始まる文化祭
理想学園の文化祭当日。 珍しく瑞稀が校門に立っていました。
「いらっしゃいませ! 理想学園文化祭へいらっしゃいませ!」
瑞稀は校門から、入場する人々に挨拶をしていました。 会場の準備で忙しく生徒たちもいましたが、だいたいの生徒は、のんびりと文化祭を周るだけなのです。
そんな中、瑞稀は一人で校門を潜ろうとする少女に、声をかけました。
「いらっしゃいませ、お嬢様! 小学生には、迷子になりやすい学校ですから気をつけてくださいね!」
「はい? 誰が小学生ですって? 私は中学三年ですけど!」
「⋯⋯え。 これは、失礼しました!」
瑞稀は彼女の目線まで屈んで、謝罪しました。 その時、中からーー黒田陽介。 前生徒会長が現れました。
「おいおい、凛。 倉石がなにかしたのか?」
「お兄ちゃん! ⋯⋯こちらの女が、私のことを小学生って馬鹿にするの!」
「黒田さん! ⋯⋯違いますよ! 馬鹿になんて⋯⋯」
「すまない。 凛は、俺の妹なんだ……」
「そうであらせられましたか!」
瑞稀は気がつくと、土下座のポーズになっていました。
「ふん。 まあいいわ、今日は許してあげる。 ⋯⋯それにしても、この学校の生徒の教育はどうなっているのかなぁ? これも⋯⋯生徒会長が悪いのよ」
グサ。 やめて、私に大ダメージだから。
「こら、凛。 そんなことを言ってたら駄目だぞ。 ⋯⋯倉石さんも、立ち上がってください」
前生徒会長に、言われて立ち上がった瑞稀に、凛は睨んで来ました。
「貴方、生徒会長の駒? ⋯⋯だったら伝えておきなさい! 来年度はこの私が生徒会長になるから⋯⋯貴方はせいぜい首を洗って、待っとけ⋯⋯てね! ふん!」
言うことを言い切って、満足したのか。 凛は、陽介とどこかへ行ってしまった。 瑞稀はしばらく固まっていました。 そこへ、ひとみがやって来ました。
「あわわわ。 倉石さん、文化祭が始まりますので会場へ!」
「ありがとう! はわわさん」
「……『は』なんて言ってねぇのに、なんではわわなんだよ、ざけんじゃねぇぞ」
ひとみの呟きは、喧騒の中に溶けて消えました。
文化祭の開会式。 校長が不服そうな表情で前に立ちます。
「はい、校長です。 以上!」
それだけ言うと、名残惜しそうに場所を後にする校長先生。 可哀想にーー
その代わりに、ニコニコした瑞稀が登壇しました。
「続きまして。 文化祭、最初のプログラム! 全員一斉じゃんけん大会を行います。 ⋯⋯いきますよ! グ! ⋯⋯はい、パーを掲げてくれた人のみ、次に進みます⋯⋯」
何回もじゃんけんを繰り返した結果ーー 残ったのは、ことねと彩乃でした。
「じゃんけん大会最後決戦! 川端ことね選手VS桐原彩乃選手の対決だ! ⋯⋯果たして、優勝するのはどっちだ!」
「⋯⋯なんなのかしらこれって?」
「負けないよ! 彩乃ちゃん! 私が勝つからね!」
「⋯⋯私なにをしているのかな?」
「なに言ってるの? 彩乃ちゃん! 最後決戦だよ!」
彩乃としては、本来あり得ない世界線。 悪役令嬢の川端ことねと、ヒロインの桐原彩乃が呑気にじゃんけん勝負なんてーー
「頑張れ二人とも!」
「さすが、湊! 両方を応援するんだね!」
「え?⋯⋯違う! ことね頑張れ!」
「ねえ、湊が頑張れだって! ⋯⋯彩乃ちゃん、悔しいでしょ?」
「あんなハレーム野郎どうでもいいんだけど⋯⋯」
「頑張れ! 彩乃!」
「健太!⋯⋯別にアンタに応援されても嬉しくないんだからね!」
「あれ? 健ちゃんが好きなの? ⋯⋯ライバル多いけど大丈夫?」
「うるさい! アンタには関係ないでしょ! さっさと構えなさいよ!」
こうして。 トラブルはありましたが、文化祭が始まるのでした。
ーートラブルの内容が知りたいですか? でも、今回の物語は、川端ことねに取り憑いた、とある彼女の物語。
この文化祭で起こる暗躍は、彼女には関係ないのだからーー




