さよならことね
ことねは語りました。 この理想学園で起こりえた、とある可能性の話をーー
「⋯⋯という話なんだけど⋯⋯」
「スケールデカ過ぎだろ! なんだよ世界存亡って!」
「そこは作者に文句言ってよ!」
一通りの話をしたことねは、少しだけスッキリした気分でした。
「⋯⋯なあ、その作品の川端ことねは、どうなったんだ?」
「召喚のための供物になって、その後のストーリーには二度と登場しないよ。 あくまでも、本人はだけどね……」
ことねがそう言うと、湊はことねを強く抱きしめました。
「湊⋯⋯ちょっと強すぎ! 痛いって」
「ことね! 大好きだ! 俺は絶対にお前を離さないからな!」
夜になり、星が見え始めた空を、二人は微笑みながら見るのでした。
「⋯⋯あれ、もうこんな時間だよ! そろそろ行こっか!」
「ことね⋯⋯俺、思ったんだけどさ。 俺たち幸せだな!」
「そうだよ! 原作のことねが知ったら、怒って暴れるくらいね!」
そう言いながら、ことねは目を瞑ります。 姫様ーー本来のこの体の主が、真剣な表情で俯いているイメージが浮かびました。
すると、湊は考えを口から出すように言いました。
「……どうしてことねは無事なのかな?」
「酷いよ! 湊は私に邪神になって欲しいの?」
「いや、単純に気になっただけだよ……」
湊はことねの顔を見つめました。 ことねは、顔をぷくぷくさせていました。
「悪霊の声ね⋯⋯ずっと聞こえてた。 実は、夜にこっそり祠にも行ったよ!」
「え! ⋯⋯おいおい。 なにやってんだよ!」
「ごめんね。 だけど、札も触らなかったし、それに多分、悪霊は私の体には入って来れないよ!」
「⋯⋯それは、どうして?」
「ふふ、だってここには既に二人、いるんだもん!」
湊は視線をことねに向けました。
ことねはーーいいえ。 姫様は話を続けました。
「物心ついた頃から違和感があったの。 心が二つある気持ち。 私が孤独だって思っている時に、『そんなことないよ!』ってもう一人の私が囁くの。 それが当たり前だとずっと思ってた」
姫様は、湊を見つめました。
「でもね、わかったわ。 私の心にいた、もう一人も、私だって」
「前世の記憶を思い出した日のことか?」
「ええ。 ⋯⋯だからそろそろ、私とはさようならなんだ⋯⋯」
湊はギョッとした視線をことねに向けました。
「さようなら? それはどういう?」
「勝手に体に入ってごめんなさい! 迷惑だったよね? 私はそろそろいなくなるから、私と楽しくやってね!」
「⋯⋯おいおい。 さっきからよくわからないぞ! 『ことね』は『ことね』じゃないか!」
「ありがとう! それが、私の聞きたかった言葉だよ! ⋯⋯さっきは全然答えてくれなかったもん⋯⋯さようなら」
そう言うと、ことねの体から、小さな光が出てきました。 それは、上に向かって飛んで行きました。
二人は、それが見えなくなってもしばらく見つめていました。
「よし、じゃあ行こう」
「⋯⋯おいおい。 結局なにも変わってないような気がするんだけど?」
「……私は私の影響を受け過ぎたみたい。 だってあっちは前世の記憶ありだよ 最近まで、記憶がなくたって、長生きしてるのはあっちだし、性格も引っ張られるわよ。 ⋯⋯湊はこんな私、嫌い?」
「大好きだよ! 大好きだ!」
こうして、二人だけの静かな文化祭が幕を閉じるのでした。
◇◇◇
『⋯⋯もう、いいのですか? 川端ことねーーいや、OOOOさん』
「貴方は! まさか? 神さま!」
『エタナと申します。 瑞稀につけていただきました』
「エタナ。 ふふ⋯⋯瑞稀ちゃんらしいな⋯⋯彼女に伝言お願いしてもいい?」
『はい。 どうぞ』
「⋯⋯⋯⋯」




