とある悪霊が人間だった頃の話
昔、とある村がありました。 その村では、理想の神・エターナルパーフェクトが信仰されていました。
ーーその男、平八郎もその一人でした。
その日も平八郎は、我が神に祈りを捧げるために集会所へ向かいました。
彼が着いた頃には、既に村人たちが集まっていました。
「おい、平八郎や。 おまえさんのとこの、お菊はどうした?」
「お菊は子の世話で忙しゅうござる。 何卒、ご容赦を」
「ほうか、それなら仕方あるまい⋯⋯」
平八郎に話し掛けて来た村人の一人が、正面へ向き直りました。
彼らが向く方向には、この村の象徴、エターナルパーフェクト様の像がありました。
村人たちはその像に向かって、その日も祈りを捧げるのでした。
「お菊! 戻ったぞ!」
「おかえりなさいませ、平八郎様」
「村の者が『お菊はどうした!』と申しておった」
「あら! みなさま、私の美貌に釘付けでしょうか? ⋯⋯でも私には、平八郎様がおりますから⋯⋯」
お菊は、平八郎の方を見ながら、クネクネとアピールをしていました。
「大方、祭壇に顔を現さないのを不満に思っているだけでござろう」
「平八郎様⋯⋯意地悪でございますわ」
「それよりも、小太郎はどうした?」
平八郎が尋ねると、お菊は拗ねながらも、寝かせている子供に視線を向けました。
「かわいいものよの。 まったく無垢というものは⋯⋯」
「⋯⋯平八郎様は、村の信仰についてどう思われていますか?」
「我らの神こそ、この世を統べる神そのものだ!」
「そうでございますか⋯⋯」
複雑そうな表情のお菊に、平八郎は気付きませんでした。
平八郎とお菊、そして小太郎。 三人が仲良く暮らす日々は、ある日突然終わりを告げました。
この村の信仰が邪教認定されたのです。 村には、遠くからたくさんの粛正者が襲来し、村を焼き討ちにしました。
「お菊! 小太郎を連れて、今すぐにここを去るのだ!」
「平八郎様はどうなされるのですか?」
「拙者は戦う! この村には、エターナルパーフェクト様がおられる。 神がおられる限り、引くわけにはいかん!」
「⋯⋯そんな! 私たちのことよりも、貴方は神の方が大事だというのですか?」
「お菊⋯⋯御免!」
「平八郎様!」
走って遠ざかって行く平八郎の背中を、お菊は涙を流しながら見つめることしかできませんでした。
平八郎は走りました。 目的地は集会所の神像ーーエターナルパーフェクト様のいる場所へーー
道中、道端で倒れた村の同胞たちと、焼かれた家が彼の視界に映りました。
ーー我らが何をしたというのだ! 我らはただ、神に祈りを捧げている辺境の民ぞ! こんな行為は、我らが神・エターナルパーフェクト様が許さない!ーー
平八郎は怒りに燃えていました。 その姿はまさに、悪霊のようでした。
そして、平八郎は集会所に辿り着きました。 像の前には、たくさんの人がーー
「貴様ら! 醜い手で、神に触れるな!」
「狂人だ。 粛正しろ」
その中の一人が合図すると、大勢の人が平八郎に襲いかかりました。
「⋯⋯! 此奴、出来る! ええい、者ども囲え!」
「グア!」
平八郎は群勢に囲まれて、滅多刺しにされました。 ーーしかし。
「何故だ! 既に体は動かぬはず。 ⋯⋯なのにどうしてコイツは動く?」
「⋯⋯体などただの飾り! 我は神の信徒なるぞ!」
「おのれ、邪神の使徒め!」
そして、戦場に残ったのは、たくさんの死骸と、今にも消えそうな一人の魂でした。
平八郎は、最後の力を振り絞り、像に近づきました。
この状況の中でも、その像はそこにあり続けました。 ーーその姿はまるで、彼を見守っているかのようにーー
そして、像が怪しく光ると、その姿を消し、そこには黒い影が生まれました。
「ハハハ。 エターナルパーフェクト様万歳!」
誰もいない場所に、不気味なほど、その声は響くのでした。




