エピローグ 二つの結末
川端ことねにより、倒壊した理想学園。 建て直し後の始業式、登壇には新生徒会長ーー倉石瑞稀が立っていました。
「⋯⋯前生徒会長の川端ことねは、この学校の生徒たちの自由を奪った、私達にとっては罪人です。 ⋯⋯しかし、私は思いました。 彼女は孤独な一人の女性だったと。 ⋯⋯もしかしたら、構って欲しかっただけではないかと⋯⋯」
倉石瑞稀の発言を誰もが、黙して聞いていました。 「そんな訳がない、アイツは唯の悪役女性だ」と、思う者もいましたが、なぜか彼女の冷徹な顔を思い出していました。
ーー川端ことねの顔はいつも悲しそうだったと。
「⋯⋯私があの時、なんとかしていれば⋯⋯私はわかっていたのに⋯⋯」
復帰した保健室の先生ーー今川幸子が呟く。
彼女を昔から知る者として、もっと彼女に構ってあげればよかった。
でも私は当時、あの子といた頃の記憶を思い出したくなかった。
最愛の彼との別れを思い出してしまうから。 ーー私は、すべてを忘れる様に、我が子のことだけを考える日々を送った。
思い出したのは、彼女の顔を見た時ーー入学式の演説の時だった。
「本当に、私は駄目なお姉さんね⋯⋯」
帰り道、湊と彩乃はお互いに、なにも言えずただ歩いていた。
ーーただの孤独な一人の女性⋯⋯か。 ⋯⋯俺は、なにやってたんだろな。 いつも、近くにいたじゃないか! なぜ、気付かなかったんだろうーー
「湊。 仕方ないわよ。 川端ことねは、湊に対して酷いことをしていたわ。 少なくとも湊は充分頑張ったわよ⋯⋯そう、そのはず……」
「彩乃。 ありがとう」
二人はまるで、孤独を埋め合うように抱きしめ合うのでした。
しかし、励ます存在のはずだった、彩乃の精神はすでにすり減っていました。
この後、彩乃と湊は、過去を忘れるように寄り添い合いながら生活するしかありませんでした。
このことを、川端ことねの呪いだと言うなら、その通りなのかもしれません。
◇◇◇
後夜祭の後、合流したことねは、彩乃にこう言いました。
「文化祭が終わってめでたし、ね彩乃? さあ、成仏の時間よ」
「はぁ、成仏? なんで私が成仏するのよ」
「え? だっているんでしょう……二人の貴方が。 『私』は成仏したわ。 彩乃も成仏しよ?」
ことねは、今にも泣き出しそうな表情で彩乃を見ますーーまるでこれからお別れをするみたいに。
「ことね? 二人ってなに。 光になって空に消えた?⋯⋯なによそれ?」
「だから、ね。 大人しく彩乃に体を返してあげて……」
「嫌よ! 私は私なの! せっかく覚醒したのに!」
「もう。 ⋯⋯湊も説得して。 体を返してって」
「そんな話、知らないわよ! なによ! 私は消滅しないわ!」
彩乃は逃げるように帰っていきました。 残ったことねと湊は笑いました。
「彩乃はまだ別れたくないみたいだね。 しょうがないな⋯⋯」
「まあ、焦ることもないさ。 それよりも帰ろうぜ!」
二人は手を繋いで帰り道を歩くのでした。
夜。 彩乃は自分の部屋で悶々としながら、鏡に向かっていました。
「え? 二人? 私は二重人格なの? そうなの私? 答えなさいよ私! 知らない振りをしないでよ! 私!」
そんな様子を、舞香がことねと連絡を取りながら、見ていました。
「ことねお姉ちゃん。 またお姉ちゃんが一人でぶつぶつ言ってるの」
「もう、困るよね。 ⋯⋯私も頑張って説得したんだけど、彩乃が全然言うことを聞いてくれなくて、多分ね今、もう一人の自分と会話しているんだよね」
「この前も『右手が疼く』とか『覚醒したこれが私だ!』とか一人で騒いでて、心配だよ」
「大丈夫。 私がなんとかするから、安心して舞香」
「ありがとう! ことねお姉ちゃん!」
ことねは、舞香との電話を切り、夜空を見上げる。
ふと、鏡に視線をやると鏡の中には私がいた。
「ありがとう『私』。 これからは、私だけで頑張るからね」
「ことね! ご飯だぞ!」
「うん。 湊、大好き」
「俺もだよ、ことね」
「ねぇ、湊は私と『私』どっちの私が好き?」
「⋯⋯意地悪な質問だな。 両方に決まっているだろ!」
「ありがとう、湊。 私、嬉しいよ『私』を肯定してくれて」
ことねは、湊に抱きつくと静かに涙を流すのでした、それを湊は黙って受け止めます。 そして、二人は結ばれたのでした。




