大怪我? 大丈夫、私が守るね!
病院の一室に慌てて駆け込む桐原舞香。
病院に運ばれた桐原彩乃の話を、病院の担当医から電話で聞き、学校を早退してから慌ててここまでやってきました。
病室の中に入り、目的の人物を見つけ、彼女は驚愕の表情を浮かべます。
そこにはベットに眠ったままの桐原彩乃。 頭には包帯が巻かれていました。
「⋯⋯お姉ちゃん? 寝てるだけだよね? ⋯⋯最近頑張っていたから、そうだよね⋯⋯ねぇ、起きてよ!」
いくら彼女が呼びかけても、桐原彩乃は反応しません。 頭を包帯で巻かれている以外は、体に異常は見当たらないようですが。
「⋯⋯桐原彩乃は、体育祭の練習中の生徒が投げたボールに、あたったようです。 ⋯⋯その時の反動で彼女はのけぞってしまって。 ⋯⋯倒れた時の、頭の打ちどころが悪かったのでしょう⋯⋯未だに目を覚ましません⋯⋯」
突然聞こえた男の声に、桐原舞香は慌てて声がする方を向きました。
「え! 貴方は誰ですか? ⋯⋯いつからここにいましたか?」
「⋯⋯ずっと前から⋯⋯。 ⋯⋯高坂湊です⋯⋯」
高坂湊は、抑揚のない声で、彩乃が倒れるに至った経緯を舞香に伝える。 しかし、話ている最中も視線は朧げで、意識を感じません。 そのことに、不気味さを感じる桐原舞香。
「⋯⋯ことの経緯は以上です⋯⋯」
「はい、ありがとうございました」
「⋯⋯では失礼します⋯⋯」
「え? ⋯⋯いっちゃった」
高坂湊はそう言うと、軽く頭を下げて、病室を去って行った。 その様子はまるで生気を感じませんでした。 病院に残った彼女は、姉の手を握りました。 そして祈ります。
早く目を覚まして! 私を一人にしないで! 彼女の涙が彩乃の手にこぼれますが、姉は目を覚ましませんでした。
ーーこの二人に理想の加護があらんことを。
◇◇◇
昼休み、クラスの騒がしい声が聞こえる中、机を向かい合わせて座ることねと彩乃。
ことねは彩乃にニコニコと微笑んでいます。
「それでね、甘くてとても美味しいんだよ! 今後一緒に食べに行こう!」
「⋯⋯そうね⋯⋯」
楽しくおしゃべりすることね。 それに、対して彩乃はどこか元気がない様子でした。 今日は朝からずっとこの調子。 心配になったことねは、彩乃に話しかけます。
「どうしたの彩乃ちゃん? 入学式初日のカラ元気はどこにいったの?」
「⋯⋯そうね⋯⋯」
彩乃が浮かない顔をしているのは、ある理由がありました。
桐原彩乃にとって今日が、重要なターニングポイントだったのです。
原作では今日、彩乃が頭の怪我により、病院に運ばれる日。 そして、しばらくの間目を覚まさなくなるそうです。
その後、なんとか意識を取り戻しリハビリをした結果、彼女は学校へ再び通うことが出来るようになるのですが、そんな彩乃を待っていたのは、変わり果てた『理想学園』でした。
「それでねチョコメロって言うんだけど知ってる? 名前の通りチョコレートメロンパンモチーフなんだよ! いつも怒った表情なんだけど、本当はとっても甘えん坊なんだよ! ⋯⋯彩乃ちゃんは転生者だから、知ってるよね?」
「⋯⋯そうね」
「⋯⋯駄目ね。 彩乃には私たちの声が、まったく聞こえてないわよ⋯⋯」
彩乃は恐怖を覚えていた。 きっと当たる瞬間は、死ぬほどに痛いのではないか? 原作と同じ展開になったら、舞香を悲しませることになる! 学校を復帰した後はどうなってるの? そもそも、本当に気絶だけで済むの?
彩乃は最悪な事態を想像していた。
「それでね湊に言ったの! 月が綺麗だね! 大好き! 味噌毎日飲みたいって! そしたら『味噌汁以外も美味しいだろ』だって! まったく、 湊は私の告白をスルーしてくれちゃって~」
色々なことを考えては頭を振る彩乃、気付くと体が震えていた。 落ち着かなきゃ! 彩乃は立ち上がった。
横で彩乃の様子を見守っていることねは、驚く。
「うお! ⋯⋯どうしたの彩乃ちゃん! ますます、調子悪くなってるじゃん! しょうがないな〜 また保健室で一緒に添い寝する? なんちゃって! 彩乃ちゃん? どこ行くのかな⋯⋯」
よろよろと教室の外に出ようとする彩乃。 その時、彼女の視線の先にボールが!
そのボールは真っ直ぐ彩乃の方に向かってきます。
彩乃は目を閉じます、やがてくる痛みに耐えるために。 しかし、しばらくしても痛くありません。 彩乃は恐る恐る目を開けるとーー
「校内でボール遊びなんて低俗だわ。 今すぐ犯人を退学処分に⋯⋯もう少しで彩乃ちゃんに、当たるところだったんだから~ 気をつけてないと駄目だよ!」
「え! ⋯⋯川端ことね!」
「うん、そうだよ? 突然フルネーム呼び? ってどうしたの? 彩乃ちゃん!」
「ありがとう!」
気がつくと彩乃は、ことねに抱きついていました。 最初は驚いていた、ことねも彩乃を抱き返します。
一方、犯人である男子生徒は、トボトボとやってきました。
「すまん、⋯⋯まさかあんなに、遠くに飛ぶとは思わなくて⋯⋯」
「おい! もう少しで、ことねに当たるとこだったぞ! 注意しろよ!」
「すまん、高坂⋯⋯ことね様、本当に申し訳ございませんでした!」
「⋯⋯あ。 今のあいつらには聞こえてないから、また後で謝ってあげてくれ」
そばで二人の様子を見守っていた、湊はそう言うと、ことねと彩乃を見つめます。 ーーよかったなことね、いい友達ができたな!
校内でボール遊びをしていた二人組。 彼らは湊に謝った後、教室へ戻っている途中でした。
そこへ、三つ編みツインテールの女子生徒が近づきます。 彼女は後ろから近づき、ボールを投げた生徒の首を締め上げ始めました。
「⋯⋯オイ。 神子様にボールを当てたのはテメーだな! よくも、ふざけた行為を、恥を知れ!」
「ゴ、ゴフ!⋯⋯」
「お、お前は吉澤ひとみ⋯⋯神子様ファンクラブ代表⋯⋯ヒグ」
「アタイを知っているのか? ⋯⋯じゃあ、どうなるか、わかるよなぁ?」
二人の生徒が秘密裏に処理されたのは、誰も気づかないようです。
ーー吉澤ひとみ。 出番があってよかったですね。




