ことねと湊、二人の時間
これは、生徒会選挙前のクラブを設立した当時の話ーー
「のんびり推活部ってさ、男が湊しかいないよね!」
「困っちゃうよな本当に⋯⋯」
「⋯⋯好きな女がたくさんいるから?」
「はぁ? ことね、なに言ってるんだ?」
「彩乃ちゃんに美羽ちゃん。 そして、みずちゃんもいるからね! ⋯⋯え! もしかして、今川先生も対象なの?」
「俺を、恋愛ゲームの主人公みたいにするな!」
「ふふ、じゃあ一番大変な、ハーレムモードに挑戦してみない?」
「ことね、なに言ってるんだ! 俺は⋯⋯」
「湊の攻略、楽しみにしてるからね〜」
「おい! 待てよことね!」
ーーごめんね湊。 突然あんなこと言っちゃって、迷惑だよね。
ことねは心の中でそう詫びていました。 本当は、湊がハーレムなんて目指すつもりがないと、ことねにはわかっていました。
でもことねは、これ以上堪えられなかったのでした。 湊が他の女と話している時、ことねはいつも笑顔でした。 みんなと話す時も笑顔でした。
ーーでも、ことねの心の中はいつもドロドロしていたのです。
美羽の本心を曝け出した時もーー
「⋯⋯ことね、意地悪ですわね、近くにいるなら声をかけてくださっても⋯⋯」
「うん。 私ね、美羽ちゃんが喧嘩して、傷ついて泣いてる所をずっと見てたよ」
「ちょっと、酷いではありませんの。 なにかおっしゃってくださいまし!」
「ふふ、だって美羽ちゃんの泣き顔、かわいいもん!」
「ことね! サディストなんですの! ドン引きですわ⋯⋯」
そう、ことねは意地悪でした。 美羽が泣いている所を見て喜んでいたのです。
でもことねは、湊にだけは、そう思われたくありませんでした。
いつも、楽観的でニコニコしている『川端ことね』でいたいからでした。
だから、一番じゃなくてもいい、自分のことも愛して、と。
ことねは願っていたのでした。
「おい! ことね! しっかりしろ!」
「⋯⋯湊」
「さっきから、俯いて⋯⋯お前らしくないぞ? いつも元気だろ?」
「そうだよね、いつも元気⋯⋯うん⋯⋯」
湊はそんなことねを見ると、突然、ことねをお姫様抱っこしました。
「⋯⋯え。 湊! 恥ずかしいよ! みんな見てるし!」
「そんなことはどうでもいい! 静かな場所に行くぞ⋯⋯」
「ねえ、降ろしてよ。 自分で歩くから⋯⋯」
「嫌だ! 俺は今、ことねを抱っこしたい気分だから。 ⋯⋯なんだよ、いつもは抱っこされて嬉しそうにしているのに⋯⋯」
「それは⋯⋯今日は駄目なの、恥ずかしいから⋯⋯」
湊とことねは、人気のないベンチに座りました。 ことねはモジモジしていました。
「おっと、お手洗いに行きたかったのか?」
「違うよ! そう、これは違うの⋯⋯」
しばらくの間、二人は視線を合わせないまま沈黙してしまいました。
先に口を開いたのはことねでした。
「⋯⋯さて、気持ちも落ち着いたから、文化祭もっと周ろうよ! 体育館とかみずちゃんたちが、楽しいイベントをして⋯⋯」
「俺は行きたくない⋯⋯ことねのそばに居たい」
「湊? どうしたの? ⋯⋯そんな態度じゃハーレムモード失敗だよ!」
「ことね⋯⋯俺は、お前が好きだ!」
「⋯⋯あ、うん。 ありがとう」
「いいや、お前はわかってない! 俺がどれだけことねのことが好きなのかを!」
湊がことねを正面からしっかりと見つめました。 ことねは、視線を泳がせました。
「え、いや。 そんなことないよ! 湊は私の幼馴染だし。 毎日一緒に暮らしているから、それ相応の仲だよ! うん」
「⋯⋯そうだ。 俺たちは、小さな頃からずっと一緒で、お前のことをいつも見てきた⋯⋯だからわかる。 ⋯⋯入学式の前日のお前の様子が変だったこともな」
湊は最初から気づいていたのでした、ことねの変化に。
「彩乃と美羽に話してる時の、お前の視線もな。 ⋯⋯ずっと、俺の方を見て寂しそうにしてただろ。 ⋯⋯なに呆けた顔してるんだ、言っただろ⋯⋯俺はこんなにもお前のことを見ているんだ。 ⋯⋯だから話せ、お前の抱えていることをな」
ずっとこちらを見つめる湊に、ことねは悩みながらも打ち明けるのでした。




