう。
そうして、掃除が始まった。 当然アタイは、テキパキと動いた。 まず、リビングのテーブル。 コンビニ弁当の空き容器、カップ麺、ペットボトル、菓子袋。 全部、ゴミ袋に放り込む。 燃えるゴミと、プラスチック、ペットボトルで、きちんと分別するアタイ。 さすがだぜ!
「燃えるゴミの日、いつですか?」
「⋯⋯知らない」
「プラは? ペットボトルは?」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯はぁ。 あとで、確認しておいてくださいね?」
「……どこに? どうやって?」
アタイは、ため息をつきながら、作業を続ける。 ソファの上の洗濯物の山を、洗濯機に放り込む。 白いもの、色物、デリケートなもの。 ーー仕分けをしながら。
「倉石さん、洗剤、どこですか?」
「⋯⋯」
「柔軟剤は?」
「⋯⋯柔軟剤って、なに?」
ーーこの少女、洗濯すらしたことがないらしい。 アタイは、内心舌打ちしながら、洗濯機を回し始めた。
「⋯⋯吉澤さん、すごいねぇ⋯⋯」
「……」
瑞稀は床に座って、アタイを眺めているだけだった。
「⋯⋯倉石さん? 手が止まってますよ?」
「⋯⋯どうしたらいいか、わからないし……それに」
「それに?」
「⋯⋯めんどくさいよぉ⋯⋯」
「ハア!?」
「吉澤さん?」
アタイの中の本性が、危うく顔を出しかけた。 しかし、グッと堪える。
「⋯⋯倉石さん。 じゃあ、簡単なお仕事をお願いします? このゴミ袋、玄関先に運んでくれませんか?」
「⋯⋯うー⋯⋯」
「お願いしますね? 倉石さん?」
「しょうがないな……運ぶだけなら……」
猫被りの優しい声で、ねっとりと頼む。 瑞稀は、しぶしぶ立ち上がって、ゴミ袋を引きずって運んでいった。
アイツ、この程度の作業すら、面倒くさがるとはな。
数時間後。 リビングは、見違えるように綺麗になった。 テーブルの上は、空っぽ。 ソファの上にも、何もない。 床にも、ゴミ一つ落ちていない。
「すごい⋯⋯うちのリビング、こんなに広かったんだぁ⋯⋯」
「⋯⋯当たり前ですよ、お掃除すれば」
アタイは、額の汗を拭った。 マジで、疲れた。 最後は、アイツの部屋だな。
「さて、倉石さん。 最後に、倉石さんのお部屋ですね」
「⋯⋯え?」
瑞稀の表情が、ピシリ、と固まった。
「⋯⋯私の部屋は、いいよ⋯⋯?」
「えぇ? でも⋯⋯倉石さんの服とか、あるでしょ? 着替えとか整理しないと……」
「別にいいから⋯⋯」
瑞稀は、急に、表情を曇らせた。 目を伏せて両手を、ぎゅっと握りしめている。
ーーお? なんだ、この反応は! そんなに私服を見られたくないのか?
「倉石さん? はわわ、遠慮しないでください? ここまで来たら、徹底的にお掃除しないと、ですよ?」
「⋯⋯でも⋯⋯」
「だって、せっかくお部屋がリビングだけ綺麗になっても、寝室が汚れたままじゃ、意味がないですよ?」
「⋯⋯」
瑞稀は、唇を噛んで俯いた。 アタイは、瑞稀の返事を待たずに、階段を上がり始めた。
「ちょっ、吉澤さん、待って⋯⋯!」
「ええっと……失礼しますね〜」
瑞稀が、慌てて後を追ってくるが、アタイの方が速い。 階段を駆け上がり、奥の部屋の扉を開ける。 ベッドがある。 学習机がある。 本棚がある。
しかし、衣服の入ったタンスに、ゲーム機の入ったクローゼット。 それらは全部、ガムテープで封じられていた。
ーーその代わりに部屋の中で、アタイに主張してくるモノがあった。 藁人形と、釘。 それだけじゃない、もっと色々なモノがそこには転がっていた。
アタイは知ってる。 これは呪物だ! それが、こんなにたくさんあるなんて、一体どうなってやがる?
「見ちゃった〜 見ちゃた? 駄目って言ったのに」
「……テメー」
後からやって来て、不気味に笑う瑞稀。 コイツ。 狂ってやがるぜ!
「なんなんだよ、これは……」
「……これで、アイツらを呪ってやるんだ……」
ーーアイツら? アタイが調べたデータに載ってた、瑞稀の因縁の三人組か。
「はわわ! お邪魔しました!」
アタイは、怯えた振りをして逃げ出すのだったーー
「……あれ? 帰っちゃった。 逃すつもりないけどね?」




